地元仙台が舞台のアイドルアニメ『Wake Up, Girls!(公式サイトニコニコチャンネル)』。劇場版『七人のアイドル』のBlu-rayは本日発売。劇場で観た時に本編の感想は一度書いておりますが(その時の感想記事)、改めて感じ入った箇所などをまた感想。

 記事中はネタバレ注意です。
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 劇場で観た時の感想には、真夢が自分の「I-1クラブ」時代の映像を見つめて涙を流す→走り出す……という部分は、まだ真夢の背景(過去に何があったのかなど)が劇中で描写されていないので、まだ登場人物の感情を追い難い部分だ、と書いたのですが、今回改めてじっくり観てみると、BGMとして流れている挿入歌「リトル・チャレンジャー」の歌詞でこの時の真夢の心情を表現する、という演出を用いているのだと気付きました。「自分の本当に好きなこと」に関する歌詞です。

 このクライマックスのシーンはやっぱり丁寧に描かれているなと改めて気づいて、もう一つは藍里が泣いているシーンから、流れとして始まっているのですね。

 冒頭の真夢のモノローグにあるように、「幸せ」の授与に関しては3種類の人間がいて、それぞれ、1:「多くの人達を幸せにできる人」、2:「回りの身近な人たちを幸せにできる人」、3:「自分自身を幸せにできる人」だという話。

 松田マネージャーに勧誘された時は、真夢は自分は身近な人たちも幸せにできないし(主にお母さんとの関係を中心に、家族関係のことと思われる)、自分自身も幸せにできない。だから、多くの人なんて幸せにできないんだ、と語ります。

 なのだけど、WUG!の破綻が決まりかかって藍里が涙を流しているシーンで、真夢が藍里を見ながら過去の自分を重ねてしまう……というシーンは、「2」の「身近な人」である所の藍里を、自分なら助けてあげられる、幸せにできるんだ、と気づいてしまったシーンだと思うのですね。このシーンの真夢の表情なんかを観ていると。藍里が、過去の自分と重なっている訳ですから、藍里に幸せを授与するということは、過去の自分を救いに行くことでもある。

 真夢と藍里がどのように出会ってこれまで時間を重ねてきたのかは劇中ではまだ描写されていないのですけれど、一度破綻して心に傷を負った真夢の、ただ一人の心許せる友人という設定からも、やはり、真夢にとってもとても大切な「身近な」人としての友人なのでしょう。

 その人に、自分は幸せを授与できる、と気づいた所から、例の、真夢がもう一度「I-1クラブ」時代の自分の映像を見つめて涙を流すシーンに繋がっていく。友人に幸せを授与したい、できるかもしれないとして、「3」の自分自身の幸せはどうなんだ、と確認してるがごときシーンだったのですね。そして、「リトル・チャレンジャー」の歌詞に照らせば、真夢自身も、歌が、ダンスが、アイドルがやっぱり好きだということを、自分の本質として確信してしまいます。だから、走り出す。この流れが改めて追えて、やっぱりこの映画はイイな、と。

 ここまでで、劇場版とTVシリーズを通した作品・プロジェクトの主題であろう「幸せ」に関して、「2」と「3」が一致したことになります。「2」の「身近な人を幸せにする」に関しては、真夢に関してはお母さんと家族の問題が、まだおそらくはTVシリーズの課題として残ってはいますが。

 そうして、その段階をクリアした上で、ようやっと「1」の「多くの人たちを幸せにする」に向かって行きます。

 『Wake Up, Girls!』は、東日本大震災がプロジェクトスタートのきっかけだと各種インタビューで述べられていますが、2011年以降に受け手が積み重ねてきた経験・文脈で、感じ入る深さがたいへん異なる作品かと感じています。

 英語での感想の方に書いた話ですが、個人としての真夢の「失ったものを取り戻す物語」と、場所としての東北、宮城、仙台の「失ったものを取り戻す物語」が重なるように描かれているのですね。劇場版もTVシリーズも、実際の仙台の背景の中に、色々と「震災があったこと」を印象付けるものが描かれています。

 そうなると、これは仙台生まれの仙台在住という僕なりの受け手の文脈による所が大きくなるのですが、劇中に出てくる様々な仙台の場所(とても丁寧に描かれています)は、青葉神社にしろ青年文化センターにしろ、我々がずっと暮らしてきた場所で、そして3.11の前と後でも、何とか続いている場所です。『Wake Up, Girls! OFFICIAL GUIDEBOOK』の仙台の聖地紹介コーナーの「青葉神社」の項目には、送り手の意志を示すように「東日本大震災で崩れた鳥居はいまだ再建されていない」という一文がそえられています。そういう、一度破綻するような出来事があったけれど、何とか途切れずに続いている、という物語を、真夢個人だけじゃなく、「場所」としての東北にも、遠景で描いている。

 だから、最後のライブシーンの舞台となる勾当台公園は、僕も学生時代に立ったことがあるくらい、それぞれの県民、市民の思い出とリンクしてる場所で、そういう場所で、自分たちがステージに立った頃と、現在の思春期の若者と、3.11の前と後でも、途切れずに文化的な営みが続いている、そういう文脈も、ラストのライブシーンには、入ってきてしまうのです。

 十代の頃に、逆境から立ち上がって勝負しなきゃならない時、確かにあるよな。あったよな。と、非常に視聴者としての自分自身の文脈に照らし合わせてしまいながら涙腺にくるライブシーン。

 あとは、やはり「リトル・チャレンジャー」のシーンと同じように、ライブの映像と、「タチアガレ!」の歌詞で全て表現するという演出を取っていると思います。何か破綻的な出来事があったとしても、自分の本質はそれしかないのだからと、もう一度立ち上がる、という歌詞。本当に、真夢個人と場所との物語が、カチリとハマるようにクライマックスに持ってきている。

 終劇は、オタクのおじさん(大田邦良)一人にだけっぽいけど、「幸せ」を授与できた、というシーン。これは、「1」の「多くの人達」の最初の一人に幸せを届けられた、というシーンなのだと思います。ここで、Blu-ray特典の台本に、一項目取って「真夢」、そして「(笑)」という書き込みがあるのだけれど、初めて真夢が心から笑うんですね。おそらくははじめて、「1」「2」「3」が一致させられてアイドルとして「幸せ」を授与できたから。

 アンコールで「続く」へ。この「続く」がWUG!のキーワードの一つかと思います(TVシリーズも、止めそうになって、でも続けていく、という話が個別回でも多い)。破綻的な出来事で、途切れてしまいそうなことが、個人のレベルでも、場所のレベルでもあった。でも途切れない自分の本質を頼りに、もう一度立ち上がって、「続けて」いこう。

→特典CD「タチアガレ!」付属(2月28日発売)



→Wake Up, Girls! 1st Live Tour 『素人臭くてごめんね!』(東京・大阪・仙台)優先応募券付き

Wake Up, Girls! 1 初回生産限定版 [Blu-ray]
エイベックス・マーケティング
2014-03-28


→前回:『Wake Up, Girls!』第6話「まだまだだよ」の感想へ
→初回:MOVIX仙台で劇場で観た時の『劇場版「Wake Up, Girls!七人のアイドル」』の感想へ
→次回:第7話「素晴らしき仲間たち」の感想へ
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