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 アニメ『小林さんちのメイドラゴン(公式サイト)』第3話「新生活、はじまる! (もちろんうまくいきません)」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」と「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」の話。(この二つのコミュニケーション様式の違いは、詳しくは第1話の感想を参照です。

 まず、「小林さんち」という「共同体」内部で、ちゃくちゃくと「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」が出来上がっていっているのが描かれます。

 小林さんとトールの体の洗いっこなんかがそうですね。「内」の中でのコミュニケーション。

 第1話ラストの同衾対話もハニートークの比喩かと思われますし、今話ではあからさまに小林さんが旦那さんでトールが奥さんと模されるシーンもありますし、小林さんとトールは夫婦の比喩で、全体的に「小林さんち」は「(擬似)家族」モチーフなのですね(カンナが子供ポジションですね)。

 で、この「小林さんち」という一つの「内」を持ってる「共同体」が引っ越しで移動して、それぞれに異なる「内」を持っている「共同体」間、ご近所さんとの接触にさらされます。今度は、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」ですね。

 で、この辺りのエピソードは、いわゆるリアルとかでも最近ずっと言われている、「島宇宙」に閉じてしまう問題について扱っているのだと思います。笹木部さんは「料理」、谷菜さんは「音楽」、曽根さんは「木彫り」と、それぞれの「島宇宙」を持っています。これは、現実だと「クラスタ」とかで呼ばれるものです。趣味「共同体」みたいなものです。

 リアルの方でも、それこそ「アニメ」クラスタ(島宇宙)、「韓国ドラマ」クラスタ(島宇宙)、「アイドル」クラスタ(島宇宙)などなど、色々といるわけですが、とにかく細分化してるのが現代だと言われています。劇中で小林さんも「メイド」クラスタ(島宇宙)です。

 問題として指摘されてるのは、それぞれが、それぞれの「クラスタ(島宇宙)」に閉じこもってしまっていてイイのか? という視点です。あまりにも、それぞれの「クラスタ(島宇宙)」が分断されてしまうと、「クラスタ(島宇宙)」同士が激突した時に、殺し合うしかなくなります。

 それがまさに、笹木部さんと谷菜さんと曽根さんが言い合っているシーンで、さらにトールはその「外」側の存在ですから、もう、「分断」の向こうは、壁の向こうは排除すればよいかと、一瞬トールが殺そうとします。

 そこで小林さんが「ドア」を開けて登場して、いわばそれぞれの「クラスタ(島宇宙)」の「境界領域」として機能する、という展開。(部屋の位置的にも、小林さんちが真ん中で「中間」です。)

 それぞれが、それぞれの「クラスタ(島宇宙)」を持ってるのは基本的には良いこと。一つのロングテールを深堀りしていくのは楽しいです。ただ、自分の「クラスタ(島宇宙)」の「外」を完全に排除してしまうんじゃなくて、波が寄せたり引いたりな感じの、お互いの宇宙にちょっと侵入してみたり、また出て行ってみたり、そんな領域があった方がイイんじゃないか、という。完全に自分だけの「クラスタ(島宇宙)」に閉じこもるのも、孤独だったりするしね、という。

 壁よりも、波打ち際、というメッセージですね……。

 続いて、小林さんが職場の飲み会といういわば職場内という「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」を拒否して、「小林さんち(境界領域)」で、色んなバックグラウンドの存在が寄せては引く、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」的なパーティーを行うというお話。

 「職場の飲み会」は『甘城ブリリアントパーク(感想)』でも描かれていて、あちらでは、当初はモッフル卿とティラミーたちくらいしか飲み会に来てくれなかったのですが、各々のそれぞれの本懐を獲得する物語を経てからは、ミュースたちも来てくれるようになる……という物語ラインでした。

 リアルでも、己の本懐を得ないまま「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」を強制される飲み会は厳しくて、己の本懐を得ている同士で行われる飲み会は楽しかったりなのですよね……。

 今回の展開は、小林さんは、いわばモッフル卿(職場の上司的なポジション)の誘いを断っていた、初期のミュースさん達のポジションですね。

 これは作品全体としてはどういう要素になるのだろう。「会社」(という「共同体」)を必ずしも否定的に描いていない作品と思われるので、小林さんも今話ではブラック気味労働してる描写が入ってますが、何かしらやっぱり仕事とか会社もね、的な描写も今後入ったりするのだろうか。

 「小林さんち」での「境界領域」的交流、パーティーのシーンは本当秀逸で、全ては取り上げられないくらいですが、ファフニールさんと滝谷さんがゲーム(虚構的なもの)を媒介にして「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」してるのは良い感じですね。近年の京都アニメーション作品が描いている、「虚構(たとえばアニメーション作品)」を楔とした「共同体」のカタチ……という要素とも合致します(参考:響け!ユーフォニアム2最終回の感想〜全てに終わりがあるとしてもゆかりにまつわる音楽を響かせること(ネタバレ注意))。メタに、リアルで僕らも『メイドラゴン』オフ会とか、『響け!ユーフォニアム』オフ会とか、やっていったら良いんじゃ、という。

 それでも、滝谷さんにはファフニールさんが宝箱にこだわる理由が分からないままだったり(ファフニールさん側の文化圏に属する事柄だから)、微妙に「すれ違って」いるままなのも味わい深いです。前回のトールとカンナが日本文化に関して誤解釈(すれ違い)したまま交流していても、それはそれで、受容する文化・「共同体」……という流れとも合致します。映画『聲の形(感想)』とかも、こういうことを描いていたと思うのですけどね。西宮硝子を我々が完全に理解することは難しい、だけど、「すれ違い」を含んだままなりに交流していける(排斥しないでいられる)、しなやかで、受容的で境界領域的な「共同体」であれたなら、という。

 この流れで、次回はカンナが「学校」という「外」の「共同体」に行って、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」がまた追加される展開なのか。本当面白いですね。

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→前回:『小林さんちのメイドラゴン』第2話「第二のドラゴン、カンナ!(ネタバレ全開ですね)」の感想へ
→次回:『小林さんちのメイドラゴン』第4話「カンナ、学校に行く!(その必要はないんですが)」の感想へ
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