2005年01月20日

機本伸司『神様のパズル』/感想/角川春樹事務所


 「その前に、一つ教えて欲しい」穂瑞は、相理さんをはじめとする、作れない派の顔をじっと見つめた。「我々がここにこうしているのだから、ここに最低、一つの宇宙はある。誰が作ったか知らないが、恐ろしく頭のいい奴だろう。意外とクールな奴かもしれない」

 「宇宙とは人間に作れるものなのか?」

 この究極の難問を解くには、宇宙の原理を、神のパズルを解かなければならない。挑むのは不登校の天才美少女と留年寸前の落ちこぼれ学生の「僕」。対話を重ねながら神のパズルに立ち向かう二人が最後に辿り着いた答えとは?

 と、大まかなあらすじだけで心を鷲づかみにされて購入した一冊。いやね、もうスゴイ。燃え狂いました。

 燕。さんの紹介記事を見て読んでみたんですが、とんでもない一冊を紹介されてしまいました。新年一月目から、強烈にヒット。去年読んでたら去年の活字部門ベストが入れ替わってたのでは……という勢いです。

 創造主に挑む。

 ありがちな話なんですが、何故にこうも燃えるのか。これはきっと普遍的に人間が持ってしまっている一つのサガ。

 ファンタジーな世界を舞台にはよく描かれる話なんですが(創造主がラスボスだったりね)、現代劇で、物理学を通して素でこの宇宙を作った創造主に正面から人間が挑む物語を描いたこの話は熱すぎます。

 創造主の作中での呼称は「彼」ですが、これは村上和雄氏の諸論評では「サムシンググレート」なんても呼ばれてる概念で、現代の物理学、生命科学なんかでも言及されることしばしば。そういう書籍も色々と読んでいた僕としては、ちょっとハマり過ぎ

 というか、僕もアカデミックに生きてた頃は、「どうして人間言語の根底部分はこうも美しく設計されているのか?」と「彼」のパズルに挑んでるふしがあったので、自分の経験上からも、僕、主人公達に感情移入し過ぎ

 最終的に、落ちこぼれだった「僕」が天才少女穂瑞と共闘しながら神のパズルに挑む日々を通して「保障論」という一つの卒論を書く所で帰結してるんですが、そこに至るまでを「理論物理学」と「農業」という一見相反する属性の素材の対比構造を通して描いているのがステキです。農業ですよ、田植えしたりするんですよ。全然神のパズルを解くのに関係なさそうなのに、最後にピタリと収束しているのが美しい。

 また、キャラ萌え、というか穂瑞燃えで読めちゃうのもお得な一冊。プログラミング能力デフォルト実装の天才少女です。『星虫』の氷室友美とか、『ステルヴィア』の片瀬志麻とか好きだった人にはお薦めかも。

 そんな感じで、今年最初のディープにお勧めしたい一作でした。




神様のパズル
機本 伸司
角川春樹事務所
価格:¥ 1785
Amazonで購入


 以下、ちょっとだけネタバレ感想。
◇穂瑞の

 「自分」を知りたいから「宇宙」が知りたいという動機は、カッコいい。カッコいいし、とてもよく分かる。三田誠広なんかが折りにふれてコメントしてる内容とマッチします。疑問の矛先をどこまでも拡大して「宇宙」にまで広げると、不思議なことに「自分」に帰ってくる。少々哲学的で難しいんですが、僕にも経験ありーです。

 また、本作のスゴイ所は作中創作ではありますが、一応宇宙の原理に関して理論的に描いてる点ですね。これはもう、よく考えたなと、感激した次第です。ベクトルは違いますが、三田誠広の方では絶版の傑作本『デイドリーム・ビリーバー』にて、同じく「宇宙」に関して、こっちは理論的にというより文学的に解答を描いていたり……

 そんな感じで。昔からそういうトピックの小説を読んで楽しんでた僕としては、「宇宙」が一つのテーマになってる本作は恐ろしくツボでしたわ。機をみて、じっくりと再読したいと思います。

 また、やっぱラストがいいよね。理論的な解答は解答としてちゃんと描いておいて、理論とは違う「裏解答」みたいなのに田植えの大団円のシーンで気付くのがね。

 綿さんが

 それより新米を口にした時、ふと僕は“閉じた”と感じた。これまでしてきたことが全部つながって、それが今、閉じた――

 と感じる部分と、橋詰老人が「こういうことか……」と悟るシーンね。

 それまで穂瑞の言動からはネガティブ扱いだったおばあさんの存在をグっとポジティブに裏返しつつ……本当に、いいラストでした(^_^;

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この記事へのコメント

1. Posted by 燕。   2005年01月20日 19:58
燕。です、こんにちは。
ぬおお、あいばさん『神様のパズル』読まれたんですね、なんかめちゃめちゃ嬉しいです。
また文中ご紹介頂きありがとうございます。
ハードカバーしか出てないし、それほど話題にもならずマーケティング的には失敗している本作ですが、実際隠れた名作ですよね。
宇宙を創ることができるのか?
少しでも宇宙に興味を持ったことがある人ならば、気にならずにはいられないテーマですが、そのテーマから保証論へ辿り着くラストは今でも心に残っています。
また物理と農業の対比によって全てを知っていることが大事なのではなくて、何が大事なのかを知っていることが大事かということに辿り着いていく手法は見事だなと。
最後にキャラ萌えでお勧めしてくるとは思いませんでした(笑)。
#でもそれはアリです。
2. Posted by あいば@管理人   2005年01月21日 02:26
本屋なんかではまったく見かけないんで、売れてるか売れてないかと言えば多分売れてない作品なんですが、自分にとっては強力にツボな作品でした。そういうのが見つかるのもお気に入りサイトやブログで嗜好が合いそうな人のお勧めをチェックしてるが所以です。でもって、燕。さんの紹介記事で手に取ったコレはジャストミートでした。宇宙、一時期興味ありーで、相対性理論、他、のとっかかりだけ勉強したりした経験もあったりで、「神様のパズル」はのめり込み指数が高かったです。

物理学と農業の対比はステキでしたね。超近代施設の中に取り残された農地という最初の設定提示段階で、あ、これはステキな対比を見せてくれそうだと感づいて、あとはぐいぐいと引っ張られるままに読んでいけました。

>キャラ萌えでお勧め
いやー、プログラミング&天才少女……辺りは既に開拓されてるキャラ萌え造形の一つかなーなんて思いまして。
3. Posted by りりこ   2006年09月27日 17:07
はじめまして。
TB頂いたかと思うんですが、どうもブログをバージョンアップした途端、投稿もTBも何もかもが反映されなくなってしまいました…。DBにはちゃんと登録されているようなので、復旧次第反映させて頂きます。

それにしても、あの穂瑞でさえ「萌え」足り得るんですねぇ。見識不足でした。
4. Posted by あいば@管理人   2006年09月27日 17:24
>りりこさん

どうも初めまして。

TBは送って頂いた方に軽い気持ちで返してるだけですので、システムの都合上やら何やらで消えてしまっても僕は特に気に致しませんので、軽く考えて頂いて結構です。

「萌え」は漠然とした概念だと思うので、見識によって当てはまるかの判断がどうこうというものでも無いように思います。僕はちょっとばかし萌え要素ありのライトノベルベクトルの狙いを感じましたけど。表紙イラストとか。
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◇奈須きのこ『空の境界』◇

 一話ごとに、「俯瞰」、「痛覚」、「矛盾」、「記憶」、そして表題「空の境界」といった概念を濃密にテーマとして絡めて煮詰めきってるのが凄まじいです。一話一話が高密度であるだけでなく、全話を通してみると、それはそれでしっかりと一本通った伏線、テーマが縦軸として存在すという美しさ。概念云々だけじゃなく、ストレートに切なさが残留する恋愛小説としても読めます。初読で満足できず、繰り返し読み返す類の作品です。

空の境界 上 (1) (講談社文庫 な 71-1)
空の境界 上 (1) (講談社文庫 な 71-1)

空の境界 中 (2) (講談社文庫 な 71-2)
空の境界 中 (2) (講談社文庫 な 71-2)

空の境界 下 (3) (講談社文庫 な 71-3)
空の境界 下 (3) (講談社文庫 な 71-3)

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