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 アニメ『甘城ブリリアントパーク(公式サイト)』第12話「未来は誰にも分からない!」の感想です。仙台にて地方遅れ視聴中。

 ネタバレ注意です。
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 「役割」に当てはまるなら誰でもイイわけじゃなくて、その人じゃなきゃダメだ、という「代替不可能性」の価値を一つ描いてきたと思われる本作。鮫のジョーとか(第7話の感想)、エレメンタリオの四人とか(第9話の感想)については、それぞれがその「代替不可能な」価値を獲得していく様がこれまでの物語で描かれておりました。

 そして、物語の最終局面では、その人間の「代替不可能性」っていうのは、『甘城ブリリアントパーク』のキャストの面々だけじゃなくて、例えば今まで甘ブリを訪れてくれた数多の人々、縁があった人々、みんなそれぞれが、無機的な数字ではなくて、一人一人が代替不可能な「輝き」を宿した存在なんだ! という所までテーマが進んでいきます。

 京都アニメーション文脈的に、幼ハルヒは野球場の五万人の人々を前に、自分はちっぽけな存在に過ぎないと絶望したのだけど、今作では、サッカー場の五万人一人一人にもそれぞれ「輝き」はあったんだよってのを描いてる感じなのですね。ラスト三時間であと279人という所になって、その五万人、あるいはこれまで訪れてくれたゲストの人々全て、もっといって世界中の人々もそうなんだってことを写像するように、一人一人の存在がとても大切に描写されていきます。

 手法としては、モブキャラに思えた人達も実は代替不可能で大切な輝きを持った一人一人だったんだ! という描き方で、最終局面の来訪者は全員が作画として丁寧に描かれているのも凄いですが(例えば『けいおん!(!!)』の頃からモブキャラまで可愛すぎるで定評があった京都アニメーション!)、まずはタカミちゃんがやってくる辺りで既に涙腺にきてましたね。いやさ、世情的に居酒屋のバイトさんとか特に東京とかだと外国人労働者が中心になってきていて、それこそ『甘ブリ』でそういう感覚どうなの? って描いてきた「代替可能な労働商品」に見られがちなこと、厳しいリアルで確かにあると思うのです。だけど、そうじゃないんだって。僕らにとって代替可能な縁なき労働商品じゃなくて、タカミちゃんも代替不可能な己の本懐をもった大切な一存在なんだって。鮫のジョーとかエレメンタリオの四人にあった、それぞれの役割と本懐に関する物語が、タカミちゃんとかにもきっとあったんだって。そういう意味で、誰もがただの代替可能なモブキャラじゃないんだって。

 もう、深い事情は分からないんだけどアーシェさんと縁ある人達とか、ミュースのお祖母ちゃんとか(どんな素性か分からないのが、逆にテーマに忠実になってる)、ワニピーが連れてきた何か酔ってる人たちとかまで、とにかく、一人一人が大切な一人。

 極め付けはぼっち西也が呼んだ、寺野睦美で、こんなん、第8話(感想)だけのモブキャラじゃん! って感じなんだけど、その感覚こそが第8話で描いていた「役割に当てはめれば誰でもいい(代替可能でイイ)というのを押していくと滑稽でシニカルな事態に」という警句どんぴしゃで、そうじゃないんだと。寺野睦美も第8話用の誰でもイイ代替可能なモブキャラじゃなくて、最後の局面で大事なキーになる一人だったりして、やっぱり代替不可能な大切な一人なんだって。寺野さんが連れてきた人たちも良く見ると第8話の土田香苗さんや木村くんだったりして、これは凄いことやってるなと。あなたは俺にとって代替不可能な大切な存在だ! っていう『ハルヒ』解答も「代替可能で虚無的になってしまった人間という存在に"輝き"を付与する」にあたってはストレートですが、『甘城ブリリアントパーク』、こういう表現で、野球場の残り四万九千九百九十九人も大切だった。全ての人へのハルヒ性の付与、人々みなハルヒ化(大切な存在化)みたいなことを表現してくるとは。

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 そして、お姫さまの救済、ラティファの救済もやっぱり『涼宮ハルヒの憂鬱』あたりが本歌になっていたと感じて、ラティファが抱えている問題、これは人間性が無機的になってしまうという点でハルヒと同じだと思うんですが(ラティファの一年のループと人間性のはく奪については第10話の感想参照)、そういうお姫様、ヒロインを救済するのは、王子様ポジション(西也やキョン)一人からの承認だけではないって描いていたと思うのですね。

 西也一人では、最後、ラティファを抱きしめることしかできなかった。それはそれで美しいのですが、最終的にラティファを救ったのは、アニムスという設定を生かしての、上記した、一見モブキャラに見える人々たちの「楽しい気持ち」なんですね。そして、楽しい気持ちというか充実というか本懐というか、そういうものは「代替不可能性」から生じるとずっと描いてきたわけで、このピースがカチリとハマるような描き方は本当凄いですね。

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 最後の記述に入る前に、もう一つ、比喩的に描いていたであろう、『甘城ブリリアントパーク』=「どこかの昔はブイブイいわしてたのだけど現在は財政破たんまでリミットがみえてる国」要素について。

 第7話(感想)とかで、襲来者と正面からガチ戦闘するんじゃなくて、うまく付き合ったり取り込んだりしていこう作戦なのは描かれていたわけですが、最終的にも、「隣に出来るグローバル資本ショッピングモールとの共存」なんですね。映像として架け橋が描かれる未来像は、確かに理想の未来という感じ。敵対して戦闘じゃなくて、相乗効果に本当持っていきたい。Amazonとガチ殴り合うためにジャパン発プラットフォームを頑張るぞ! というよりは、ジャパン側はそれこそ「代替不可能な」価値を重視して、Amazonプラットフォームは利用しながらコンテンツは売っていく的な作戦。これ、KADOKAWAさんが噛んでる作品だし、絶対そういう含み持たせてると思うのですよね。

 そういう意味で、最後の三人の幼児を呼び込んだ要素は「エロ」(いすずさん)ということで、これは神作品でしたね。日本発コンテンツは世界相対的にどう考えてもエロいですが(それゆえに規制の圧力も常にありますが)、それが持ち味で切り札なんだから、これでいくしかない的な。この、ええっ!? 「代替不可能な価値」ってそういうこと!? 感も含めて面白かったですね。

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 最後に、それぞれが「代替不可能な価値」を獲得し、「パズルのピースハマるみたい。違うカタチ繋げてみる」のごとき「場」が出現し、お姫様も救われてめでたしめでたしという中において、一人去って行く「魔法使い」について。

 メープルランドの昔話の、国を救ったんだけど排斥された「魔法使い」(栗栖だと明らかになる)、これは疑似的に「甘城ブリリアントパーク」を救った西也と重ねられていると思うのですが、この「誰かの犠牲で"輝いた"場は維持されている問題」。擬似「魔法使い」である西也が救われないと、最後のピースがハマらないのですね。

 これ、どうするんだよ、王道的にヒロインパワーで救済とかなの!? と思っていた所、ラストの叔母さんとの会話の、


 楽しそうだったじゃん。

 アンタ、自覚ないの?



 のくだりは良かったですね。

 「自身の本懐を無視して代替可能な『役割』に押し込まれているうちに、無機的な存在になってしまった人間に、「代替不可能な」"輝き"を取り戻す」という物語。ラストは西也。役者時代に破綻を経験して以降何もかもつまらなそうだった西也が、「楽しい」という感覚を取り戻していた。何も劇的なヒロインと結ばれるイベントとかじゃなくて、ただ、この12話の物語が、主人公を救っていた。バイト面接回の第6話(感想)のように、一度破綻した人間の再生への場として描かれていた『甘城ブリリアントパーク』、その破綻からの再生の物語は、西也もだった。最後まで、おまえ、叔母さんに言われるまで気付かないってどんだけだよというカッコいい主人公でありました。

 優れていれば誰でもいい「代替可能な」支配人代行という「役割」を演じてるだけの可児江西也ではなく、自身の本懐と繋がったポジションを自分の意志でやる西也へ。それは代替不可能な可児江西也としての、「役割」との再契約。第7話の鮫のジョーの物語のグレードアップ版を主人公でやってる感じですが、でも「楽しさ」も伴う"輝き"ってそういうことだよね。着ぐるみとか、作中に色々と「役割」の暗示はあったけれど、自分の意志でもう一度支配人代行の「制服」を纏う西也はカッコいいです。

 かくして、"輝いた"「場」、「甘城ブリリアントパーク」に至る。ラティファの代替可能でしかなかったように見えるループする一年と重なるように、来場者数のカウンタもリセット。「次の一年」が始まるけれど、もし、一人一人が「代替不可能な」ものを獲得して本懐を生きているのならば、それはもう無機的なものではない。

 無機的になってしまった世界に"輝き"を取り戻す的な、それこそ『涼宮ハルヒの憂鬱』とか『けいおん!(!!)』とかも通してずっとやってきた「京都アニメーション」文脈の作品として、2014年時点の最前線を見せて貰った作品でした。

●前回、第12話が最終回かって書いちゃったんですが、もう一話ありました。続いて行く先も描くっていう感じなのでしょうか。第13話も楽しみです。

→Blu-ray第3巻



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→前回:『甘城ブリリアントパーク』第11話「これでもう心配ない!」の感想へ
→次回:『甘城ブリリアントパーク』第13話(最終回)「PVがつまらない!」の感想へ
『甘城ブリリアントパーク』の感想目次へ

【関連リンク:これまでの当ブログの京都アニメーション作品感想】

『涼宮ハルヒの憂鬱』最終回の感想はこちら
『けいおん!!』最終回の感想はこちら
『氷果』最終回の感想はこちら
『Free!』(第一期)最終回の感想はこちら

『中二病でも恋がしたい!』(第一期)最終回の感想はこちら
『境界の彼方』最終回の感想はこちら