「お読みいただけたかたならおわかりでしょうが、この巻はいささか中途半端な所で終わります」(森岡浩之@あとがき)

 がー、本当にそうだよ。

 この巻だけでは感想書きづらいよ、というかこの巻だけでは感触としてはイマイチ。全部が全部“タメ”の巻なんだもん。読者としては1冊に1クライマックスを期待してしまうんですが、超長編構想の作品ともなるとそうもいかなくなってきますか。

 とりあえず、

 「ともあれ、大雑把に夢想したストーリーのなかで前半のクライマックスになる予定の話が次の巻に登場する予定です」(森岡浩之@あとがき)

 の森岡先生の言葉を信じて次巻を期待して待ちつつ、一応の以下、ネタバレ感想です。



<以下ネタバレ>

 わたしはいったいどうしたいのか、と自問しているかのようにジントの目には映った。

 星界シリーズの魅力、テーマを一言で言うなら、「宇宙はこんなにも広大なのに、私という人間はここにしかいないし、居場所はここにしかない」だと思って僕は読み続けているのですよ。重層な宇宙観の描写が映えれば映えるほど、そこに浮き彫りになる「個人」の輝き、「個人」の居場所探しの深さが増してくる、そういう物語構造を取ってこれまで話が進んできたと思います。

 で、これまでの「個人」の居場所探しはジントの居場所探しだったわけですよ。なんですが、ジントの居場所探し物語は、早くは「紋章」シリーズのラストで「ラフィールの側にいる」と示唆されて以来、前巻のジントの領土のエピソードで本格的にアーヴとしてラフィールのそばで生きていく、そこを居場所とするしかないという状況にジントが置かれる……という流れを描くのを通して、もう本格的に「アーヴ貴族としてラフィールの元で生きる」で帰着したものと思われます。今回も印象的な一文が挿入されておりました。

 もはや彼はアーヴ貴族として生きるしかないのだ。他に居場所はない。

 やはり、彼の物語は一区切りついたものと思われます。

 で、今巻辺りから、次はラフィールの居場所探しに本格的に話が移ったんじゃないかと僕には思えます。果たしてひたすら皇帝を目指す道をラフィールは選ぶのか、それともその他の生き方があり得るのか?

 そんな文脈でラフィールの対比要因として、同じく皇帝候補でラフィールの弟のドゥヒール君掘り下げ話が開始ですよ。この展開で、今まで漠然とラフィールの覇道物語になりそうだった星界が、分からなくなってきました。ラフィールが最終的に自分の居場所と定めるのがどこか、必ずしも皇帝の玉座かどうか分からなくなってきたと思うのです。

 伏線は張られています。「絆のかたち」で語られた、アーヴの3つの生き方という価値観。「翔士としての生き方」、「交易者としての生き方」、そして一番大事とされた「親としての生き方」。そして星界のもう一つの一大テーマ、ジントとラフィールの寿命差のある恋愛物語という制約恋愛物語の帰結。「そなたの遺伝子が……」のおそらく最クライマックスで描かれるであろう、アーヴの告白……果たして、ラフィールが選ぶ自分の居場所は?中々、興味深い展開になってきましたよ。

◇とにかく、伏線張り、タメで終わった感のある1冊でした

 冒頭の葬儀の場面とか、「絆のかたち」以来続く死生観(しいてはジントとラフィールの恋愛物語の帰結とも関わる)のテーマを今後も掘り下げる伏線なのか、ドゥヒールに示された覇道への道は、ラフィールのカウンターとしてなのか、とかその他いっぱいです。
 そして、それらが今巻では一つも解放されることなく、次巻へ。うう、本当に次巻が待ち遠しい、フラストレーションがたまる繋ぎですよ、今回は。

◇唯一ニヤニヤしなが読めたのは

 アトスリュアの出番が多かったこと。このキャラ好きなんですよ。

 「ある種の宗教的概念なのかもしれないけれど、あたしには理解できない。もちろん、理解できないからといって、異文化を否定するほど悪趣味じゃないけれど、このフェブダーシュ男爵ロイが初代司令官を務めるこの戦隊では永久に禁止する。信仰上、せずにおられないというのであれば、隠れてやって、いいわね」

 「私はいつだって自分を道楽者と見做してきたわ」

 この言い回しが好きです。

 とりあえず、アトスリュアの台詞に喜びつつ、次巻を期待して待ちたいと思います(^_^;

 「(次回は)『今回はあまりお待たせせずにすみました』と後書きに書けるのではないか、と……。これを書くのが夢なのです。」(森岡浩之@あとがき)

 ゆ、夢にしないでくれると信じてますよ!


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