おそらくは映画合わせで「ジャンプSQ.」に掲載された、和月伸宏先生自身の手による志々雄真実を描いた『るろうに剣心』の新規描き下ろし読み切り「るろうに剣心・裏幕─炎を統べる─」の感想です。

 記事中はネタバレ注意です。
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 『るろうに剣心』という作品の機微がある所として、原典でも、最近では「キネマ版」でもかなりそこにスポットがあたっていたのだけれど、当の剣心自体が、新時代明治に今一つ馴染めていないというのがあります。「キネマ版」だと、印象的には第六幕「明治の光」(感想)で描かれた感じで、時代は灯燈(とうろう)から瓦斯灯(ガスライト)に変わっていく。ガスライトは良いもののはずなのに、剣心自身は灯燈側の人間なんじゃないか、というような話です。「キネマ版」劇中だと、刀とお金の関係もそう。新しく隆盛してくるものがある一方で、淘汰されるものがある。じゃあ、淘汰された側の人間は?

 剣心自身はそれでも、原典でも「キネマ版」でも、新時代明治を薫と一緒に生きていくことを選ぶのだけど、今回の「炎を統べる」では、そんな剣心が最終的には肯定する新時代が、やっぱり地獄じゃん、という側面が描かれます。花魁は搾取され死んだら捨てられ、双子は売られる。

 何、こんな時代肯定する所に落ち着いてんだよ剣心って感じになるので、そこに、こんな時代もう一度ブっ壊してやると行動を起こそうとしてる志々雄様キターな感じになっております。志々雄様自身が、みんなが良いと、薫なんかが綺麗事的に道としての剣を語る新時代が明けるにあたって、淘汰された側の存在。十本刀もそんな連中ばっかり。良い、主人公へのカウンターヒーロー。てめぇ、何こんな新時代で「けれども拙者は そんな真実よりも 薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」とか言ってんの!

 女のために動く(剣心は薫のため、志々雄は由美のため)が、展開としては同じなんだけど、剣心の方は例の剣一本でもこの目にとまる人くらい守りたいで、志々雄は弱肉強食と、イデオロギーがまったく違っているのも、今回際立っている感じ。

 弱肉強食前提の中、弱者(今作では由美ら花魁など)を捕食していた官側という強者が、より強者である志々雄と十本刀に捕食される、という構図になる今回は、綺麗事的な(代表は薫の言動や不殺の誓い)ものを守ろうとする剣心に対して、本当の闘争という感じでカタルシス大き目。いや、見開きで志々雄様と十本刀登場はテンション上がりましたよ。もうタイムリーに読んでた時から十何年経ってるけど、十本刀全員覚えてたよ。この、これから腐った時代をブっ壊すために大暴れするぜ感熱い。原典終盤がわりと剣心個人の実存の問題に焦点があたっていったのに対して(ミクロ)、志々雄様のこの時代がどうこう、国が、世界がどうこう(マクロ)の方をやってやるぜ、という勢いは、剣心とは違うカッコ良さがあります。

 最後に、剣心と志々雄のパートナー観がより鮮明に更新された読み切りだとも思います。


 片方が死んで、片方が生きてしまった(死が二人を別かつまで)な剣心と巴、

 一緒に死ぬ、志々雄と由美、

 一緒に(未来を)生きる、物語終盤の剣心と薫、


 という感じでしょうか。

 世界は弱肉強食は前提、というのを共有しているからこそ、そんな世界で一筋の紐帯を結んでいる志々雄と由美の関係も大変に魅力的なので、ますます志々雄様サイドに感情移入して、腐った時代と剣心ブっ殺そうと盛り上がる感じになっております。

 そんな剣心と志々雄&十本刀の戦いは原作漫画で描かれているので、最近のリブート的な動きで初めて本作を知ったという方には是非読んで貰いたい感じ。僕が多感な中高生の頃タイムリーに読んでいたのを差し引いても、漫画の歴史に残るテラ熱の物語だと思います。

→最近はスマートフォンなどで読める電子書籍版も全巻出てます



→今回の「裏幕─炎を統べる─」も10月3日にコミックス刊行



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