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 「オマエが破いた服、一体いくらすると思ってるんだ」(ロレンス)

 アニメ版「狼と香辛料」第六幕「狼と無言の別れ」の感想です。バンダイビジュアルでの遅れ視聴となります。原作は1巻まで読んだ所です。
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 原作一巻のラスト部分ということで、見応えばっちりでした。

 ロレンスとホロの関係を収斂させてる部分も勿論いいんですが、僕的に作品の構造部分の、「神さま」に関する部分がだいぶ物語の背景装置として魅力的に機能してると思いました。特に、クロエというオリジナルキャラを入れたのが効果的に出てたんじゃないかと。

 一神教者、自然主義/人間主義者、アニミズムの精霊のようなホロ……と、三つの思想が入り交じって混沌としてる時代背景が面白い作品な訳ですが、最初にロレンスを刺した男は、「神よ、我が罪を許したまえ」と口走っていて、一神教信者っぽいんですよね。だけど、それを率いているのは神さまから離脱して人間主義に目覚めたクロエという。

 そこでクライマックスに、本体を表したホロがクロエ達を圧倒する中、クロエはホロに対して「神さまはいつも理不尽なことばかり」と漏らすという。だけど、ホロとしては自分は神さまなんかじゃない……という訳で。

 そんな、三者三様な思想が物語の背景として交錯してるのが面白かった。ロレンスとホロの視点に感情移入するとクロエ側が悪役ではあるんですが、神さまから逃れたくて人間の合理のようなものを信奉する人間を必ずしも否と言えないのは連綿と続く西欧思想史を紐解いたことがある人にはよく分かる部分でもある訳で。

 さらに深読みするならば、ホロとクロエが対立したのは一種のディスコミュニケーションなんですよね。クロエは神さまを否定したいからホロを否定したいんだけど、ホロは実は神さまではない。クロエは神さまであるホロが気まぐれで村の麦の収穫を恣意的に扱っていたと思ってるんだけど、ホロは実は村の総合的な利益のために収穫をコントロールしていたという。

 そこが伝わり合えないから殺し合いにまで発展してるのがある意味リアルなんですが、ここでディスコミュニケーションを描いておいたからこそ、ラストにロレンスとホロがちょっとだけコミュニケイトする部分が光るんですよね。

 「オマエが破いた服、一体いくらすると思ってるんだ」(ロレンス)

 この言葉が実はホロには届いていて、エンディングでロレンスにホロから請求書が送られてくるという。時代を駆けめぐる思想が混沌としている中、短い旅の中でロレンスとホロに商売を媒介にして絆ができあがったのはちょっとした奇跡のようで。

 原作感想でも書いたけど、ロレンスの「オマエが破いた服……」の所から、ラストのエンディングの部分にかけては本当キレイ。バンダイビジュアルのアニメ配信分が次回から2巻部分に入るので、原作の2巻も今のうちに読んでおこう。

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