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 アニメ『無彩限のファントム・ワールド(公式サイトニコニコチャンネル)』第11話「ちびっ子晴彦くん」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 ずっと感想記事で書いている通り、ハルヒ文脈があると思われる本作。『ハルヒ』の作品としてのキーワードでもある「願い事」、前回のルルに続いて、今話ではついに主人公の晴彦の「願い事」が描かれます。

 前提として、前半から伏線を張っていたように、自分のイメージを「召喚」という形式で具現化できる晴彦は、『ハルヒ』における時空改変能力的なもの、同じく『ハルヒ』アフター的なコンセプトがあった『境界の彼方』における、虚構(自分の想像)実現化能力に相当する「境界の彼方」の能力を、最初から持っている主人公であるということ。


参考:境界の彼方/第12話(最終回)感想(少しラストシーンの解説含む)


 その虚構(願望)実現化能力で晴彦が願ったものは、「家族との日常」、特に「母親との日常」でした。それゆえに、実現化してしまって、晴彦、子供に。

 この晴彦の「願い事」は、第1話の電柱付喪神の「リンボーダンスしてほしい」とか、第9話の亜弓先輩の「演劇部でみんなでがんばって地区予選突破の栄光を」とか、第10話のルルの「ラムネをまるまる飲みたい」とか、そういうのと同種の、「本人は心から望んでいたのだけど、叶わなかった願い」です。そういったものを、尊重しようよ、寄り添ってあげようよ、というのが、本作がずっと繰り返し描いてきた事柄でした。

 で、ここから今話の脚本が第7話「シュレーディンガーの猫屋敷」と同じく、『けいおん!(!!)』及び(テーマ的に)そのアフターである『たまこまーけっと』のシリーズ構成、および『たまこラブストーリー』脚本の吉田玲子さんが、再びあえて京都アニメーション作品で担当されてるのに意味を深読みしてしまう箇所ですが、晴彦が願った「お母さんとの日常」というのは、とても児童時間的で、やはり『けいおん!(!!)』的日常なんですね(後述しますが、より正確には『たまこまーけっと』で描かれる「家族の時間」に近い)。今話の前半では、そんな晴彦の叶わなかった『けいおん!(!!)』的日常が、舞という母親の「代役」によって実現した穏やかな優しい時間が描かれます。

 加えて、前回の感想でも紹介しましたが、「日常」の維持のために、誰かが自分の本心を抑圧している、という構図(日常の維持のためのコストの話)は、丁稚さんの『たまこまーけっと』感想を是非読んでみてください。↓


『たまこまーけっと』を振り返る/ねざめ堂


 商店街の「日常」を維持するために、自分自身のメインストーリー(亡くなったお母さんへの気持ちなど)は引っ込めている、『たまこまーけっと』のたまこ、という吉田玲子さん自身が描く、(「日常」の意味が変わった)3.11以後の(テーマ的)『けいおん!(!!)』アフター的な作品です。

 その『たまこまーけっと』を連想するように、「日常」の風景を維持するために、晴彦と舞は、「お母さんへの気持ち」を誰にも話さないでいました。話すと、「日常」は壊れてしまうから。

 なのだけど、今話にて、晴彦と舞は、お互いがお互いを承認するように、「日常」の維持のために語ってこなかった「母親」のことを、お互いに語ります。これで、「日常」が維持されつつも、一人「母親への気持ち」を抑圧していた晴彦にも寄り添ってくれる舞がいて、とても理想的な時間が続くかのような状態になります。

 なのですが、吉田玲子さんのいくつかの『けいおん!(!!)』アフター的作品が、ある意味『けいおん!(!!)』時間を終わらせて、「その次」に向かうことの意味を描いているというのは、


『けいおん!(!!)』シリーズ構成の吉田玲子さん脚本による「バッドエンドけいおん!」を浄化する物語〜無彩限のファントム・ワールド第7話の感想(ネタバレ注意)


 でも書いた通りです。

 ずっとこの優しい時間が続けば良かったのだけど、訪れる危機の中、舞が失われるかもしれないという状況になった時です。

 晴彦の「願い事」が変わります。


 「舞お姉ちゃんを助けたい。僕が子供なんかじゃなかったら」(一条晴彦)


 この時、晴彦にとっても舞が、「母親の代役」から「愛する人」に変わっています。ここで、『ハルヒ』リフレイン。ずっと「代役でもいいんじゃない?」ということを描いてきた本作(封印において玲奈の代役の晴彦、小糸の元へ晴彦が行ってる間晴彦の代役を務める久留美さんなどなど)ですが、そちらに物語の軸がふれるほど、逆説的に、再び「代わりのいないあなた」という関係の意味が再浮上してくる。『ハルヒ』における「ただのクラスメイトじゃない(代わりはいない)」というラストのキョンからハルヒへの気持ち。それと重なる「母親の代役(舞じゃなくてもいい)」じゃない、舞という「代わりがいないあなた」への気持ち。

 愛する人を守るために、児童時間、『けいおん!(!!)』時間は終わらせよう。涙腺にくる一話でありました。「日常の維持」から、それが壊れるとしても「本人の物語としての恋愛」に飛翔するあたりは、ここまでは『たまこまーけっと』で、今話は『たまこラブストーリー』だ! という展開でもあります。

 おまけに、ここで主題歌名『Naked Dive』およびその歌詞とリンクするように、晴彦全裸演出。現実か虚構か、人間かファントムか、日常か非日常か、どうでもイイ。愛する人の元へ駆ける。それのみ。だとしたら、あらゆる虚飾は剥ぎ取られて、全裸だ! テーマ上はガチ全裸の方がイイんだけど、良心で、パンツは装着!

 次回サブタイが「母は帰りぬ」で、やはりお母さん関係。『けいおん!(!!)』アフターの『たまこまーけっと』→『たまこラブストーリー』の流れを踏襲してる点で、『けいおん!(!!)』アフターアフター(ややこしい)な作品であったし、何度も書いてきたように、『ハルヒ』の系譜の作品でもありました。

 願わくば、それらの積み重ねの上に、また一歩「物語」が進むことを期待して、終盤の話数を楽しみにしたいと思います。

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→前回:『無彩限のファントム・ワールド』第10話「小さいルルの大きな夢」の感想へ
→次回:『無彩限のファントム・ワールド』第12話「母は帰りぬ」の感想へ
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