「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」

 ってな感じで、日本の中学生80万人が日本を脱出(エクソダス)して新共同体を作るというお話。

 僕は2001年の発売当初のハードカバーで読んだもんで読んだのは随分昔のことになるんですが、先日のガンダムSEED DESTINY第14話の主人公らの国家(オーブ)脱出っぷりを見てフと思い出したんで紹介。

 あんな感じの、様々なしがらみの中で色々とできないことが多い人達を尻目に、自分達の価値観を全うするためにそんなしがらみだらけの共同体を脱出していく話に燃えを感じる人にお薦めの一作。

 DESTINYの場合はアニメなんで、そうまでして国(オーブ)を脱出しなければいけない理由の描写はわりと簡単な描写だったんですが、こっちのエクソダスの方は村上龍が書いてるだけあって、経済やメディアの知識に裏付けされた濃密な背景描写を基軸に、この国(日本)のシステムに捕らわれていては閉塞してしまう、代案としては脱出するしかない……という展開に納得感を与えています。脱出の燃え文法をもう少し大人向けの硬質なテイストで味わいたい人向けです。

 国の閉塞感の要因の一つに、コミュニケーション不全をあげている辺りも、SEEDとピコっと重なります(エクソダスの方が早い作品ですが)。

 「日本人みんなが、何か共通のイメージっていうか、お互いに、あらかじめ分かり合えることだけを、仲間内の言葉づかいでずっと話してきたってことなんじゃないかな。その国の社会的システムが機能しなくなるってことは、その国の言葉づかいも現実に対応できなくなるってことじゃないのかな。」(由美子)

 この辺りのテーマをSEEDと絡めるだけでコミュニケーション論に関するピコ考察文が書けそうな、がっつり魅力的なテイストでこの素材を扱っています。「僕もキミもコーディネーターだから……」という共通のイメージの中だけでコミュニケーションを取ろうとしてすれ違ったアスラン→キラから物語りが始まって、共通のイメージを脱却した上での1レベル上の対話、コミュニケーションが和解をもたらしたという帰結に落ち着く例のSEED話を今にしてみると想起させられるような由美子の台詞です。

◇作中には

 難解な経済用語やメディア用語、果てにはカオス理論まで出てきますが、別にその辺りは理解できなくても十分楽しめます。話の味付けの衒学程度に割り切っちゃってもOKくらいに。

 2002年が舞台なんで発売当時は近未来小説だったんですが、今となっては過去小説ということになってしまいますが、その辺りはご愛敬で、楽しむために大した支障はありません。

 ひとつ、今週末は私も日本を脱出してみようかというあなたにお薦めの一冊です(^_^;


希望の国のエクソダス
村上 龍
文春文庫
定価:¥ 620
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