2007年10月17日

XXXHOLiC〜ホリック〜/12巻/感想/CLAMP/ヤンマガコミック

 「貴方が経てきた事実(ホントウ)が貴方を強くする そして、その強さで願い続ければ夢は真実(ホントウ)になるの」(壱原侑子)

 『XXXHOLiC(ホリック)』の最新第12巻の感想です。
 ◇

 作中で百目鬼が口にしていますが、今巻で特に描かれているのは荘子の「斉物論」の「胡蝶の夢」という故事を題材にしているお話です。蝶が自分が見た夢なのか、逆に自分の方が蝶が見ている夢なのか、判別がつかないという感覚にまつわるお話。遡ったルーツが荘子にあるのかどうかは分からないんですが、わりと今自分が信じている現実が夢であるかどうか厳密には証明できないというトピックは哲学の世界で古くからあって、派生的に現代に溢れている様々な創作作品の中でも題材に取り上げられて使われています。「胡蝶の夢」「自分の主観の方に齟齬があるトリック」「ループする世界」は、そういった幻想文学的な作品を支えるトリプルコンボじゃないでしょうか(そして、3つがそれぞれ関連している)。

 そして今巻では、四月一日くんは、自分は侑子さんのお店関係と、百目鬼、ひまわりちゃん関係以外の記憶がない、そもそも両親の名前さえ思い出せない存在であることに気付き(自分の主観の方に齟齬があるトリック)、百目鬼やひまわりちゃんが出てくる世界と遥さんや桜舞う中で蝶の羽を持った侑子さん、「ツバサ」から渡ってきたサクラがいる世界のどちらがホントウの世界であるか分からないまま(胡蝶の夢)、それらの世界を時間軸があやふやなまま行ったり来たりをくり返す(ループする世界)という三要素でみっちりと話が進み、そんな中で四月一日くんが離人感状態に陥ってしまう様が描かれています。

 これ、設定として、夢の世界と現実の世界がどういう風に関連してるのかが作中で明かされるのかは分からないんですが、既に、伝えたいメッセージは今巻時点で伝えられていると思います。そのメッセージがそのまま厳密な設定なんてどうでもいいじゃんというスタンスを表明しているものなので、物語完結までに、この辺りの「夢」ってなんだったのか?とかは、特に描かれない気もしてきています。

 で、「胡蝶の夢」「自分の主観の方に齟齬があるトリック」「ループする世界」は何かしら人を惹きつけるモノがあるらしく、前述したように様々な作品で使われてはいるんですが、一方で、そういった離人的感覚は、本当にそのまま迷路に入っちゃって普通の人が精神科のお世話になる最初のきっかけになる要素になってしまう場合も現実ではあったりします。それくらい、いいようのない不安を掻き立てる概念でもあったりするわけです。

 で、XXXHOLiCで描かれている、伝えられているメッセージというのは、そういった不安を払拭する、一種のトランキライザーの提示。その全てが、ラストの侑子さんの、

 「貴方が経てきた事実(ホントウ)が貴方を強くする そして、その強さで願い続ければ夢は真実(ホントウ)になるの」(壱原侑子)

 に込められていると思います。この記事(選択される世界/エヴァ&ヱヴァ・ハルヒ・ひぐらしのなく頃に(解))なんかでも書いた話と通じる点ですが、虚構の世界(今巻であるなら夢)、虚構の自分(齟齬がある主観)、虚構の時間(ループする世界)の中で、不安を感じてアイデンティティロストする主人公の苦悩を描いた作品っていうのはSFなんかを中心に沢山あったわけです。だけど、上述のハルヒやひぐらしと同様、このXXXHOLiCで描かれているそれらの不安、苦悩を克服するトランキライザーというのは、「例え夢だろうと現実だろうと、自分が信じる拠り所がある方が真実」という考え方だと思います。ハルヒだったらその拠り所がSOS団の皆と過ごした時間だったりひぐらしだったら部活メンバーだったりするわけですが、それが、XXXHOLiCにおいては侑子さん曰く「貴方が経てきた事実(ホントウ)」であると。その直前の四月一日くんの語りが「逢ったこと」や「遇ったこと」、そして自分がいなくなったら悲しむ人に関する述懐だったことから、やはり、その拠り所となるのはツバサとXXXHOLiCの両方で冒頭からくり返し描かれてきた、「他者との関係性」なのだと思います。ツバサの方で、真・小狼くんと写身小狼くんとで、一つ真実の存在と虚構の存在にまつわるお話を描いていますが、そっちの方の解答も、例え虚構だとしても、東京編以前の旅で培った写身小狼とサクラや仲間達の「関係性」は真実(ホントウ)だ、という風に落ち着く方向に物語が進んでいるのはよく読んでいれば分かります。それと同じく、例え虚構の世界の虚構の自分でも、四月一日くんが培った「関係性」、そこから生まれた「願い」は真実(ホントウ)だ、というのが、今巻ラストの、この人間が背負う離人感的負荷を浄化するための解答。そういった四月一日くんが虚構(夢)の世界で、虚構の自分を自覚しながら、ただそれまで培った関係性から生まれた真実(ホントウ)の願い、「侑子さんの願いを叶えたい」を口にするというラスト。そんな四月一日を虚構の存在だとしても真実(ホントウ)だとでもいうように抱きしめる侑子さんの絵でラスト。ヒジョーに神がかってたと思います。「胡蝶の夢」系作品(そういう作品群があるとして)の中でも、最高傑作の部類じゃないかな。XXXHOLiC、ホントウ好きです。

→「東京編」OVA付き限定版

ツバサ21巻 限定版

→初回特典 特製230Pブックレット/CLAMP描き下ろしファンブック(公式サイトにて素敵ムービー公開中

CLAMP IN WONDERLAND 1&2

『XXXHOLiC』前巻第11巻の感想へ『XXXHOLiC』次巻第13巻の感想へ
『XXXHOLiC』コミックス感想のインデックスへ
コミックス『ツバサ』感想のインデックスへ
「ツバサ」マガジン掲載分本編タイムリー感想へ
アニメ版『ツバサ・クロニクル』感想インデックスへ

【コンタクト】
WEB拍手を送る
メールフォーム

【WEBサイトへ】
文芸・創作サイト『Language×Language(ランゲージランゲージ)』

【メールマガジン】
 アマチュアとプロの境界がボンヤリしてきた今日この頃。
 個人でも楽しくモノ作りをしながらしっかり稼いでいる方法が読めば分かります(^^)

メルマガ登録・解除
 

トラックバックURL

この記事へのトラックバック

1. 『XXXHOLiC・12』の感想  [ 空夢ノート ]   2007年10月21日 19:37
『XXXHOLiC・12』CLAMP/講談社ヤングマガジンKCDX/どこまでも「好きだ!!」と叫びたい、そんな12巻でした。今まで他者との関係の中で四月一日が得た、しなやかな優しさ。 四月一日の実在性がどれほど揺らいでも、相手を支えてきた彼の優しさが、周囲と自分を変えてきた事...

この記事へのコメント

1. Posted by りる   2007年10月21日 19:45
初めまして、『XXXHOLiC』の感想を探して来ました。
この作品に関するここまで深い考察をされてるレビューを拝見するのは初めてです。 どんどん読みいってしまいました。 ありがとうございます、とても面白かったですw
最初から最後まで神懸り的な魅せ方をしてくれた本作、ホント最高傑作じゃないかと思います。  
2. Posted by あいば@管理人   2007年10月22日 16:38
>りるさん

どうもはじめまして。かもめさんの所のコメント欄で名前をみかけるりるさんでしょうか。だったら僕の方は一方的に知ってました(笑)。

ホリックの感想楽しんで頂けましたか。毎巻わりと一生懸命書いてたので嬉しいです。

ホリックはもともと神秘性を演出してる所もあいなって、まさに神がかってるって表現するのが僕としてはピタっとハマる作品です。

りるさんの感想も読みましたー。予想が同じ所がある(笑)
そろそろ作品的にも終盤のラストスパートだと思うんですが、謎の開示も含まれるフィナーレに期待ですね。
3. Posted by りる   2007年10月23日 00:52
あわわ、かもめさんのところに顔を出しているりるは、多分私だと思います・・・お恥ずかしい。 あのあいばさんなら、私もかもめさんの所でお見かけしてました(笑)。 ホントにこの世に偶然はないのかな?(笑)。

予想、同じ所があるなんて心強いですw 『ツバサ』も含めて展開が楽しみです。 またあいばさんのレビューを読みに来させてください。 それではw
4. Posted by あいば@管理人   2007年10月23日 06:16
>りるさん

やっぱりあのりるさんですよね。むしろかもめさんの所からリンクを辿ってきたのじゃないのが驚きです(笑)

僕もツバサの方も楽しみに追ってます。また来ていただけたら幸いですー。
最近のトピック

▼ようやっと登録されました

ツバサ 28―RESERVoir CHRoNiCLE (少年マガジンコミックス)

▼冬コミ(C77)に参加します

水曜日(12月30日)
東地区“T”ブロック−52b
Language×2(ランゲージランゲージ)

詳しくは創作サイトで。

▼流行のメディアやってます

pixiv
アメブロ
Twitter

▼WEB小説▼
夢守教会

 第四話。コピー誌にて公開中

創作活動

▼メインで運営している創作サイト
Language×Language

フリーWEB小説
オリジナルWEB小説『夢守教会』
オリジナルWEB小説『陽菜子さんの容易なる越境』
フリー短編ノベルゲーム
雛守春夢-ひなもりしゅんむ-
(R-18サイト注意)
発行個人誌既刊
Fate&魔法使いの夜
ひぐらし魅音本
オリジナル少女小説
[下記ページより通販で注文できます]
Language×Language同人誌通販のページへ

Amazon



国内盤DVDタイトルは原則予約26%OFF
1500円以上の注文で配送料無料
→Amazonでお買い物の際は是非こちらのサーチボックスから。応援よろしくお願いします。

▼購入決定▼
→11月14日
S.H.フィギュアーツ キュアドリーム
→11月17日
ツバサ 28―RESERVoir CHRoNiCLE (少年マガジンコミックス)
▼検討中▼
PlayStation 3(120GB) チャコール・ブラック(CECH-2000A)
▼買うつもり▼
ComicStudioPro 4.0
▼買った▼
Wacom Bamboo Comic CTE-450/W1
Wacom Bamboo Comic CTE-450/W1
マンガ・イラストテクニック大百科―コミッカーズマンガ技法書 テラ激マン
マンガ・イラストテクニック大百科―コミッカーズマンガ技法書 テラ激マン

殿堂入り(創作)

◇奈須きのこ『空の境界』◇

 一話ごとに、「俯瞰」、「痛覚」、「矛盾」、「記憶」、そして表題「空の境界」といった概念を濃密にテーマとして絡めて煮詰めきってるのが凄まじいです。一話一話が高密度であるだけでなく、全話を通してみると、それはそれでしっかりと一本通った伏線、テーマが縦軸として存在すという美しさ。概念云々だけじゃなく、ストレートに切なさが残留する恋愛小説としても読めます。初読で満足できず、繰り返し読み返す類の作品です。

空の境界 上 (1) (講談社文庫 な 71-1)
空の境界 上 (1) (講談社文庫 な 71-1)

空の境界 中 (2) (講談社文庫 な 71-2)
空の境界 中 (2) (講談社文庫 な 71-2)

空の境界 下 (3) (講談社文庫 な 71-3)
空の境界 下 (3) (講談社文庫 な 71-3)

殿堂入り(ビジネス)

ネットビジネス大百科

 僕が実際に実践しているネットビジネス/ダイレクトレスポンスマーケティング/コピーライティングの教材です。これのおかげで現在ネットからの収入だけで生活できているという個人的思い入れも深いお勧めの教材。ただし、本気の人向け。
 上記リンクをクリックしてご購入頂いた場合のみ、僕(管理人)が実際にこのブログで一日1000アクセス検索エンジン経由から集めた実例を解説している、SEO(検索エンジン最適化)技術についての補足教材イーブックがおまけで付きます。
ビジネスブログの方に09年時点の補足を書いてみました

メールマガジンを発行しております

 アマチュアとプロの境界がボンヤリしてきた今日この頃。個人でも楽しくモノ作りをしながらしっかり稼いでいる方法が読めば分かります(^^)

アクセス解析


ブログTOPへ戻る