本日発売の井上敏樹さんによる『小説仮面ライダー龍騎』の感想です。
 ネタバレ注意です。
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 大まかな設定、ストーリーはTVシリーズを踏襲している今回の小説版。真司の職業がOREジャーナルの記者じゃなくて「なんでも屋」になってたり、蓮と優衣がセフレだったり(え)と細かい所は変わっていますが、「相対的な正義を土台にしたバトルロワイヤル」という作品の核は変わってないと感じました。

 今から振り返るとゼロ年代バトルロワイヤル的作品の先駆け的な位置にもあった作品だと思うのですが、この主題の普遍的なことか、というのを今回も改めて感じたのでした。僕本人もあれから年齢を重ねましたが、未だにこれだ! という解法は思い浮かばないです。皆が譲れない正義を抱いてるわけだからな……。今回の小説版は真司と蓮をはじめ、それぞれの登場人物の過去エピソードが追加されているので、ますます「そのある一つの正義」が形成されるバックボーンが強化されてしまっています。その「それぞれの正義の一つたる自分の正義」を押し進めていくと、他の人の分の正義を排除するしかない。バトルロワイヤルに行きつくしかない、という問題。

 TVシリーズの解法、というか落としどころは、我、エゴのみで自分の正義を押し進めていくだけじゃなくて、その逆、ある種自分の我やエゴを捨てても他者を尊ぶということをやる、あたりだったのかなと解釈しています。真司は自分を犠牲にして人を守って死亡。それを見た優衣も、自分に命を与えるために神崎兄がやってるライダーバトルを棄却して自分の方が死ぬ。そういうヘビーな他者>自己にふれたところで、神崎兄が優衣の救済をやめて、例のエンディングへ……だったのかなと思っております。つまり、TVシリーズ版は、エゴの正義がうずまく世界なれど、自分を捨てても他人を守ることがあってもいいよね、的な所に終盤は一つ焦点があった。

 今回の小説版で上手いなと思ったのは、小説版なりに焦点をあてたこの「相対正義バトルロワイヤル問題」の解法があって、それが「仮面を外した心からの他者との対話」だったのかなと。ベタな解法ですが王道。

 小説版では要所要所で真司と蓮、真司と美穂などががっつり対話しており、ラストの龍騎VSナイトも、


 仮面越しでは伝わらないものがある。


 の一文が挿入され、お互い一旦変身を解いて話すシーンが入ります。小説中では「仮面ライダー」という言葉を使わずに「仮面契約者」という言葉を使い続けているように、小説版の一つのキーは「仮面」で、これをエゴイスティックに自分の正義だけに閉じこもったディスコミュニケーションの象徴にしていたのかな、と。で、そうじゃなくて、仮面を外して相手の正義にも目を向けてみて対話してみろ、というような解法。

 最後の一文で結局はナイトが勝って一つのエゴ、正義が貫かれたのは分かってしまうのですが、それでも、そういう所に辿り着いてしまうエゴや我欲の正義を掲げたバトルロイヤル世界だからこそ、一瞬でも「仮面を外した対話」が行われるのは尊いのじゃないか、という感じ。この辺りの切り取り方はかなり良かったです。

 他、どうやってライダーバトルの果てに願いが叶うのか原作TVシリーズでは分かりづらかった所を、例のパラレルワールドギミックを使って、神崎兄は、その勝者が願った願いが叶ったパラレルワールドに連れて行くことで願いを叶えるつもりだったことも明らかに。

 で、だけどそんな願いの叶え方はまやかしだ、と話が進む訳ですね。「逃避的パラレルワールドの否定から、一回性のこの世界への回帰」も、その後のいくつかのムーブメントになったゼロ年代作品で題材になっていたものですが、当時からの設定だったのかはどうか分かりませんが、龍騎もそういう話が射程に入っていた作品だったということですかね。パラレルワールドで願望叶えようとかじゃなくて、この一回性の世界を共有して、地道に対話で願望を折衝しろ、というような。

 他、ファンサービス要素は豊富で、TVシリーズ放映当時劇場版限定のライダーだった仮面ライダーファムこと、霧島美穂が主要登場人物の一人だったりで、その辺りは面白かったなと。当時、仮面ライダーファムを加藤夏希さんが演じるとういうのがエラク話題になったりでしてね。可愛い! と思って僕も数回劇場に足を運んだよな、とか、昔の郷愁感も刺激される一冊でしたね。龍騎は本当に好きだったからな……。

 他、小説中のシザースの扱いで「龍騎ピコチュキ団」世代はクスっと出来たり、結構オールドファンにはエンタメな一冊としてお勧めできるやもです。やー、北岡さんに燃え、あのBGMがかかってドラゴンライダーキックが炸裂するのに燃え、浅倉にこいつヤバいと思い……というあの頃を思い出しましたね。こういうヒーロー的な記憶を糧に、これからも少しずつ進んでいきたいものです。

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須賀貴匡
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)
2014-07-11


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