「あなたはそう考えてきたから、ここまで来ることができたの?」(七瀬)

 清々しく読了。

 両親の離婚がきっかけで母方の故郷に近い「町」に引っ越してきた主人公(少女)。家庭にも町にも違和を感じながら過ごしているんだけど、そんな時に一人の少年と出会い……という、とってもスタンダードな純愛系の少女少女物語。主人公の感じてる違和には結構重い背景があるんだけど、死生観とか存在論とか難しい領域までは踏み込まず、比較的ライトな部分で最終的には消化してるのが読みやすかったです。

 一昨日感想書いた『桜の下の人魚姫』よりも世界観作りがレベルアップしてるように感じます。少女が引っ越してきた「町」の情景描写が複雑な少女の心境も絡めながら立体的に描かれていて、そこに本当にそういう「町」があって少女らが暮らしてるかのような雰囲気を味わえましたよ。「町」の味付けとしてやたらと「町」の郷土史みたいな話が序盤に出てくるんですが、伏線だろーなー、伏線だろーなーと思ってたら、しっかりと後半で繋がったのも心地よかったです。

 メインの恋愛部分は、少年側の心情が『桜の下の人魚姫』よりも分かるなーという感じ。あとがきでも作者が触れている通り、どっちも「生きることへの執着をなくしている男の子が、女の子への愛情によって生きたいと思うお話」なワケですが、『桜の下の人魚姫』では彗の心情にそれほどコミットできなかったんですが、今回の育世にはコミットできた感じ。本人的にはOKでも、端から見ると随分ペシミスティック+アンニュイみたいな微妙な思想を抱えてるヤツなんですが(最終的にそこから変わっていく話なんだけど)、そんなちょっとばかしマイナスベクトルに映る思想もひっくるめて主人公がまるまる自分のことを肯定してくれたから好きになったというのは分かる気がします。『マリア様がみてる 妹オーディション』の「マリア様の星」から引用すれば、

 「あの時、私が見ていた物は全て幻だって言われていたら、たぶん私は救われなかったと思います。幻だったものは、私の想いです。ずっと抱いていた想いを否定されたら、……心を否定されるのは、それはとてもせつないことだから」(可南子)

 って感じ。あとあと考えれば自分でもネガな心情、想いだったとしても、それをひっくるめて肯定してもらえるというのは、なんというか救われます。思春期の少年が少女に惚れる理由としては十分に納得のいくものでした。

 あとは、僕も読書好きの同級生の女の子と読書話で盛り上がりながら青春過ごしたかったよ。男子校だから無理だったよ。男友達と『魁!!男塾』の話とかしながら過ごした青春時代だったよ。


勿忘草の咲く頃に


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