星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)
星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)

 森岡浩之先生の星界シリーズ、前巻「4:軋む時空」より8年ぶりくらいに発売されました『星界の戦旗5:宿命の調べ』の感想となります。
 ネタバレ注意です。
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 作者オリジナル言語であるアーヴ語に儀礼から生活習慣まで綿密に練り込まれた作中世界の背景、それにSF設定も加えて、星界シリーズの魅力の一つは、キャラクターもさることながら、その背景の豊穣な「構造」だと思ってるファンの方は多いと思うのですが、今巻は物語の前半のクライマックス(第4巻『軋む時空』のあとがきより)として、この作中の構造の核、アーヴ文化の劇中の中心たる、帝都ラクファカールが陥落するという物語展開になります。

 アーヴという種族、並びにアーヴ文化が消滅してしまう危機な訳ですが、そんな中この、作者いわく前半のクライマックスで描かれたのは何かと言ったら、どうやって文化を繋ぐか、だと僕は思いました。

 文化とは何かという問いは深くて難しいのですが、大学在籍の頃は文化研究的な学科に属し(森岡浩之先生と同じ言語学専攻だったり。最初に星界シリーズに興味を持ったのはその辺りも関係していたり)、社会人になってからも時々その対象について考えていたくらいの若輩の身なりに現時点で簡素に表現してみるなら、それは記憶の繋がりだと思うのですね。

 個人的にもそう思っているので、何とか、帝都陥落は確定的で文化消滅の危機の中、主にお年よりサイドが、記憶と、その記憶の担い手である未来世代とを、なんとか臨時遷都先まで逃がそうとする展開がしみじみと胸にきましたね。文字通りわが身を犠牲にして時間を稼ぎながら。それが繋がれば、アーヴ文化は終わりではないから。

 だから優先して逃がしたのは時空泡発生機関そのものというよりはその技術者(技術の記憶を司る者)たちですし、象徴的にはラフィールが、100年前の巡察艦「ガフトノーシュ・ドゥラド」で、歴代の戦没者名を記した帝国宝物の英雄芳名碑を輸送する(次に繋げる)役割をこの前半のクライマックスでは担うのだと思うのですね。その他、出陣の前にラフィールとお風呂に入るラマージュ、英雄芳名碑があった「忘れじの広間」の担当者であるエーフがジントにこの空間を覚えていてほしいと言うシーン、帝都崩落戦の際に無数に行きかう別離の通信と、何かと今巻では記憶を繋ぐシーンが印象的です。

 僕は『星界の戦旗1:絆のかたち』の「弔いの晩餐」というエピソードが、星界シリーズ全体でもすごく重要なエピソードだと思ってるのですが、その辺りから、この記憶を繋ぐという主題は描かれていたと思うのですね。あのエピソード自体が旧フェブダーシュ男爵はクズだったかもしれないけれど、その記憶は覚えておいていてほしいというような話だと思いますし、そのエピソードを伏線にして、「絆のかたち」ラストの「そなたが死んだら私が悲しむ」に繋いでいったエピソードだと思っています。背景に重厚なアーヴ文化や壮大な宇宙規模の戦争が描写されればされるほど、そんな大きい構造の中のとても小さな実存たる「私」は孤独を感じてしまう。なのだけど、もしそんなちっぽけな私が死んだら悲しんでくれる人がいる、記憶を偲んでくれる人がいる、それは大切なことじゃないか。それが星界シリーズの主題の一つだとずっと思っていました。ミクロな描写では、サムソンのことをちゃんと覚えてるラフィール、ソバーシュの手紙を書く趣味のことをちゃんと覚えているラフィール、と、今エピソードでも、随所に「覚えていてくれること」が挿入されているのでした。

 だから、この前半の大きいクライマックスの話でラフィール達が偲ばれる記憶の象徴を次に繋ぐ役割を果たすのは熱かったですし、帝都陥落の中、ガフトノーシュ・ドゥラド抜錨の際、作中設定だけはだいぶ前から出ていたアーヴの最初の船、アブリアルが帝宮から形を変えて姿を現す、ラフィールたち純粋なアーヴはその光景に畏敬の念を抱くという箇所は、ジント達地上世界出身者にはそこまでピンとこないというリアルな描写も含めて重厚でした(ジントは自分はピンとこなくても尊重はするのがカッコいい)。最初の船から、記憶を繋いで新たな場所へ。まだ終わりではないという。

 そうして、今回で第一部完結という中、ラマージュら散っていった登場人物たちの中、まだ記憶を繋いで生きている、そしていよいよ時代の主力になっていくかのような登場人物達がいる。特に、ラフィール、ジント、エクリュア、ソバーシュ、サムソンの旧バースロイル組がいよいよ大きい物語の中でもメインポジションにきたっぽいのが熱い(プラス、アトスリュアとか)。そして記憶を繋いでいくのが主題の一つのようなのだから、新たに加わる新世代の登場人物達。この流れで第二部ではいよいよ「歴史」と向き合うと森岡先生言っている訳ですから(今巻のあとがきより)、若干生きてるうちに続きを読むのを諦めかけていた星界シリーズですが、引き続き自分が生きてる限りは寄り添って物語を追っていきたいと思ったのでした。

 あと補遺的に、もう難しいのかもしれないけれど、「軋む時空」〜「宿命の調べ」は映像化してほしい。アニメ『星界の紋章』〜『星界の戦旗1〜3』までを既に映像作品としての歴史的スペースオペラだと思っているので、映像作品としても区切りよいところまで残せないのだろうかとつい願ってしまうという。上述の帝宮がはがれて最初の都市船アブリアルが現れるシーンとか、めっちゃスペースオペラ的に荘厳な映像になる素地があると思うのですが。

→2014年3月20日発売

星界の断章III
森岡 浩之
早川書房
2014-03-20


→アニメ版も思い出の作品です

EMOTION the Best 星界の戦旗 DVD-BOX
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EMOTION the Best 星界の戦旗II・III DVD-BOX
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→前回:森岡浩之『星界の戦旗検″造犹空』の感想へ
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