2007年08月18日

ツバサ/20巻/感想/CLAMP/マガジンコミック

 「みんなで4分の1ずつ対価を払って一緒に行こう。サクラを助けに」(モコナ)

 『ツバサ』第20巻の感想記事です。全体としては収録話に関してマガジン掲載時に書いた感想の再掲記事になっています。コミックス派の方は、これを機会にこの記事で一気読みなどして頂けたらと。
 ◇

 以下、本編感想。自分の願い貫くの最高みたいなCLAMP漫画において、4分の1ずつ対価を払ってサクラの救済という共通の願いに全員が一致する所がハイライトだよなぁ。自分一人の願いじゃなくて皆の願いというのが熱い。

●ツバサ/感想/Chapitre.150「残された者たち」

 ◇

 インフィニティ編がサクラの孤高のファイ救出ミッションだったという点と、そのからくりはほぼ前回の感想で解釈した通りなんですが、一点、二つに別れたサクラは、僕は小狼のように餌と本体に別れたのかと思ってたんですが、そうではなく、魂と体に別れて、魂を夢の世界に送ったということ。

 『夢』の世界、さくら(サクラ)姫の魂は今、夢の中にある(侑子さん)

 ここでキーポイントになるのは、『夢』の世界と称して侑子さんが取り出した筒状のものが、第01話冒頭でガラスのようなものに隔てられたさくらと小狼が入ってたものだということですね。

 そして、今週の「XXXHOLiC」における、夢を見ている真・さくら(と思われるような少女)の登場。

 この『夢』の世界が何なのかを解き明かすのは今週の「XXXHOLiC」の四月一日と遥さんの会話を良く読むのが一番だと思うんですが、まあ、夢でも本人が現実と思えば現実というような趣旨のことを語っていたので、とりあえず、『夢』の世界で見た夢が現実の世界にも影響を及ぼす、というかむしろ『ロードス島戦記』の始源の巨人のような感じで、『夢』の世界で見ていた夢こそが現実……くらいの作中設定なのではないかと僕は推測しています。

 で、第01話冒頭で真・さくらと真・小狼は別れ、真・さくらは『夢』の世界に入ったと。この辺り、今週の「XXXHOLiC」に出てきたさくらが、真・さくら(真・小狼が「ツバサ」内Chapitre.134で「取り戻したいものがある」と言っていた存在)なのか、はたまた今回魂だけになって『夢』の世界に入ったサクラが見ているイメージ映像を時間軸をずらして物語冒頭に持ってきただけなのか(つまり、第01話冒頭の筒の中のさくら(サクラ)が真・さくらなのか、今回分離したサクラなのか)今ひとつまだ不明なんですが、上に引用した侑子さんの台詞で「さくら」にわざわざ「サクラ」とルビを振ってるのがポイントですね。今までも「ツバサ」作中で「さくら」と「サクラ」は使い分けられていて、カタカナの「サクラ」は、第01話で心を失った後に、冒険を通して獲得された方のサクラ、ひらがなの方の「さくら」は、それ以前のさくら(だから餌の小狼が素の気持ちで呼ぶ時だけ、ひらがなのさくらになっていた)……という風に僕は解釈していたんですが、今回で、ひらがなの方は真・さくら、カタカナの方は冒険に出て獲得されたサクラ……という解釈もありのように思えてきました。どちらにしろ、『夢』の世界と言われる筒状の中に、「さくら」と「サクラ」の双方の存在が(別人か、同一人物の解釈違いかは今の所不明なれど)いるという意味合いで、このルビ演出は使われているのだと思います。

 ◇

 あとファイの嘘は何かなー。既情報からだけで判断すると、Chapitre.134でサクラが「……それはファイさんの本当の気持ちですか?」と聞いたのに(今から思うと、この台詞の時点でサクラはインフィニティで起こるファイによる仲間達の悲劇を知っていたことになるというのがスゴイ)、ファイが「本当にしたいことだよ」と答えたのが「嘘」だったということになると思うんですが、他に、新情報での「嘘」が次回提示されたりするのかなー。

●ツバサ/感想/Chapitre.151「雨の中の嘘」

 ◇

 打ち明けられたファイの嘘は、とりあえず3つ。

●セレス国にサクラの羽があるのにファイは東京編以前の「サクラの羽が目的」だった頃でも黙ってた
 →セレス国へ戻りたくないためと思われる。

●阪神共和国編冒頭で、小狼の衣服に付いていたとファイが差し出した1枚目は、実はファイがもとから持っていたもの
 →魔力のある真・小狼は看破していた。ゆえにファイと少し距離を取っていた。

●ファイには自分より魔力が強い者を殺す呪いがかかってる
 →両眼のファイより魔力が強い侑子さんは当然知っており、冒頭の雨の日の侑子邸の場面では、違う次元に身を置いて防御していた。

 すげー。三番目とか、ちょっと読み返してみたんだけど、本当にあの雨の場面、他の皆は水滴がついてる絵があったりで雨に濡れてるのに、侑子さんにはそういうカットが一切無いの。長期伏線回収どころのさわぎじゃないです。すげー(二度言った)。

 そして、ここであえてあの雨の日の皆の選択に読者の意識を遡らせておいて、それと対になるファイの選択。

 「セレス国へ戻ります」(ファイ)

 あの雨の日は、大切な魔力制御の入れ墨を対価に渡して「セレス国へは戻りたくない」という願いを願ったファイが、物語を通して、今度は視力を対価に「セレス国へ戻りたい」という願いを願うという、転覆構成。その真逆の結論に行き着いたのは、無論旅を通して得た(特にサクラとの)関係性があるわけで。

 物語冒頭(それこそあの雨の場面)で敢えて小狼とサクラの間の「関係性」を奪ってみせて「関係性」の尊さをあぶり出していた「ツバサ」ですが、ここでも、飛王のコントロール下にあるとか無いとかを凌駕する作中是として、紡ぎ出された「関係性」が描かれます。「東京編」にてそれまで培ってきた仲間間の「関係性」が一旦転覆するんですが、それでもなお強く、紡ぎ出された「関係性」は「生きる」ということを描いているのがカッコいいです。「東京編」で対価と引き替えにサクラがファイの生存を望んだのも、今、ファイが対価と引き替えに全てを覆してまでサクラの体を救済するためにセレス国へ戻ることを願うのも、起点は「東京編」以前で紡がれてきた仲間同士の「関係性」にあります。「東京編」以前/以後で色々なものが変わった「ツバサ」ですが、ちゃんと「東京編」以前のお話も重要な意味をもって生きているように構成されてるのがやっぱり凄いなぁ。

◇夢の中のサクラ

 これは、今週のヤンマガの「XXXHOLiC」を必ず読みましょう。夢に渡ったサクラと四月一日が邂逅する場面が描かれ、非常に幻想的な演出で作中における「夢」が何なのかが語られます。

 一番のポイントは「夢」は次元云々を超えて他者間で「繋がって」いるという設定。そしてその前の四月一日と遥さんの会話、及び今話の見開きの侑子さんの台詞(「XXXHOLiC」の方)から推測するに、もう一歩踏み込んで、「他者の見てる夢があなたの現実、あるいはあなたの見ている夢が他者の現実」というような幻想文学的な世界観を描き出そうとしているのだと思います。この「夢」を通して他者と共起関係にあるというのも、哲学的に深い話を抜きにすれば、描いているのは「関係性」の尊さだと思います。あー、今週の「XXXHOLiC」&「ツバサ」は本当に神がかかってたなぁ。

●ツバサ/感想/Chapitre.152「四つの対価」

 ◇

 東京編以降、ギクシャクした感じというか、何かが破綻してしまったように描かれていた新パーティーの面々の関係性が、サクラの救済という目的に一致して再びまとまった感じ。黒鋼をモコナがおちょくるコマが久々で愛おしい。

 サクラが強運と右足、体と魂の分離、そして仲間との別れという対価を支払って完遂したファイ救済計画がここにひとまず成就。

 「モコナも行く!」(黒鋼)

 「おう」(黒鋼)

 の黒鋼とモコナのやりとりから、

 ファイ、一緒に行こう!」(モコナ)

 までの流れは涙もの。ちょっとコンビニで立ち読みしながら涙腺にきた。氷の牢獄で死への安楽の最中それでも他者を求め、だけど得られずに死にたがりとして独り様々なものをあざむいて生きてきたファイが、今は一人ではなく、四人。この辺り、Chapitre.144「一番大切なもの」Chapitre.147「三つの世界」Chapitre.148「二つの選択肢」、そして今回のChapitre.152「四つの対価」と、一、二、三、四のナンバー付きサブタイトルはそれぞれ流れの中で意味があったっぽい。それがここにきて、ようやく「四」人。熱い。

 そして、飛王パートに飛んで、本当はファイが刺すのは真・小狼のはずだったことが明らかになり、明確に定められた未来が「変わった」ことが示されました。やっぱり、コントロールされた、定められた運命のようなものを、作中是である紡がれる「関係性」が打ち破っていく話なのだと確信。そして、新たな関係性構築の一要素として、夢の中でのサクラと四月一日の出会いが侑子さんの口からあげられます。これは、クライマックスの最逆転カードとしてきそう。対価を支払ってまで四月一日を助けた真・小狼の顔が、黒鋼が四月一日の名を侑子さんに問いただしてる場面で翳ってるのがちょっと気になりますが、真・小狼、サクラ、四月一日ラインは雰囲気的にどう考えても是の関係性でしょう。このラインが繋がるお話も、もはや待ち遠しいです。

 そんな感じで、最初からファイの死にたがりを看破して物言わず最善手で接してくれてた黒鋼に、謎生物のくせにまさかビックリでいい所を持っていく形でファイの存在の大事さを説くモコナに、サクラが嘘も含めてファイを信じていたから俺も信じるという真・小狼の三人を伴って、ファイ、一人ではなく、四人で運命の地セレス国へ。次回休載ですし、ここで一区切りっぽいですね。あー、振り返るとインフィニティ編も東京編に負けず劣らずの濃いお話だった。

 ◇

 最近の黒鋼のカッコよさは異常だ……。

●ツバサ/感想/Chapitre.153「最も辛いこと」

 ◇

 今話は二つ。

 一つ目は、前回の仲間パワーによる対価の4つ分割案を受けて、ファイの変化が描写されたこと。

 「もうたくさん使ったからね、魔法」(ファイ)

 嘘を全て告白し(今週も次元移動の魔法に関してついていた嘘が一つ)、忌避していた魔法の使用を飲み込んで、黒鋼の手に蒼氷を召還。

 変化っていうか、もう失うものは何もない、ただ、対価を分け合ってくれた仲間と、サクラのために……というギリギリの心情。その微細な内面を「受け取った」とでも言うように黒さまが拳を握る所が非常にカッコ良かった。

 二つ目は、

 「知っていても知らせることはできない。助けたくても助けられない」

 の部分で描かれた、侑子さんの超常者から一人の人への降格とでもゆうべき描写。

 この台詞の背後には設定上の「侑子さんは干渉範囲内でしか人に影響を与えられない」という部分の業がかかってるんだと思うんですが、これも「XXXHOLiC」を読んでるとより分かる部分だったりします。最近のヤンマガに載った話で、対価無しでは四月一日に何もあげることができない侑子さんが寂しそうな顔をして、侑子さんにそんな顔をさせてしまったことを四月一日が悔いる……というエピソードが挿入されます。日常パートでは傍若無人に振る舞う女性で、物語上は全てを見通す超常者。だけど、そんな侑子さんでも、世界の原理の中でできないことがある。大事な人を助けたいのに、超常者だからこそ助けられないという「最も辛いこと」がついて回る。そんな、超常者がみせる(抱えてる)一人の人間としての辛さに胸キュンなここ最近の侑子さんだったのでした。

 ◇

 そして、舞台はいよいよセレス国へ。アシュラ王と飛王のコントロールという、過去最大級の障害に、餌の小狼が消え、サクラが消え……というボロボロのパーティが関係性パワーだけを拠り所に如何に立ち向かっていくのか、いやが上も燃えてくるシチェーションでの開幕です。ああ、続きが楽しみだ。

追伸:サクラの先読みや未来の変化の設定など、インフィニティ編の舞台裏は、今週のヤンマガのXXXHOLiCと今話とを両方読むことで補完できるようになっております。今週のXXXHOLiCはまるまるサクラと四月一日の対話で、いよいよ両作品のボーダーが薄れてきたので、普通に読んでおくのをお勧めします。

●ツバサ/感想/Chapitre.154「魔術師の帰還」

 ◇

 壮大な仕込みでついにはじまった「セレス国編」。相変わらず冒頭のテンポは早いです。

 トップランナーのCLAMPが出演していた回で脚本の大川緋芭さんが、物語のテンプレートと言われる「起承転結」のうち、「承」を省いて読者がもっとも読みたい「起転結」に特化して物語を作ってるという話をしておられて興味深く聞いたことがありますが、まさに「承」を省きまくった今回。あらゆる「承」的エピソードを真・小狼の「風華招来!」で省略して、いきなりど本命もど本命、読者が最も見たかったアシュラ王とファイの対面シーンへ。すごいテンポの速さです。ババーンと、ファイが選択して殺したはずの「もう一人」ともご対面というショッキングな絵まで、一気。

 飛王が言っていたファイにかけられたセレス国でのみ発動する呪いの伏線と、今回、真・小狼が頭痛のようなものを感じていた伏線(黒鋼が感じてない所から、魔力を持つ者にのみ特化した現象らしい)、その辺りの分かりやすい部分を含めて、そもそもセレス国って何?アシュラ王って何者?という大きい謎でもひっぱっていくと、とにかく続きを読みたい衝動を刺激されます。あー、続きが気になる。

 ◇

 地味な点で、ファイが魔法を使おうとした所で、それを制して真・小狼が自分の「風華招来」を使ったシーンが、ファイを信じると言った言葉に偽りはないとう真・小狼の意志表明にして、ファイが魔法を使うことを忌避していたこと知っている真・小狼なりの優しさが垣間見える感じの場面で良かったです。まさか、その「風華招来」のせいで、一気に「最初からクライマックスだぜ!」状態に行き着くとは思わなかったですけど(笑)。

●ツバサ/感想/Chapitre.155「禍々しき双子」

 ◇

 黒鋼の過去編からもうだいぶ経ちますが、いよいよファイの過去編が開始。

 とりあえず前からファイが自分の命と引き替えに「選んで」殺してしまったとされる(というか前回の引きで出てきたキャラだけど)存在が、ファイの双子であったことが明かされます。ヴァレリア国と呼ばれた国で、王子という身分にも関わらず厄を生む双子として生まれてきたがゆえに、厄を背負って二人で「谷」に幽閉されていたということ。どうやら、二人が厄を背負えば背負うほど国の皆が幸せになるというお話らしんですが、この辺りは誰かが「願い」、幸せを追求すれば、他の誰かの願い、幸せを捨象することになるというのを描いてきた「ツバサ」らしい設定です。「東京編」17巻の、

  「…私はこれからも、誰か…を傷つけて何かを奪う…自分勝手な理由で…きっとその報い…を受ける。わたしが…そうしたように…でも…それでも……取り戻したいの。貴方の無くした心を…小狼君…」(サクラ)

 の辺りに顕著な部分ですね。サクラに限らず、誰でも何かを願って求めれば、誰かを傷つける。「XXXHOLiC」とのリンクでずっと描かれ続けてきた「対価の原理」のテーマに通じる部分です。世界は対価の原理で回っているから、誰かが何かを得れば、誰かが何かを失う。今回でいえば、国民が幸せを得れば、双子は幸せを失うと、そういう仕組みです。これまでは物語冒頭の侑子さんの、

 「今の世界を失っても 居心地のいい場所を捨てても、求めるものを追う 失うものの重さも辛さ分かってて、それでも欲する そのために生きる そういうのが本当の覚悟」(侑子さん)

 の台詞に顕著な、それでも、求めることで失われる何かの重さを分かっていても「願う」んだ、求めるんだ、という「本当の覚悟」が是的に描かれることが多かったんですが、今回は逆に誰か(国民)が求めた結果、捨象されてしまった側(双子)の視点からの物語ということですね。

 そうして、同じ捨象されてしまった側の二人、手を繋いで絆を確かめ合ってたはずなのに、結末としてはファイが自身が生きるため(自分の「願い」を通すため)にもう一人を捨象してしまうことになると。そういうお話なのか。

 で、「もう一人」の名前はユゥイで、あれ?「下」にいる方がユゥイで「上」の方がファイだったの?というサプライズで引きとなってますが、今読み返してみたら確かに133話のファイの「死にたい 死にたい……」の回想でも、ファイは窓枠みたいな所から外を見ていますね。あの時の最後の「でもその前に誰かに……」の言葉の続きがいよいよ明かされるわけですか。ユゥイは下にいるから大局的情勢は分からないんだけど、ファイは上にいるから窓から国に起こった何らかの惨状を目撃していたと、そういうことなんだろうなぁ。

●ツバサ/感想/Chapitre.156「不幸の始まり」

 ◇

 下の方に閉じこめられたユゥイ視点からヴァレリア国崩壊を追ったお話。幽閉されてるがゆえに具体的に外界で何が起こったのか分からず、断片的な情報からユゥイも読者も謎解きしていくしかないというのが面白い所。罪人じゃ無い人が捨てられてる→書簡でどうやら王がご乱心したらしいと知る……と徐々に情報が明らかになってきた所で、ラストに当の王本人が登場。ご乱心してるからユゥイに手をかけるのか?と読者をミスリードさせた所で、王、自殺。とにかくこうなったのは全部ファイとユゥイの双子のせい、贖罪として二人だけ生き続けなければならない……というシチェーションが完成します。既に不幸過ぎる感じなんですが、サブタイからするにこれでまだ「始まり」なのか。死体を積み上げて壁をよじ登る足場にするユゥイの絵とか、うまく凄惨さが前面に出ないように描いてるCLAMP絵じゃなかったら少年誌ギリギリに恐怖的な絵柄でした。

 細部の設定はともかく、これでファイとユゥイの二人の命の対価に国民全員の命が失われてしまったというシチェーションが完成。現在のファイの自分の命に価値が見いだせないバックボーンはこの辺りから来てるのか。

 一方で、ユゥイの方は未だファイと一緒に国を脱出する!とか活力が残ってる感じ。そんな残された活力が、ファイに切り捨てられたことで折れる所までを描くのかな。ユゥイ視点だけに、それはツライ。

●ツバサ/感想/Chapitre.157「最後の選択」

 ◇

 イキテルダケデツミナノカ

 この経験がファイの自分の命に価値が見いだせない死にたがりの源泉なのか。そんなファイに、「東京編」ラストでサクラが、

 「…それでも…生きていてくれて…よかった…」(サクラ)

 の言葉を与えてくれたというわけで。遡ってその時のファイの心情に想いを馳せるとだいぶ泣ける。

 ◇

 本編は軽く視点トリック系というか、Chapitre.133でのファイの「死にたい死にたいでもその前に誰かに……」の後に続く台詞は「でもその前に誰かにユゥイだけは助けてって伝えなきゃ」だったと今回で明らかになったわけですが、そのChapitre.133でのファイの回想は塔の中のファイ視点からの回想になってるのに対して、Chapitre.148でのファイの回想(サクラを刺した時にフラッシュバックしたヤツ)は谷の下のユゥイ視点からになっており、結局今までサクラ達と旅をしてきた「ファイ」はヴァレリア国過去編内のファイとユゥイのどっちなのか、流し読みでは分からないように仕込まれて描かれています。

 まあどっちにしろ、このエピソードでは願うことで失われるものがあってもその存在も「本当の覚悟」で受け入れて願うというこれまで作中で描かれてきたCLAMPイズムをより厳しく掘り下げてるお話なんだと思います。もう一人のファイを犠牲にしてでも自分が生きて外に出ることを望んだユゥイと、逆に自分が死んでもユゥイだけは生きて欲しいと願ったファイという対照でその辺りをあぶり出してます。とにかく対価の原理で世界は回っていて、何かを得るために何かを失いというのが描かれ続けてきたわけですが、タマゴを奪ってでも自分の願いを望んだサクラ、自分の強運や足を犠牲にしてでも仲間の生存を望んだサクラ……といった感じで、自分のために他人を犠牲にする、他人のために自分を犠牲にするという、両極端な対価にまつわる物語を、究極的に突き詰めてここでは描いてる感じ。自分のために他人が死ぬか、他人のために自分が死ぬか。まさにサブタイ「最後の選択」です。

 「東京編」以降、ツバサは本当に過酷だ。

●ツバサ/感想/Chapitre.158「もう一つの呪い」

 ◇

 何故、ファイには塔の上に閉じこめられていたファイ視点からの回想と、谷の下に閉じこめられていたユゥイ視点からの回想との二つの回想があるのかというトリックは、塔の上のファイの記憶を谷の下のユゥイが受け継いでいたという、わりと強引な種明かしに。

 で、結局飛王は塔の上のファイと谷の下のユゥイとの両方のもとに現れており、「外に出られるのはどちらか一人」の究極の選択をファイとユゥイの双方に突きつけたと。結果としてはファイはユゥイを選び、ユゥイは自分を選んだ。それゆえの、今までツバサでずっと描かれてきた「何かを得るためには何かを失う」という対価の原理の究極のシチェーション、自分を生かすために他人を殺すか、他人を生かすために自分を殺すかのシチェーションが完成して、今まで冒険してきたファイは、実は自分が生きるために他人を殺したユゥイだったと。

 ここで、ファイの名前を語って生きてきたファイ(ユゥイ)に対して、アシュラ王が、

 「それでも君の罪は消えないよ」

 と言うのは、わりと真っ当というか、作中的には是の宣告なような気がする。失うものの重さも分かっていて、それでも「願う」のが作中で是とされる侑子さんの言う所の「本当の覚悟」なわけだから、曖昧に、ファイの名前を語って自分がユゥイとして下した自分>他人の選択を誤魔化してきたファイは己の選択に覚悟が伴っていなかったという点で是の存在とは言い難く、そこをアシュラ王に指摘されてる感じ。そしてそんなファイ(ユゥイ)だから、「選択をやり直せる」という飛王の甘言につけ込まれる。

 「死んだ者を生き返らせる術があるとしたらどうする」(飛王)

 これはなー、高麗国編のチュニャンの、

 「それに!母さん言ってた!どんな力を使っても失った命は戻らないって!!」(春香)

 とか、修羅ノ国編でのクライマックスの、

 「『死者を甦らせる事は誰にも出来ない』たとえ神と呼ばれる存在でも」おれの父さんが言っていました(小狼)

 から続いている、どんな対価を払っても、これだけは侑子さんにも出来ないという作中の重要設定。それをあえて口にするということは、やっぱり飛王の夢にしてクロウ国の遺跡に眠ってる力っていうのは甦生の力なのかな。

 でも、やっぱりこれは作中で否定されてる思想なので、その飛王の言葉に心動かされてしまったファイ(ユゥイ)も、ここではネガティブモードな感じ。どんなに残酷でも、一度下した選択は受け入れねばならず、その選択で失われた命も戻らない……ということをファイが受け入れねば、作中でファイが浮上することはないと思うわけです。

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