『劇場版「空の境界」未来福音(公式サイト)』、及び同時上映の『劇場版「空の境界」未来福音extra chorus』、及び来場者特典小説『終末録音/the Garden of oblivion』の感想です。

 本編及び原作『空の境界』全編のネタバレを含みますので注意です。
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劇場版「空の境界」未来福音extra chorus

 ことの他良かったのが宮月理々栖と浅上藤乃の二篇目。原作漫画でもそうだったのですが、橋の上で魔眼をふるう藤乃とかが映像ならではの迫力があり(第三章を意識させられる)、より本編との連続感が。本編全体に漂う主題でもある「贖罪としてのその後」を描いていることもあり、ちゃんと浅上藤乃アフターにもなっている。

 「未来福音」自体が「終わったこと」と「続いていくこと」が主題の作品だと思ってるのですが(全体では前者が識、後者が未那と光溜)、死んでしまった安藤由子と起こってしまった藤乃の事件。それは覆せないけれど、贖罪としての「その後」を宮月も藤乃も生きていく、とまとまっている。藤乃の方がちょっとだけ先駆けてるので、こちらが少しだけ宮月を導くポジション。

 そして三篇目が劇場アニメならではの追加が十全に加わっており、ラストに雪が降り出す→礼園女学院に戻る鮮花に迎える藤乃、静音……街の宮月の姿などが映し出され、例の劇場版「空の境界」のコーラスが……という、ああ、もう雪の中の街情景でこの曲がかかれば劇場版「空の境界」だよ! という雰囲気に。式と幹也のみならず、「空の境界」本編終了後のその後も生きていく人々……という感じにまとまっていたと思います。これは、Blu-ray買おう。


「未来福音」本編

 三パートのオムニバス形式の「未来福音」ですが、三パート目の両儀未那と瓶倉光溜パートが、ことの他豊になっていると感じました。原作小説だとボーナスとしてのアフターパートくらいの印象だったんですが、「その次」を非常に感じさせるVivid感に満ちていました。

 これは、石田彰さんと金元寿子さんの声の演技が加わってるのが大きい気がする。もう、キャラクターが生きていて、大袈裟に言えば『空の境界2(ツー)』の序章くらいの勢いなの。

 僕的にはどんなキュアピースとアスランだよ、という感じだけど、やはり声優さんは凄い。今回、映像媒体として、アニメは絵もさることながら声の力は凄い大きいなと改めて感じました。そこまで声優さん重視の視聴者でもなかったと思うのですが、たとえば「extra chorus」で能登麻美子さんボイスが聞こえてきただけで、能登さん藤乃きたー状態でしたからね。記憶との結びつきの度合いとしても、キャラクターに声が入るって大きいのですね……。

 未那と光溜さんに関してはこやまひろかずさんがイラストを描かれてるのでパンフレットもお勧め。これ、まなみつで妄想する同人誌増えるよ!

 全体のコンセプトが原作本にもあった「未来への祈り」というものをより膨らませてる感じなのですが、もう未那とか式と幹也の子供で未来の象徴ど真ん中なので、そこがよりイキイキとしているというのは良い。「続いて行く物語」という要素を、原作本発表時から時間を経て(2008年の発表当時は当時で意味があった)、2011年を経て2013年にまたこうして映像化という別の形で発表されてるのはとてもコンセプチュアルな感じ。


来場者特典小説『終末録音/the Garden of oblivion』

 結末からネタバレしてしまうと、礼園女学院の学園祭で謎の映写機(出所は橙子さん関係の魔術アイテム)を回した静音、鮮花、藤乃、黄路先輩らがループするバッドエンド物語の中に精神が閉じ込められ、さまざまなバッドエンドif物語(実質は二次創作的パラレル物語)を何パターンも経験する、というもの。そのうちの三篇を奈須きのこ氏本人が大いなる娯楽精神で執筆。


・第一回 9:30〜11:30

 世界滅亡します系ゾンビもの。鮮花も炎出せるし、黄路先輩も妖精使役できるしで、普通にゾンビと戦う面々という中、魔眼で曲げちゃえる藤乃登場が盛り上がるとか、インフレ感もメタにコメディにしてる作品。最終的にはインフレ頂点の式ゾンビが登場で全滅。バッドエンド。


・第二回 14:00〜16:30

 館ミステリ。ま、まあ奈須氏本人も綾辻行人尊敬してると明言してるくらいなので、遊びまくり。

 黄路先輩がピッキングはじめたり、藤乃はそもそも超能力で遠隔殺人が可能、など、本格における新本格をメタにコメディにしてる作品でもある。たぶん誰か一人につき一人犯人がいるという構造自体が何かの作品のパロディだと思うんだけど、そこまではミステリ造詣もないので分からず。これも、最後の方まで生き残ってた静音が式に殺されてバッドエンド。


・第三回 17:00〜20:30

 大人になった礼園の四人で同人やってます的「バクマン。」系作品です、とみせかけてSFでした! という、もうなんでもいいや感に満ちてきてる収録ラスト作品。

 前半の大人になった黄路先輩、鮮花、藤乃、静音が同人サークルやってますパートはけっこう想像・妄想掻き立てられて面白い。鮮花は普通に就職していて、ヘルプにだけきてるとか、幹也が式と結婚しちゃったので社会の荒波に揉まれて疲れがちながら妄想世界で発散させてる鮮花みたいな同人誌ください!

 ラストは、ようやく礼園にいないはずの式が全編のキーだったり、作品構造が明かされたりと、締めの一話。

 全体的に、主観トリックあり、読者への挑戦まがいのものあり、ループとかそれを終わらせる話とかあり、ミステリとかSFの面白要素どーんと詰め込んでみました的一冊。それでいて一応コンセプトの「終わらせるものは終わらせて、未確定の未来へ」というのが「未来福音」と合致してる謎の一冊。

 過剰消費世界の中、物語を終わらせて次の物語に進んでいくという話は、『Fate/hollow ataraxia』で描いたものと同じだと感じましたね。人気作ゆえに終わらない停滞になったかもしれない『Fate/stay night』に対して、ある意味ファンディスクの否定要素を盛り込んだファンディスクが『Fate/hollow ataraxia』ですが、『空の境界』も長いコンテンツになってきた中、区切り方はあの頃と同種と感じました。

 一方で、『Fate』自体はあの頃の想像を超えて、「Zero」に「extra」に「プリズマ☆イリヤ」にと謎の領域に突入していっている。その辺りは、時代の流れも『Fate/hollow ataraxia』発表の頃とはまた違ってきているとも思います。上述した未那と光溜の『空の境界2』じゃないけど、『空の境界』もそんな謎時代で、新たになにかしらの形で進展していくのでは、と期待してしまうのでした。TYPE-MOON作品繋がってるから、普通に「この先」の物語に式らが出てくるというのはあり得るよなー。





→前回:劇場版空の境界/第七章「殺人考察(後)」の感想へ
原作小説『空の境界/未来福音』の感想へ
『劇場版空の境界』の感想目次へ(全章感想書いております。)