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 今夏の最終話公開(予定)に合わせてブログにて再連載中のオリジナル小説『夢守教会(ゆめもりきょうかい)』の続きです(最初から読む場合はこちらの目次記事から)。
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 以下が今回掲載分の小説本編となります。


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 第一話「少女のケニング」11/「暗転」


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 この男の子は、私が傷つくのがイヤだと言ってくれた。
 そして、私もこの男の子の心が救われて欲しいと思えるほどには、この男の子のことが好きになっている。
 私たちの間には、関係性が生まれ始めてしまっている。
 これ以上、この関係性を先に進めるとするならば、もう私は偽ることはできない。
 そして、私は、私と島谷の関係性を先に進めたいと願っている自分の本心にももう気づいている。

 もう、隠しておくことはできない。
 私は、告げなければならない。

  ◇

 言葉には人を殺せるほどに力も価値もあると理子は言ったけれど、その日、僕は理子の口から僕が今まで生きてきた中で最も重い言葉を聞くことになった。

  ◇

 菖蒲さんの部屋から理子に連れられて寄宿舎の自分の部屋に戻ってきた僕は、玄関のドアを開けて中に入ると、先ほどまで寄り添っていた理子が玄関をはさんで部屋の外に佇んでいることに気がついた。

「どうした?」

 僕が気にかけて再び理子が佇む寄宿舎の廊下に歩み出ようとすると、理子は「来ないでくれ」と短くつぶやいた。

 理子が顔を下に向けたままで語り始める。

「顔も合わせないでくれ。どんな顔をして話せばいいのかも分からない。だけど、私は話しておかなくちゃならないと思うんだ」

 僕は、依然もう一人の自分が僕を見つめている発作状態のまま、自分の部屋に一人佇む。
 理子は語る。

「島谷の、自分の外側にもう一人の自分がいるって話だけどな、実は、私もそうなんだ。私の場合は自分の内側にいるんだけどな。私の内側に、もう一人の私がいる。そのもう一人の私は凶悪なほどに増殖していって、やがて今ここにいる私を食い破るんだ」

 何のことなのか分からない。視覚を信じるならば、理子と僕はこんなに近くにいるはずなのに、なんだか僕の知覚は理子を遠くに感じ始めている。

「この話し方も、迂言的で、一つのケニングかな……。はは、こんなケニングはイヤだよな。島谷も言われても困るよな。オブラートに包んで言ってもしょうがないんだよな。ストレートに言うよ、私の内側にいるもう一人の私というのは、腫瘍(しゅよう)のことだ」

 僕の知覚が理子との距離を誤謬して伝えているからだろうか、なんだか理子の言葉も遠くに聞こえてしまう。

「腫瘍はいずれ私を食い破る。私は●だ。医者の見立てでは、あと数ヶ月から半年の命だろうと言われている」

 病名は、この国では、3人に1人がそれで亡くなる業病だ。

 僕の知覚は明らかにおかしくなってしまっているようだ。自分がどんな顔をしているのか、理子がどんな顔をしているのかが分からない。

「すまなかったな島谷、私たちの宗教が、きっと島谷を救ってくれるなんて言ってしまって……本当に救われたかったのは、私の方だったんだ」

 やはり僕の知覚はおかしくなっている。その時、理子がどんな顔をしているのか、僕には分からなかったから。

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 本日の掲載はここまでとなります(^_^;

→前回:第一話「少女のケニング」10/「リンゴの比喩」
→次回:『夢守教会(ゆめもりきょうかい)』第一話「少女のケニング」12/「二人の関係性」へ
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