ジョジョの奇妙な冒険 第7部 モノクロ版 1: Vol.1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
ジョジョの奇妙な冒険 第7部 モノクロ版 1: Vol.1 (ジャンプコミックスDIGITAL) [Kindle版]

 荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』第7部『スティール・ボール・ラン』全巻の感想です。
 ネタバレ注意です。第6部を中心に今までの「部」のネタバレも記事中にちょっと入ってます。
 ◇◇◇

 今作の見どころベスト3。


第3位:金(かね)と黄金

 アメリカの覇権期の黎明が舞台の作品。まず資本主義(お金が価値の基準でその拡大を追うのが是)隆盛が固まっていく頃の時代をあえて舞台に選んだ意図があると感じたのですが、何か所か、「金(かね)」と「(ジョジョ的な)黄金」が対照されてる箇所があると思いました。

 印象的な一つ目は中盤のディオVSジャイロ&ジョニーのレースで、ディオ(今作では金(かね)の拡大を一番野心的に持ってるキャラ)は、「一位になれる道」を選択するのに対して、ジャイロは「自分に馴染む道」を選択するという展開。馬のレースバトルにはなっていますが、比喩的に金の拡大を最短で選択するディオの思想と、「納得」が得たいだけというジャイロの思想の思想対決になってるんだろうなと。ジョジョ的な「黄金の魂」は、後者に関係していると荒木先生は考えてるっぽいと思いました。第1部〜第6部までにも、通俗的な価値観は一旦置いておいて、自身として「納得」が得たいキャラって出てきてますよね(「黄金の魂」サイドで)。

 引き続き、もう一つはこれまたディオが背後にいるVSサンドマン戦で、サンドマンは不本意ながらも、欧米的、白人社会的、資本主義的ルールを受け入れている(この時代の流れでは受け入れざるを得ない)存在として描かれてると思ったのですね。だから、あくまで「金(かね)」のルールの土俵に上がって、その中で邪魔になったジョニィとジャイロを消しにかかる。

 しかし、資本主義もまだまだ数百年たらずのルール、社会の仕組み。そんな枠組みの思想にのって襲ってきたサンドマンを、より普遍性がある「黄金の比率」に基づいた「黄金の回転」で打ち破るというこのエピソードも、前者の「金(かね)」思想に対して、もっと普遍的に伝承し得る「黄金」が打ち勝つというエピソードだと思ったのでした。


第2位:世界の幸福が等量だとしても

 ポコロコの能力が踏み込んでは描かれないんですが、序盤のこの「とにかく幸福が集まってくる」という描写近辺が、最終的な実質ラスボス戦のVSヴァレンタイン大統領で描かれる、「D4C-ラブトレイン-」の世界を描くための仕込みに既になっていたのだと思いました。世界の幸福は等量で、誰かに幸福が集まれば、世界のどこかで誰かが言われのない不幸を被っている。深読みすれば、劇中で起きた数々の不幸の分、ポコロコが幸福になって、最終的にレースの総合1位になる、というところまで構造的に物語が組まれているとすら思えます。

 この幸福観の世界観の中で、我欲的に自分、自己を押し進めた(上記の我欲で金(かね)の拡大を押し進めた考えとも似ている)としたら、大統領のイエス・キリストの遺体の謎のパワーで、幸福は自分たち周辺に集め、不幸は世界のどこか遠くへ飛ばす、という思想になる。最終戦の大統領のあり方と、かつて遠くの世界でいわれのない不幸を経験した(ネズミと兄の死のエピソード)ジョニィと、遠くの世界でのいわれのない不幸(理不尽に処刑される少年)に納得できないジャイロが戦うというのが、本当骨太な思想戦になってる最終決戦になってる。

 そして、これは次項とも関わってくるのだけど、バトル面ではジョニィが大統領を最後に倒すけれど、思想としては、ジャイロ、ジョニイから何かを受け取ったルーシー・スティールの姿で、大統領の幸福観を反駁して締めてると思いました。大統領戦が終わった後、ルーシーはジョニィがパラレルディオに敗れた場合を想定して、自分の手を汚して基本世界のディオの死体を掘る。手を汚す。何故なら、という部分が、


なぜそんなおぞましい事をおまえがする必要があるのだ?(スティーブン・スティール)

「幸せ」になるためよ。(ルーシー・スティール)


 最終回のこの部分に詰まっていると思います。大統領のイエス・キリストの遺体の謎の力で「ナプキンをとって」不幸を遠くの他者に飛ばして自分回りは幸せという幸福観にぶつかる、自分が汚れながら、傷つきながら「祈り」として幸せを求道する姿勢。最終戦も、ルーシーを助けるスティーブンの姿をジャイロとジョニィが見て、それは守らなければならないものだと思ったって感じで大統領と戦う流れになってると思いますし。


第1位:受け継がれる黄金の魂

 第四部までは血統としての「黄金の魂」の伝承、第五部はオーソドックスな血統を超えたのと、ブチャラティからジョルノへの伝承、第六部はジョースターの血統から、宇宙一周を経てもなおエンポリオへの伝承、そういう所に熱さがある作品群だと思ってるのですが、ついに並行世界が能力として出てきた大統領に対して、馬の力を加えた(これは馬乗りとしてのジョニィの人生がツェペリ家の千年の伝承に加わった+馬で走り続けたこの『スティール・ボール・ラン』という物語の意義が魂として加わったという比喩だと解釈しています)「黄金の回転」で、並行世界の次元を超えて勝利。かなりはっきりとした、「受け継がれる黄金の魂は次元も超え得る」描写だと思いました。ジャイロが死んだ後、ジャイロから伝えられたジョニィが発動した無限の黄金回転が幾多の並行世界を突破していくのは熱かった。

 もう一つはラストシーンで、最後の敵となる並行世界ディオ(伝承がキーの「黄金の魂」に対して、背景に積み重ねがない存在として映る)を打倒するのは、ジョジョたるジョニィじゃなくて、ジャイロやジョニィから「黄金の魂」を少し伝承したルーシー・スティールなのね。第6部の最後に描かれるのは黄金の魂を伝承したエンポリオ、と同じパターンですが、ここは、主人公(その部のジョジョ)だけが尊いという物語ではなく、あくまで伝承される黄金の魂の物語なんだという部分で、重ねても描きたい箇所なんだろうなと。

 ジャイロは敗北して死んだし、物語の帰結としてはジャイロが救いたかった死刑になる少年も恩赦の後に風邪であっけなく死んでしまったけれど、ジャイロが伝承者だった「黄金」の何かは、ルーシーやジョニィが継いで、世界は進んでいる。幸福の在り処は分からないし、支配できるような類のものでもないかもしれないけれど、という感じのファイナルシーンはすごい好き。

 ◇◇◇

 ウルトラジャンプに連載が移ったあたりから追いそこねていた『スティール・ボール・ラン』を読み終えたので、あとは『ジョジョリオン』の最新刊を読めば、ジョジョ? 全部読んでるけど? とようやく言えます(笑)。荒木先生は仙台の誇りだ〜。

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