毎年恒例、その年に触れた作品などで良かったものを、僕の主観でベスト形式で記載しておこうのコーナーです。今年は「アニメ部門」のみとなります。

 以下、基本的には作品に関するネタバレを含みますので、注意です。
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 東日本大震災が残した傷跡は未だ大きく(と特に東北で生活していると感じたり)。

 グローバル化がもたらした「貧困」を世界に平等にバラまくという力学はいよいよ実感をもって日本にも上陸し始め(今年、失業したとか。身近な人が失業した話を聞いたとか、増えてませんでしょうか?)。

 日本という国的には超少子高齢化・大介護時代に突入し(今年介護が始まったとか。身近な人が介護のために退職したとか、増えてないでしょうか。当方も親の介護生活十一年目)。

 そんな危機的状況の中で、進展と競争の力に頼らざるを得なかった社会は、自然と競争で勝った側と負けた側に「分断」され始めている。その「格差」にいよいよ実感が伴い始めていると感じる2015年暮れ。

 当のアニメーション業界も、バカ売れした「勝者」側の作品(とその贈り手たち)がある一方で、え、あの作品がBlu-ray(1巻あたり)1000枚も売れなかったの!? というような市場原理の観点的には「敗けた」側の作品(とその贈り手たち)との差が顕著になっているような観測も。あの制作会社が倒産(解散?)したとか、世知辛い話も飛び交ったり。

 そんな世界で、2015年の日本のアニメーションが放ったメッセージは、そんな競争の中の「分断」の力学を、そのまま受け入れるというのは私達としてはちょっと違うぞ、という「共同体の次のカタチ」というものだったのではと個人的には解釈。

 そんな世界の片隅で。栄える者から貧した者まで。お兄ちゃん、車掌さん、お嫁さん。日本のアニメーションはまだ死んでない。以下、個人的2015年に視聴したアニメーション作品ベスト10。

 冬眠中のシロクマもぬらりと起きて、年末年始はアニメを観よう。

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第10位:『ラブライブ!The School Idle Movie』(公式サイト

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 μ's(ミューズ)解散にいたる、最後の物語。

 そこまで至るにあたって、未来への不安をどうするか、μ'sが解散した後の未来で自分は大丈夫なのか……という不安を払拭していく過程が描かれていると思うのですが、主には、1.「どこでもμ's的な生き方はできるはずだ」、2.「ステージの上のμ'sだけじゃなく、ステージ下の市井のアイドルたちがネクストμ'sになっていく」の二点で昇華していたと感じました。

 「1」は、前半のアメリカのパートとかで、ここでも「ライブ」は出来そうだという話や、穂乃果が一人離れてしまっても(擬似・μ's解散後の一人状態)、μ'sメンバー以外の人の助力で戻って来られる……というパート。

 「2」はラストのスクールアイドル全員ライブに至るまでの過程で、「ステージの上のナンバーワンスクールアイドルμ'sとそれを観る観客」……という形式(というかそういう世界)だけだと構造上弱いので、ステージの下の普通の人達も「アイドル化」「μ's(的なそれぞれの輝き)化」していくというもの。確かに構造上こちらの方が強いです。μ'sだけなら困った時残りの八人が助けてくれるかもしれないけれど、こっちは、道行く全ての人達がμ's的な人たちという世界観なので、助けてくれるのは残り八人にとどまらない無彩限な人たちです。「一部のスーパーヒーローだけが凄いのではなくて、これまで助けられていた街の人達が立ち上がる」という最近の東映さんの『平成仮面ライダーシリーズ』『プリキュアシリーズ』の世界観とも近いです。時代はこちらの方向性か……。

 かくして、『ラブライブ!』から『ラブライブ!サンシャイン』へ、「μ's」から「Aqours」へ。途切れない永遠的なものを乗せて、プロジェクトは2016年以降へ。引き続き追って行ってみたい作品&プロジェクトなのでした。

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第9位:『アニメ「艦隊これくしょん -艦これ-」』(公式サイト

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 2010年代の(ゲームでの)ヒットタイトルで、ゼロ年代ループものADV作品の構造をアニメという媒体で改めてやってみたというような作品。

 主題歌の歌詞とか、随所の断片的な描写、そして第10話(感想)とかから視聴者が能動的に組み立てるしかないので(こういうのもゼロ年代ADV作品っぽい)、分からなかった人には世界の構造とかの話は全然分からなかったやもしれない作品でもあります。そういう作品ゆえに、これまたゼロ年代作品のノスタルジーを勝手に思い出したりして、『コードギアス反逆のルルーシュ(R2)』のラストも、『ひぐらしのなく頃に(解)』の裏エンディングのラストも、意味分からなかった人は分からなかったまま2010年代を生きてるのか……と妙にしみじみとした気持ちになったりも。

 この辺りは自分の電子書籍で恐縮ですが、こちらなどを参考に。↓



 そもそも、艦娘たちが深海棲艦と戦ってるこの世界がループする虚構(的)世界の何周目かであることに気づくかという第一段階。そこから、裏エンディングとして、そんなループする虚構の中でも、提督と吹雪のような「変わらない常世の縁」がある(現世で二人は結婚している)という作品だという所に気づくかという第二段階。

 この辺りは最終回の感想に全部書いてますので、アニメ版『艦これ』の世界の謎関係が気になる方などは参考に読んで頂けたら幸いです。↓


アニメ艦隊これくしょん -艦これ-/第12話(最終回)感想(少しラストシーンの解説含む)


 絵的には、最終回で北上さんのピンチに駆けつけてドロップキックする大井さんの所が面白い&カッコ良かったですかね。おそらくこの二人も現実では自分の本徒を全うできなくて自己否定感に悩んでいるのだけれど、この虚構世界で、それでも現実世界の「縁」を頼りに、やっぱり大井さんは来るっていう。

 自分の本徒(本来の生きる目的のようなもの)とズレているがゆえ(ここを、大和さんのエピソードなどで中盤でしつこく掘り下げていた)に、自己肯定に至れないという自身の無価値感を、「縁」というもので乗り越えようとするのは、けっこう普遍的なことをやっていると感じた作品でした。カタルシスの中心は「さだめのくびき」をルートブレイクした所にあるのではなく(そして、描き方から、おそらく実はルートブレイクできてない)、大井さんが来てくれたから、あるいは提督が来てくれたから、報われた(自己肯定に至れた)っていう部分にある作品だと思ったのでした。

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第8位:『劇場版 境界の彼方 -I'LL BE HERE- 未来篇』(公式サイト

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 「どちらも存在して良い世界」という着地点はTVシリーズと同じなんだけど、TVシリーズが眼鏡栗山さん(=『涼宮ハルヒの消失』の眼鏡長門さん=選ばられずに存在できない女の子)も存在して良い世界、で締めてたのに対して、とはいえ眼鏡なし栗山さんも存在して良い、と、逆アプローチから描いていた作品。総じて、TVシリーズの「先」の話というよりは、相補的な位置付けの作品というのが僕の印象でした。

 栗山さん。TVシリーズが、秋人からの存在肯定の証(誕生日=存在が生まれた日を祝福するために秋人が選んでいた)である「眼鏡」で「存在して良い」になっていたのに対して、本劇場版は、呪われた血だとしても自分を生み出してくれた存在からの肯定、「お母さんの指輪」で「存在して良い」となっていた感じ。

 栗山さん。秋人。泉。美月、と、「そのままでは世界に存在していていいのか分からない」人達オンパレードな中、次々と「ああ、存在していても良いんだ」ってなっていく流れは優しかったです。栗山さんと秋人が相互承認関係でそこに辿り着くのは王道だったとして、個人的には泉と美月について、博臣がその役を担っていたのがすごいツボでした。地味に博臣無双作品。

 特に、こちらの記事の通り。↓


境界の彼方/第12話(最終回)感想(少しラストシーンの解説含む)


 美月(CVも『ハルヒ』の長門と同じ茅原実里さんがおそらく意図的に配役されている)に関しては、TVシリーズラスト時点でも「それでも選ばれなかった存在」という意味合いが残留していたので、そんな美月が力を求めてしまう→博臣がそれは違うとそのままの美月を肯定してあげる……のくだりはホロリときましたね。

 後述する『響け!ユーフォニアム』もですが(オーディションに敗北して檀上に上がれず、恋愛パートでも久美子に敗れた葉月に、夏紀先輩から抱擁が与えられる『かけだすモナカ』(感想)など)、この「生存競争から零れ落ちた存在にも、祝福は与えられる」ということを、ここしばらくの京都アニメーション作品はずっと描いていると思います。

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第7位:『Charlotte(シャーロット)』(公式サイト

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 そもそも『魔法少女まどか☆マギカ(感想)』がゼロ年代ループものADVの影響をアニメという媒体に変換しつつ総決算したような作品というのがまずあり、そんな『まど☆マギ』を意識して(シリーズ構成の話数対応など、意識してるフシが見られる)、当のゼロ年代ADVの金字塔KEY作品の麻枝准氏がシリーズ構成・脚本を担当したという……位置づけとか考え始めるとけっこう複雑な作品。

 帰結として、『まど☆マギ』+KEY成分という感じになっていた印象です。「+KEY成分」の所は、『AIR』のラストシーンとか、『CLANNAD』の幻想世界の意味とかみたいな、「劇中で明確には説明されないけど、確かに存在する圧倒的な奥行き」みたいな要素。

 これ、最終回までで描かれた要素の他に、長期彗星といわゆる「あの世」的な場所との関係(美砂の台詞。『Angel Beats!』とのリンクなど)、サラの正体など、もう一層「奥」があるのですよね。

 そういう明確には描かない部分も含めて背後に世界を作って、表に出てきてる物語としては、何重にも「破綻した兄(姉)と妹」という要素をいくつものレイヤーで描いて、最終的にお兄ちゃん(有宇)にもちゃんと救いがあった……というのは良かったです。

 そのお兄ちゃんを救った要素、「約束」はKEY作品っていうか麻枝さんの作品をずっと追ってると非常に重いボロ泣き要素なのですが、これは、感じ入った程度はKEY作品やってるかどうかで分かれたかもしれない。「約束、帰ってくること」で『Kanon』から『CLANNAD』までばーっと思い出して僕はグっときたよ。

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第6位:『アイドルマスター シンデレラガールズ』(公式サイト

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 今作も、主に「ユニット」という集団を使って、「共同体の次のカタチ」について描いていたという側面が印象に残ってる作品です。

 どこか、共同体は壊れるのが前提になってる所があって、だからこそ欠けた部分を補い合う、みたいな世界観が好きでした。「凸レーション」が到着しないかもしれないから、凛たちがバックアップとして待機してる。「ラブライカ」で美波が欠けてしまって、蘭子が代わりに入る。そういう、日本のアイドルは百色百光にして、市井の人達までがアイドルなので、欠けるようなことがあったとしても補って違う形で表現していくぞ感がとても熱かったです。

 終盤、「New Generations」も一度欠けてしまうのだけど、実は卯月が取り残された感を感じている間、小日向美穂さんが卯月の隣にいてくれたという所が地味に好き。メインのシンデレラプロジェクトメンバーからするとちょい役ポジションなんだけど、まさに「欠けてる時、市井のアイドルが補ってくれる」が表現されていた所だと思うのです。第24話(感想)ラストの卯月が復活するくだりの時、卯月を見つめる小日向さんの顏も映るのがすごい好き。

 『ハナヤマタ(参考:『けいおん!』と『ハナヤマタ』で重ねられている演出とその意図について)』『SHIROBAKO』などが、一度壊れた共同体が再合流する……所にカタルシスを持って来ていたのに対して、「再合流するまで(「New Generations」も最終回で再合流はする)、欠けてる部分は補ってくれる人がいる(いてくれたらイイな)」という部分にスポットがあたっていたのがすごい2015年型の作品だなと思って視聴しておりました。零れ落ちた葉月に対する夏紀先輩(『響け!ユーフォニアム』)、零れ落ちた美月に対する博臣(劇場版『境界の彼方』)、そして零れ落ちた卯月に対する小日向さん……と、今年はこういう作品が多かったですね。

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第5位:『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』(公式サイト

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 タイムリー感想で書いていたのとは少し違う視点から。

 アンジュ視点からすると、自己否定&世界の否定から始まって、第22話「Necessary」(感想)でそれでもこの愚かな世界と自分を肯定しよう、という所に辿り着くまでの物語とも捉えられます。

 第一話は、もう、自分はノーマだったっていう最高の自己否定からのスタートですよね。さらに、物語が進むと、第十話「絞首台からサヨナラを」(感想)のラストでは(ヒルダと一緒に)この世界をブッ壊すと、世界の否定の方に進みます。この辺りの、どこかで信じていたものに裏切られて自分を肯定できない感覚を持っている。その「自分はそこから排斥された」という怨念を、世界とか社会とかに向けている。ここまでは現代社会あるあるで、2014年〜2015年にタイムリーな主人公像だと感じていました。

 そこから、表面的には世界の方を変える。リベルタスだなんだと、一見「革命」の方向に全体としては進んでいくのですが、正直な所、自分を否定したまま、世界を否定したまま進んでいく行軍というのは、苦しいです。このフラストレーションがどう解消されるのか? というのがアンジュを中心とした物語のけん引力でした。

 最終的には、やはりタスクの存在が大きかったともってきて、アンジュは自分自身の「意味」を回復するのですね。自己否定の克服には二段階描かれていると思って、第一段階は第三話「ヴィルキス覚醒」(感想)の「殺して生きる」なのですが、これは、死のうと思ってた(自己否定)アンジュがそれでも「生きる」って意志を見せた点では自己肯定なんですけど、どこかブラックエンジンを原動力とした自己肯定という感じがします。そういう力で物語を進めていくのだけど、最終的にはタスクの存在が大きくて、ホワイトエンジンでの自己肯定に至ると。最終回のノーマが女性だけなのは子をなすからという趣旨の語りからも、「殺す」意志で自己肯定していた段階から、「生み出す」意志で自己肯定に至るまでの精神の変遷と捉えると、綺麗かもしれないです。タスク(とモモカ)が生きていてくれたから、愚かでもこの世界を肯定しよう(この意志が、玩具のように世界を融合させてしまおうとしてるエンブリヲとの対立軸になってる)→アンジュという個人、アンジュという女性の自己確立→最終戦へ……という、主人公の感情のステージアップとマシン発進が重なる第22話辺りが一番好きでした。世界と自分の意味が回復したタイミングで、「力」は訪れるのだった。

 個人的には『ガンダムSEED』の頃からcontroversialな(議論が湧き起るような)立ち構えを取ることが多い(気がする)福田監督(今作ではクリエイティブプロデューサー)なのですが、意外にも? 描いてくれたエッセンンスは、無価値化した世界の中での、世界と自分の意味の再獲得というものだったのではと解釈。第22話のアンジュが感じたものが、ともすれば『けいおん!』で澪が合宿回で花火をバックにエアギターする唯を観た時に感じたもの(『京都アニメーション』作品的に言う所の「輝き」)と、接合可能だと思うのでした。

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第4位『Go!プリンセスプリキュア』(公式サイト@朝日放送公式サイト@東映

 →当ブログの感想(プリキュアシリーズ用別ブログ内)へ

 初代から十年超えで継続して視聴してるので、毎年ランキングには選んでいるのですが、今年もプリキュアシリーズ@2015年がランクイン。

 これも毎年言ってる気がするのですが、序盤→いつも通り面白いけど前作とかこれまでが凄かったから普通くらいかなぁ。終盤→今年も神だった!……となるのが、毎年の恒例行事。

 今年だと何と言っても第39話「夢の花ひらく時!舞え、復活のプリンセス!」(感想:別ブログ)で、ボロ泣きでしたよ。

 今年は「夢」がテーマなのですが、視聴序盤から、このご時世に「夢」をテーマにするって大変そうだなぁ、とか感想に書きながら視聴していたのです。なのですが、そういう背景・世情の中、「一度絶望して夢を失っても、もう一度立ち上がれるとしたら、それは何によるのか」を十全に描いていたと思います。

 これも、何気に「支えは一つではない」という話なのですよね。はるかの「夢」の拠り所だったカナタ王子に「夢」を否定されて絶望するのだけど、支えてくれていた人はカナタ王子だけではなかった……という展開。『シンデレラガールズ』の、凛と未央が遠くに行ってしまったと感じる卯月だけど、卯月を支えてくれていた人はニュージェネのメンバーだけではないと同じような展開です。「お母さん(プリキュアシリーズ的・少女創作的に「母親」は大きい要素なのです)から貰っていた花の髪飾りで再変身」&「Let's Go! プリンセス」とついに作品タイトルの意味が明らかになる&カッコイイ挿入歌スタートと、僕が東映作品に求めているもの全てが詰まった回でした。一番盛り上がる所で、主題歌orカッコイイ挿入歌がスタートするっていう、シンプルな演出が超好きだったりするのですよね。『平成仮面ライダー』映画だったら、「アギト」と「W」みたいな(え)。

 日本の「ヒーロー」像をけん引してきた東映さんが、2015年に辿り着いたヒーロー像が他者の助力・支え・関係性を前提とした春野はるかさんだったのは熱いと思うのです。

 これは、「他者の記憶を前提にしか存在できないヒーロー」という『仮面ライダーディケイド(感想)』から続いてるヒーロー像とも言えるので、今年世に出現した神同人誌、TJさん(ブログ)のプリキュアシリーズ十世代記念アンソロ『PRECURE 10TH ANTHOLOGY ディケイド&オールプリキュア ANTHOLOGY大戦』(通称ディケプリアンソロ)も購入しておくこと!(僕も2P寄稿してます!)

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Go!プリンセスプリキュア vol.1 [Blu-ray]
嶋村侑
ポニーキャニオン
2015-10-21




第3位:『SHIROBAKO』(公式サイト

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 クリエイター気質の視聴者は「クリエイター」あるある、社会人視聴者としては「集団でのお仕事に」あるあるな視点から共感して視聴できていたと思われる作品。僕は前者の感覚が強かったです。個人的には、特にみどりとしずか。

 みどり。個人的に十年以上小説を書いてる身としては、徹夜でドストエフスキーを読んで日中寝るという序盤のみどりの大学生生活に「そういえば僕にもこういう頃あった……今思うと貴重な時間で、あの頃読んだ(読むのに時間とかエネルギーとかいる)骨太な本が今の糧になってるんだよな……」とノスタルジーを覚えながら共感し、世の中には「物語」を必要としない人もけっこういて、だけど自分は「物語」が必要な側の人間なんだ……という彼女の奥に沈殿しているものに、またしても、それ、僕も昔何となく気付いた時あった……とまた共感し……。歩いてる時も、(劇中のように)電車に乗ってる時も、頭の中で「物語」を作り続けているんだけど、一般の人というか、世の中には別にそういうことしてない人もいるんだって気づく時、あったよね……。また、「物語」を必要としない側の人間に、自分の両親をあげる時のすごい悲しそうな表情芝居とか、もう。自分の根幹が近しい人には伝わってないっていう……「物語」を作る人はどこかで通る道なんだけど、やっぱり寂しいよね。結婚したい(え)という方向で女性キャラとして好きな面と、この娘は昔の僕だ! という自分の投影としての感覚と、両方感じながら視聴していた、魅力的なキャラクターでした。

 しずか。

 ある程度実力はあるし(この段階に来るまでに既に彼女は狭き門を何度も通過してるのです)、努力もしてるのだけど、報われない時間が長い。声優は(ある程度)デビューまでに期限がある職業なので、そろそろ焦りも出てくる。友人の絵麻やあおいが結果を出して行く中、自分は……という自己無価値感。すごい、分かる……!

 それでも、居酒屋のバイトをしつつ、着ぐるみの仕事とかめげずに続けてるんだけど、一人の時に(先に進んでいる友人たちには直接愚痴れないから)ついTVに向かって悪態をついてしまう……という一人飲みのシーンが好き。

 彼女が報われる第23話は今年一番涙したシーンやもしれない。しずかが劇中で演じてアリアに向かって語る台詞は、そのままあおいに向かっての心情になってるのだけれど、


 「ありがとね、アリア。私を助けてくれて。あなたが私のために流してくれた見えない涙と血は絶対に忘れない。」


 高校の同好会的な友情は、過酷な大人の社会人世界では壊れるのが当たり前なんじゃないか? という厳しい視線もずっと奥にあった作品。なのだけど、あおいとの友情は確かなものだった。途切れないものもあった……というのと、しずかがこの世界で生きていく意志を再獲得する(ルーシーの台詞ね)のとが重なる、とても素晴らしいシーンでした。一つ成就したのはしずかだけど、救われたのはあおいだ……というシーンでもある。泣いたよ。

 脚本に『けいおん!(!!)』シリーズ構成の吉田玲子さんも一部参加されてる作品でしたが、『けいおん!(!!)』的な学生時代の楽しかった共同体が終わった後に、厳しい大人の世界で我々はどうやって人と人との関係性に真摯でいたり、生き甲斐をもって生きていったり(大人世界なりの「次の共同体のカタチ」の模索)できるのか。「アニメーション制作」という題材で丁寧に描いていた作品だったと思います。

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第2位:『響け!ユーフォニアム』(公式サイト

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 とりあえず、この作品から受け取ったすべては、当ブログの今年の間違いないベスト記事。5000ユニークアクセス超え感謝のこちらに書いているのでよろしくです。↓


響け!ユーフォニアム最終回の感想〜ポニーテールと三人のハルヒ(ネタバレ注意)


 自分なりに構築しきった文章を五千人に読んで頂けるというのは久々のことでした。まずはありがとうです。

 『けいおん!(!!)』的な、「別に本物の武道館を目指さなくても(競争世界に参加しなくても)、この講堂が私たちの武道館」、そういうある種のぬるさを拒否するように、「競争にコミットすることで得られる輝き」に焦点が当たることから始まる作品。スタート地点はある意味『けいおん!(!!)』の否定。

 なのだけど、物語が進むにつれて、実はむしろ「競争に敗れた側」の救済の物語という側面が大きいことが明らかになっていきます。劇中で、オーディション(競争)などで最後まで勝ち抜き、『ハルヒ』的な本当の意味での「特別」に到達できそうな麗奈は、実は思ったより「物語」の中心ではない感じです。

 むしろ、オーディションで麗奈に敗れた中世古先輩、自分は麗奈にはなれない側の人間なんだと突きつけられてしまう久美子、そんな久美子にも敗れてしまう夏紀先輩。そういった人間たちが、どのように、麗奈とはちょっと違うカタチでの「特別」を獲得して、京都アニメーション的、それこそ『けいおん!(!!)』的な「輝き」「日常の中の世界と自分の意味」を再生できるのか、そういう部分に焦点があたっていた「物語」だと思います。それは、最終回後のBlu-ray&DVD第7巻収録の番外編エピソード「かけだすモナカ」(感想)で、オーディションでも恋愛でも敗北した葉月に「輝き」が付与される様が描かれることで、着点を迎えています。

 そういった、檀上、「限られた枠」に入れる人間と、入れない人間との分断を縫合できたなら、という最終回は、まさに『けいおん!(!!)』最終回の唯澪律紬と梓との分断が空(部室・学校の外の世界でも続く紐帯)に抜ける比喩で永続性で縫合されるのと重なります。つまり、『けいおん!(!!)』の否定チックに入って、『けいおん!(!!)』の再生で終劇するようにも捉えられる作品。「放課後ティータイム」的な「輝いた」共同体は、やがて壊れる類のニセモノチックなものでありながら、でもだけど信じるに足る、ホンモノ性もあったはずだ、という2015年の共同体試論。勝ち抜ける人間(麗奈)も、勝ち抜けなくても自身の本質に気付いた人間(久美子)も、敗北した人間(夏紀・葉月)も、排斥された人間(葵)もいる世界で、今後も我々は生きていくのだった……。

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第1位:続・劇場版『Wake Up, Girls!』前篇[青春の影]&後篇[Beyond the Bottom](ポータルサイト

 地元仙台が舞台のアイドルアニメ&リアルアイドルプロジェクト。続編にして(ひとまずの)完結編の続・劇場版。

 僕が個人的にこの作品&プロジェクトから受け取ったものはほぼこちらの記事に書いたので、こちらを是非。↓


縫合の物語〜〜続・劇場版『Wake Up, Girls!』後篇[Beyond the Bottom]/感想(ネタバレ注意)


 感想記事に書いた話と少し視点を変えて当記事に寄せるなら、やはり、「競争の中で敗北した側」に寄り添う人がピックアップされているということ。志保には里佳やネクストストームのメンバー。勝子さんには丹下社長。

 だから、コミックス版からの急な参加の感もありながら、敗北を経験する志保のアンダー(代役)である里佳がクローズアップされてたりするのだと思うのです。『シンデレラガールズ』の項で書いた、共同体から誰かが欠けた時に、それを補う存在の意義ですね。「I-1」クラブ側は、(どちらかというと良い意味で)「代わりはいる」力学で今の世界で闘うアイドル像。

 一方でWUG!は逆に、「あなたの代わりはいない」という、この七人でしかできない「永続性」とでも言えるようなものに焦点があるアイドル像。菜々美には代役を立てたりはしない。決断し、迷いながらも、やはり菜々美は戻ってくるというくだりですね。

 個人的にはWUG!的な「永続性」の方に、何らかの真実性を感じてしまう所がありますが、この「永続性」要素は、わりと「宗教性」と重ねて論じられる話だったりもします。

 「アイドル性」と「宗教性」を重ねて論じるという方向は、友人同士の軽い会話から、「え?」という反応も多い(気がする)濱野さんの『前田敦子はキリストを超えた ──〈宗教〉としてのAKB48』などまでわりと「ある」事柄なのですが、歌詞にあからさまに「神」が出てきて、聖性を演出してるWUG!の[Beyond the Bottom]は、その中でもかなり独特だと感じます。

 この辺りは、いずれミルチア・エリアーデとかと絡めて書いてみたいかもです。アニメの感想というよりちょっと硬めのテキストになるかもですが。共同体の永遠性を考えた場合、そこにはどうしても鎮魂の要素が入ると僕は思ったりなのです。

 東日本大震災が発端のプロジェクトでした。ずっと応援してきて、再起の物語であった最初の劇場版「七人のアイドル」から、やはり変わらずに再起の物語で締めてくれた続・劇場版・前篇[青春の影]&後篇[Beyond the Bottom]に感謝。

 アニメーションで台湾から仙台に観光客を呼び込むプロジェクトも発表されました。個人的に引き続き併走していきたいプロジェクト&作品です。なので、最後にまだ未見の方向けに宣伝をば。


 物語の時間軸(お勧めの視聴順)は、


・『劇場版Wake Up, Girls! 七人のアイドル』(舞台は2013年)
  ↓
・TVシリーズ第一話〜第十二話(舞台は2014年)
  ↓
・『続・劇場版Wake Up, Girls! 前篇[青春の影]&後篇[Beyond the Bottom](舞台は2015年)


 です。

 最初の『劇場版Wake Up, Girls! 七人のアイドル』の街アカリに続くエンディングシーンが何と言ってもエッセンスなので、いくつかリンクを張っておきますね。

→Blu-ray



→Amazonビデオ



→ニコニコ

http://www.nicovideo.jp/watch/1389334001


 一度破綻を経験した個人と、場の再生がリンクする物語。

 是非ぜひ。

当ブログの『Wake Up, Girls!』全話感想

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 以上。2015年のアニメーション作品ベスト10でした。

 勝者には驕らない姿勢(麗奈が中世古先輩に頭下げるシーン@『響け!ユーフォニアム』とか良いよね)や寛容さを。負けた側には勝てなかったなりの「特別」と、それでももう一度立ち上がるということを。

 アニメーション作品が大好きです。続きは、2016年へ。

●参考リンク:去年以前のベスト記事など↓

2014年ランゲージダイアリー的ベスト、「アニメ部門」へ
2014年ランゲージダイアリー的ベスト、「漫画部門」へ

2013年ランゲージダイアリー的ベスト、「漫画部門」へ
2013年ランゲージダイアリー的ベスト、「アニメ部門」へ
2013年ランゲージダイアリー的ベスト、「小説部門」へ

ランゲージダイアリー的「2012年にふれた作品ベスト10」(この年はまとめの記事でした)

ランゲージダイアリー的2011年ベスト/アニメ編
ランゲージダイアリー的2011年ベスト/小説編