唐突に始まった「平成仮面ライダーシリーズ」紹介記事。
 第1回はこれも唐突に『仮面ライダーカブト』です。
 紹介と言いつつ、かなりの程度作中のネタバレを含みますので気にする方は注意です。
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 昔から書いてましたが、いわゆるセカイ系へのカウンター思想を盛り込んだ作品だったというのが僕の解釈です。

 セカイ系っていう言葉は拡散し過ぎて定義自体が難しいんですが、とりあえず、「私とあなた」の関係が直接「世界」そのものになってしまうような作品(よく代表にあげられるのは高橋しん『最終兵器彼女』など)。面白いんですが、ある意味社会とか回りの人々とかを無視して二人だけのセカイに閉じこもってしまっているので、それではいかんだろうというようなことが批評の世界では言われていたりします。

 で、もともと社会的な関わりに関しては不器用だったヒロインのひよりが、自分が実はワームだったというショックも加わって、作中中盤で一定期間、擬態天道との「二人だけのセカイ」に閉じこもってしまうんですが、結局真・天道がそこから連れ出す。痛いし、社会と関わるのは大変だし、そもそもワームって社会から排斥される存在だし、苦しい、と思いながらも、ひよりがちゃんと戻ってくる……という辺りがクライマックスの作品。

 ちなみに、この「ひよりが社会と関わる」ための架け橋として最後に「料理」が機能するので、作中でギャグの勢いで繰り返されていた料理ネタも、最終的には意味があったように回収されていたりします。

 そしてもう一つの見所は、何と言っても影山さんと矢車さんの地獄兄弟とか(劇外で)言われている二人で、なんだか知らないけれどエリート街道から転落して社会から疎んじられるような立場になってしまった影山さんと、影山さんの先行者的にエリートから落ちぶれた矢車さんとが、何故かペアになってぐだぐだと社会を疎んじるようなパートが、もう本当なんでってくらい、作中で長い期間描写されます。地味に二人ともライダーなんで、時々因縁をつけて主人公ライダー勢に絡んできたりもします。

 で、結局この二人もひよりと擬態天道が陥ったように、どうせ社会とは関われないんだから……と二人だけのセカイ系に閉じてしまう感じだったんですが、このどうでもいい、というか言ってしまえば作中で社会のクズ的なポジションの二人が、最終章でちゃんと(社会に)参戦するのが熱い所。

 もう、第44話が本当好きで、社会と離れてクズ街道を邁進していたかのような矢車さんが、影山さんを傷つけられたのに怒って、敵キャラに主人公ライダー勢と一緒にトリプルライダーキックを食らわせる所が、超熱い。

 矢車さんは影山さんに対しても、「一緒に落ちていこうぜ……」みたいなもうダメダメなこと言ってたんだけど、影山さんが傷つけられたら、何かムカついた。それが起爆材になって、何だかんだで参戦。

 第44話のトリプルライダーキックはおかしい。主人公の天道がライダーキックするのは分かる。サブ主人公の加賀美が一緒にライダーキックするのも分かる。だけど、矢車さんも一緒にライダーキックするのはなんかおかしい。ヒーロー二人のライダーキックに、なんで社会的ルサンチマンを爆発させてる矢車さんも混ざってるの、的なおかしさ。

 しかし、おかしいだけに熱い。この回がちょうどひよりが擬態天道とのセカイ系から抜け出した回ということもあり、動機はどうあれ、傷ついても再び社会と関わっていくことが是とされたライダーキックシーンだったと解釈したい所。

 「俺はお前とお前の生きる世界を守る」

 ひよりを擬態天道とのセカイ系から、真・天道が連れ出した時の台詞です。

 「お前」だけ、「キミ」だけを守るのではセカイ系の落とし穴にハマってしまう。お前と彼女が生きている世界(社会)の両方を守ってみせてこその、ヒーロー。俺様キャラの天道(世界で一番自分がエラいと思っている)が、実は世界に対して一番真摯……という熱い作品です。

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