終わっちゃった。

 和月先生も好きだと巻末コメントで明言していた『G戦場ヘヴンズドア』で鉄男が『俺達の挽歌』の終了に涙したシーンのような心持ちです。

●最終話「BOY MEETS BATTLE GIRL」/武装錬金感想

 「オレがみんなを守るから 誰かオレを守ってくれ……」(カズキ)

 高々と信念を掲げて頑張ってきたカズキが、堰が切れたように等身大の男の子らしく弱さを見せているのにウルっときました。どんなに強い信念を掲げようとも、カズキは崇高な宗教家でもなんでもなく、メンタルな部分は日常から飛翔しない「少年」主人公でした。そんな弱さも併せ持った「少年」の拠り所として最後に帰着するのはやはりヒロインの「少女」です。

 「キミのコト 少し気に入った」(斗貴子)

 といった程度の関係から開始した出会いから始まって、命がけで守り守られ、再殺部隊編での、

 「キミが死ぬ時が 私が死ぬ時だ!」(斗貴子)

 までの関係へ、丁寧に二人の関係性構築過程が描写されてきた作品でした。打ち切り最終回にあたりとにもかくにも帰着させるにはこの二人の関係のラストを描く以外にあり得ませんでした。

 この不器用な、カズキと斗貴子さんがというより和月先生が不器用な恋愛描写。なんだか温かさを感じさせてくれました。打ち切りは残念ですが、温かい読後感を残してくれる結びでした。

◇さりげなくちゃんと最終話に盛り込まれて帰結させられてた2つの武装錬金のテーマ

 1/再殺部隊編のテーマ

 再殺部隊編のテーマは、「敵−味方」概念のシャッフルでした。剛太の、

 「どっちが本当の化物だ――…」(剛太)

 から始まり、ホムンクルスを食らう戦部と人食いを断つパピヨンとの対比、現状では「敵」である再殺部隊にカズキがかける情け、そして大きくは「敵」ポジションにいるヴィクターの正当性など。

 結局このテーマの帰結はカズキ−剛太の関係性のラストで表現されました。カズキ自身が言った、

 「守りたいモノが同じならきっと必ず 戦友になれる」(カズキ)

 から始まっての、剛太の根来戦での

 「お前、戦友はいるか?」(剛太)

 の燃え台詞。そして今回最終話で剛太自らの口から、

 「守りたい者が一緒なら 俺達は戦友だ」(剛太)

 と、カズキの口から出た言葉をリフレインさせることで、この「敵−味方」のテーマに、守りたい者が同じなら戦友(味方)と結論づけました。「ヴィクター(現在のカズキ)」だとか「人間」だとか関係ない。表層的なモノを無化するステキな帰結だと思いました。

 2/『武装錬金』全編を通してのテーマ

 これは「守る」です。

 ブラボー戦のサブタイ「大事な存在を死守せんとする強い意志」に凝縮された、「守る」という強い信念です。

 かつては『るろうに剣心』でも描かれたおそらくは和月先生の普遍的なテーマで、奇しくもラストに原点に回帰するという手法まで『るろうに』とかぶせて締められていました。

 『るろうに剣心』は第二百二十四幕「真実」が全てです。身も心もボロボロになった剣心の心に、燕の懇願とオイボレの語りで、

 「出来るのは一つ この目に映る人々の幸せを一つ一つ守るコトだけだ……」

 「剣一本でもこの瞳に止まる人々くらいならなんとか守れるでござるよ」

 と、「守る」という、今までの物語の隅々で描かれていた剣心の原点=真実が木霊します。

 この「真実」が、『武装錬金』における「信念」と非常に近い。『るろうに』の、

 「…君の心の弱々しい迷いと裏腹に 君の手は強く握りしめて離さない……大事なものを失って…身も心も疲れ果て…けれどそれでも決して捨てることが出来ない想いがあるならば 誰が何と言おうとそれこそが君だけの唯一の真実――」

 と、『武装錬金』の、

 「善でも!悪でも!最後まで貫き通せた信念に 偽りなどは何一つない!!」

 は、「決して捨てることができない=貫き通す」、「真実=信念」が「守る」ことだという点でシンクロしています。

 その「守る」信念に、『るろうに』と同じように原点回帰しながら(「あの時の気持ちは今だって変わらない むしろより強く――…」)、

 「守りたい――…」(カズキ)

 のラストシーン。

 『武装錬金』は夢追い物語でも愛と正義の物語でもなく、守人(まもりびと)賛歌の物語でした。しつこく、愚直なまでにそのテーマを描き続けました。僕はこの作品が大好きでした。

●雑想

 蝶野編が終わった時の感想で書いた、「まあ打ち切られちゃったりしても、序章が宿す作品としての良さは変わらないですし。」という自分の言葉が、実際に打ち切られてしまった今でも変わらない僕の心境です。

 手塚治虫の『火の鳥』、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、埴谷雄高の『死霊』など、未完でも傑作と呼ばれる作品は世の中に沢山ありますし、また僕にもその良さは分かります。このように打ち切りで未完成品としてのラストを迎えてしまったとしても、あの折々の感動は本物ですんで。蝶野編ラストの「すまない蝶野公爵」(蝶野編の僕の感想はコチラ)、早坂姉弟編ラストの「まだだ!!あきらめるな先輩!!」、etc、全て本当に良かったと思えるシーンなんで、これから先も何度も『武装錬金』の単行本は読み返すと思います。私的に心に残る、2年間本当に毎週楽しませてくれた、本当に好きな漫画作品でした。


武装錬金 1 (1)


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