『まんがタイムきらら』連載の「けいおん!」大学生編。これまで掲載分の所感です。
 ネタバレありなので、コミックスを待っている方や、アニメ三期まで(あるなら)待つという方は注意です。
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 「大学生編」にも一本の軸があって、それは上昇志向の是非、みたいなテーマ。

 唯達放課後ティータイムのメンバーが、恩那組の人達という新しい登場人物達と新しい人間関係を築きはじめる様がこれまで描かれている「けいおん!」大学生編ですが、いつも通りのまったり日常ストーリーの中に、「でも恩那組の人達は本気で音楽で上を目指している」というのがキーポイントとして見え隠れします。彼女達は音楽で上昇志向を持って上に行きたい人。だけど唯達が「高校生編」で出した結論は、「ずっとずっと放課後」というちょっと上昇志向とは違うものだった(だから本当の武道館ではなくて、私たちのこの講堂が武道館なんだと言い切る)という対照があります。この、仲良くなりはじめてはいるんだけど、本質的に逆な人達が、どういう人間関係を築けるのか、というのが「大学生編」の面白い所。

 唯が熱を出してパワーアップするエピソードも地味にこの流れの話で。急に、唯が上昇志向の方向でがんばるなら良い方に、ギターも上手くなって音楽観も大人になっちゃうんだけど、回りの放課後ティータイムのメンバーは、それをちょっと不気味だと感じてしまうという。上昇志向で上目指そうぜが是なら拍手喝采で歓迎する現象なのに、やはり、現在の放課後ティータイムの本質・方向性はそことはちょっと違う。結局熱が出た暴走モードだったというオチなんだけど、なんで熱が出たかというと、「唯が音楽について真剣に考え始めた」という展開なのね。これは、ともすれば、今までの放課後ティータイムから、上昇志向で上を目指す恩那組の価値観にも引っ張られ始めているとも捉えられる気がします。だから、板挟みになって、唯は熱を出す。

 最新号の「澪が新しい服を合わせる話(ダイエット話含む)」も実は同じで、これまでの自分ではダメで、もっと上の自分に(今回は見かけとかオシャレとかそういう要素だけど)上昇志向で変わっていかないと、というのに澪がちょっと引っ張られる話です。で、こっちのきっかけも恩那組のメンバー。いずれも、新しい人間関係をきっかけに、もう一度上を目指すのか、それとも別解である「いつまでも放課後」を貫くのか、そういうシーソーゲームが背後に描かれています。

 面白いのは紬で、紬の「私のお金が目当てだったのね」エピソードも、同じような話なんだよね。

 ただ構造が上二つとは逆で、こっちは「紬は上昇志向に引っ張られなかった」というエピソード。紬は、むしろ上昇志向の果てにある富とか名誉とかは既にあったんだけど(お金持ちのお嬢様だから)、それよりも放課後ティータイムの時間を尊いと感じてこっちにきた人なので、この人だけ上昇志向の誘惑にはあんまりブレないのね。

 その分、唯達は上昇志向を遂げる道具として、お金目当てで紬に近づいたんじゃないかっていうこのエピソードは、コメディ調にはなってるけど、やっぱりifとしての作中悪みたいなのを描いていた感じ。唯達が本当に仲間を利用してお金だけ求めるようなただの上昇志向の奴隷だったら、それは放課後ティータイムの魅力とは全然違う訳で。

 以上のように、上昇志向を目指している恩那組と、永遠の放課後を歌う放課後ティータイムは、実は相成れない。だからこそ、高校生編と同じく、表面的には楽しい日常の裏に、「やがて来る終わり」が意識されるような作品になっている(この話はアニメ版の感想で散々書きましたね)。それが切ないんだけど、でもだからこそ、やがて終わりは来るからこそ、今、ここは輝いた時間なんだ、というこれまた「高校生編」から続いているけいおん!イズムが炸裂してる作品でもあります。

 最後のキーパーソンは、今作でも梓なんだと思っています。高校生編の結論は、「卒業しても私達は一緒だよ(ずっとずっと放課後)」だった。なのにもし、唯達が大学で出会った新しい恩那組との人間関係に引っ張られて、より先に、より前にと上昇志向で走るほうに行き始めたら、それは梓を置いていくことになる。別連載進行になっていますが、当然どこかでクロスオーバーさせると思われ、その時の展開には大注目しています。

 ようは、単純化すれば、唯達はもう一度梓と放課後ティータイムをやるのか、梓は置いて恩那組が目指すような上昇志向の先にある何かを追いかけるのか、という話だと思うので。

 前者なら、アニメ版で散々描かれていたように、近所の演芸大会、夏フェス、ライブハウス、友人の結婚披露宴と、いくらでも音楽をやれる場所はある。ずっとずっと放課後はできる。もう一度それを選ぶのか、それとも、上昇志向で本当の武道館を目指す価値みたいなのに引っ張られて選択を変えるのか、そういうシーソーゲームが見所の作品だと思うのです。

 もう一度梓を選び、上昇志向とは違う、日常の中に輝きは見つけ出せるということを歌い続ける、疲弊した日常を心躍る放課後に変えることができるということを歌い続けることを選ぶなら、それは恩那組とはどこかでお別れになるかもしれないことを意味している。

 いずれにしても、先にいくつかの切なさが予感され、だけどだからこそ「今、ここ」の時間は貴い、という、良い作品だと思うのでした。

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