前々回のSEED-DESTINY記事のコメント欄で、ぐらすさんからDESTINYに『ジバング』や『08小隊』のような価値観描写を求めるのは「『NARUTO』に『カムイ伝』的な価値観描写を求めるようなものではないでしょうか。」というコメントを寄せて頂いたんですが、日頃僕が思っていたことにいい感じに関係しているコメントなんで、便乗してショートコラムです。

 やっぱいますよね、『NARUTO』は深い哲学も自然主義的な「忍び」の描写も無いからレベルの低い作品で、それにくらべて『カムイ伝』は深くてスバラシイ作品だ……的な理屈で『NARUTO』的な作品の方を貶めようとする人。さらにはなんで一般人はそういう「深さ」が無い作品を支持してるのか!みたいな感じで自分を一段高く置いて、それに比べて「深さ」がある方の作品を理解できる自分は有標で高尚だと思い込んでいる人。挙げ句の果てに『NARUTO』の作者を糾弾し始めるようなタイプの人です。

 そういう人に対して僕が答える答えはいつも同じで、それは「『NARUTO』は作者としても意図的にエンタメな味付けをしている作品であって、多くの人に気軽に楽しんで貰えるようにそういう工夫をしている作品はそういう作品でスバラシイ」です。

 特に作り手にまで言及して糾弾する場合はね、ある程度作り手の意図を適切に受け取った上で批判しないと説得力が生まれません。作品という媒介が間に入ってるんでボカされがちですが、基本は人一人対人一人のコミュニケーションと同じです。相手の意図をまるで汲もうとせず、一方的に自分解釈で批判をバラまく人ははたから見ていてもみっともないですし、実際にコミュニケーションを取る相手としても嫌われます。

 この場合の相手(作り手)の意図というのは、作品にエンタメな味付けを施してるという意図ですね。エンタメな味付けというのは、大衆が気軽に楽しめるようなポップな味付けというような意味です。実際に食品に例えれば、栄養はともかく気軽に楽しめるファーストフードのハンバーガーに施されてる味付けみたいなもんです。

 で、作ってる人はファーストフード的な気軽に食べられる食品を指向して作ってるつもりなのに、そのような作り手に対してハンバーガーは栄養が無いだとか、芸術的じゃないとか大真面目に批判してる人というのは、ちょっと大衆が気軽に楽しめるハンバーガーはハンバーガーなりのイイ点があることを見無さ過ぎというのがあります。自分がハンバーガー嫌いだからって、ハンバーガー自体を否定してしまうというのは、ハンバーガーも芸術指向の料理(例えば懐石料理)も両方存在してるからこそ彩りがあるこの世界を楽しんで無さ過ぎ。

 『美味しんぼ』にハンバーガーを軽視していた海原雄山がハンバーガーなりの素晴らしさを認め直して雄山としても一歩成長する話なんかがあるんですが、『カムイ伝』の視点から粘着に『NARUTO』を糾弾するようなタイプの人は、成長前の海原雄山って感じです。視野が狭い。もうちょっとハンバーガーを作る人のハンバーガーを作る人なりの情熱を理解することにも自分の労力を割いて、ハンバーガーと実際の料理、両方のタイプが相互作用しあってトータルな食文化というものが形成されていることに目を見開くべき。

 ただ、勿論、やっぱファーストフードだけ食べていては栄養が偏ってダメというのはアリます。僕的には、アニメ、漫画なんて媒体は基本的にファーストフードベクトルの媒体だと思ってます。摂取しやすいけど、それだけではダメ。やっぱ本を読んだり新聞見たり、実際に人に会って話をしたりと、ちゃんとした料理も食べないとどこか不調をきたしてしまう。

 そう考えると、DESTINYはちゃんとした料理への「繋ぎ」が張ってあるファーストフードって感じじゃないかと僕は思ってますね。ファーストフード=エンタメの味付けをして戦争物エンタメとしての大衆層を意識しつつ、それをきっかけとしてちゃんとした料理=戦争についての思索……まで繋がってくれればいいなみたいな。作り手の意識としては、そういうモノを感じます。実際、今月号のガンダムエースに掲載されてる竹田青滋氏のコメントを始め、いくつかの媒体で公になってる制作サイドのコメントを参照すると、「戦争について考えるきっかけになって欲しい」という想いが作り手としてあることが共通して分かります。

 原作、マスヤマコムさん、漫画、浅井信悟さんの『M.I.Q.』というマネー知識を題材にした漫画があるんですが、この漫画に対しても実際のマネーの世界はこんなんじゃないとか、サラリーマンをバカにしてるとか、そういう作り手の意図を無視した糾弾をネット上で見かけたことがあります。

 そういう批判に対してもまた、僕は「いや、『M.I.Q.』も『お金』に関して考えるきっかけになって欲しいという意図を込めたエンタメ味付けの漫画だから」と言いたくなってしまいます。

 で、実際にマスヤマコムさんのサイト何か見てみると、『M.I.Q.』はあくまでエンタメを意識してるから、実際の現実での講義ではちゃんと普通に働くことの大事さを教えてるよーみたいなことが書いてあるんですね。

 この、ファーストフード的なエンタメ味付けで大衆に見て貰いつつ、実際の料理=本当のマネー本や実際のマネー運用に関しても興味を持って貰いたいという意図。

 『M.I.Q.』の発想元になっている書籍に『金持ち父さん貧乏父さん』が一つあると僕は思ってるんですが、エンタメな入門として『M.I.Q.』を読んで「お金」に関して考えるきっかけを持って貰って、後は実際に『金持ち父さん貧乏父さん』みたいな本に進んで見識を深めていって欲しい……そんな感じの意図ですよ。

 DESTINYもコレと同じだと思いますね。エンタメな味付けもしてあるDESTINYでまずは「戦争」に関して考えるきっかけを持って貰って、後は実際の「戦争」に関する書籍なり言論なりに進んで考えることを続けていって欲しい、そういう意図で作られている作品だと思いますね。あくまできっかけ作りとしての作品で、これ自体で世の「戦争」に対して実際的な主張を強力にしているというワケではまったくない。戦艦で祖国からエクソダスかまして戦時に介入するのが正しい(アークエンジェルのことね)と主張している作品ではまったくない。そこをくみ取れずにいちいち作中の登場人物の行動をそのまま制作者サイドの主張だと受け取って「実際の戦争では云々……制作者は分かってない」と批判してる人は、前述の成長前の海原雄山と同じベクトルで色々見えていない人だと思いますね。視野が狭すぎ。色々と考える際のフィールドをアニメや漫画に限定し過ぎ。

 以上、次なる「深み」へと進んで貰うきっかけになればイイなという意図でエンタメな味付けをしてある作品に対して、「深み」が無いと批判することの非生産性を考えてみたコラムでした。僕的にはファーストフード的なエンタメ味付けと実際の料理的な「深み」とがミックスされてる作品の魅力にもっと多くの人が気付くようになってくるといいなと思っていますね。エンタメな味付けを見極める能力、これは、楽しんで色々な創作作品を鑑賞していく上で絶対に持っていて損は無い能力だと思います。

◇言及作品

・『カムイ伝』

 白土三平氏の大作歴史劇画。がっつり哲学しながら歴史モノを読みたい人向けのかなりガチな作品。僕は小学生の時に読んで「自由」について考えさせられました。されど、カムイの必殺技、「変移抜刀霞斬り」と「飯綱落とし」のカッコ良さは超絶モノだったり。僕的カッコいい必殺ワザベスト10に入ります。その辺りではエンタメベクトルも入ってると言えます。


カムイ伝 (1)

・『M.I.Q.』

 「お金」の知識を題材に送る、エンタメベクトルのマネー漫画。全3巻と読みやすいのでお勧めです。ローソク足の見方など、「株」に関する基礎知識も何気に勉強できてお得です。ただし全てを真に受けてこの漫画を自分のマネー観の全てにはしてしまわないこと。記事中で言及した通り、順次活字のマネー関係本に進んで知識をつけていくのをお勧めします。でも漫画としては面白くて僕は好きだった。3巻のカフェテリア経営に関して高校生3人が奮闘する様が好き。


M.I.Q. 1 (1)

・『金持ち父さん貧乏父さん』

 有名ベストセラーですが、やはり読んでおくべき。ここに書いてある負債と資産の違いを意識するだけでだいぶ「お金」に関する感覚がイイ方向に変わってきます。他、全体的に「金持ち父さんイイこと言ってるなぁ」という気分に浸れる警句集的な意味合いも含めて手元に置いておきたい本です。


金持ち父さん貧乏父さん


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