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 アニメ『小林さんちのメイドラゴン(公式サイト)』第4話「カンナ、学校に行く!(その必要はないんですが)」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 今回も「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」と「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」の視点から。(この二つのコミュニケーション様式の違いは、詳しくは第1話の感想を参照です。

 冒頭が、「小林さんち」「共同体」に招き入れられた木彫りのゴリラ(「外」の共同体の曽根さんが作ったもの)ということで、今回はある「共同体」に、「外」から何かが入ってくるお話。

 まず、「商店街」という「共同体」が、内部に「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」を含んでいる話を、トールが「癒着」という言葉で表現します。

 本作の「商店街」は『たまこまーけっと』の「うさぎ山商店街」の(和歌でいう)本歌取り表現だよ、という話を第2話の感想(こちら)でしましたが、本当にその(癒着)ように「商店街」「共同体」の「内」でだけ閉じてしまっているのだとしたら、通気性がないいわば「バッドエンドうさぎ山商店街」になってしまう……という視点が一つ遠景にあります。

 本作の「商店街」は、そうではないんだ。「外」からの「異質」者であるトールを「受容」するしなやかさはあるんだ……というのが第2話では描かれていたのですが、今話はそこから「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」についてです。「ショッピングモール」という、それはそれで「内」を持っている「共同体」との関係が描かれているのですね。「ショッピングモール」はトールから見ると「壁」に見えるという比喩が入って、やはり、一つの「商店街」VS「ショッピングモール」的な、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」が発生しているのが見て取れます。

 結論は、こちらも小林さんが「境界領域」要素になって、壁の向こうの「ショッピングモール」と戦争するのではなく、普通に「ショッピングモール」にも買い物行くよ展開。『甘城ブリリアントパーク』の終盤でも描かれていた(参照:『甘城ブリリアントパーク』第12話「未来は誰にも分からない!」の感想)、「ショッピングモール」的な存在と、「ローカル」的な存在の併存……という方向性ですね。世相的には、Amazonと地域書店の関係みたいなものです。うまく両方関係し合いながら併存できたら良いんだけどね、という。

 そんな感じで、今回は「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」に焦点があたる回。ついに、「小林さんち共同体」から、カンナが学校に行くというかたちで、「学校共同体」との接触が描かれます。「小林さんち共同体」と「朧塚小学校共同体」の「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」ですね。

 この、出来上がってる「学校共同体」と、その「外」からの異質者という構図は、『響けユーフォニアム2』の、出来上がってる「北宇治高校吹奏楽部共同体」と、その「外」の希美さんという構図と同じです。『響け!ユーフォニアム』が「学校共同体」側の視点からこの現象を描いていたのに対して、本作は、「外」の異質者側の視点、希美さん視点、カンナ視点から描いている……とも見てとれます。


参考:まだ生きている大事な人にちゃんと想いを伝えておくこと〜響け!ユーフォニアム2第十二回「さいごのコンクール」の感想(ネタバレ注意)


 案の上、才川リコの存在で、ちょっとだけカンナ(「外」から来た異質者)を排斥する動きも出るのですが、わりとすんなりと、カンナは「朧塚小学校共同体」に受容されます。同じ「共同体」の「内」で行われる「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」では同じ「言葉」が使われる……というのが本作が焦点をあてている箇所ですから、ラストの「朧塚小学校共同体」全体が「マジやばくね」という同じ「言葉」を使い出す展開は怖いですね(笑)。このように、ある「共同体」が「外」からの異質者を受け入れる、受容するというのはもちろん理想的で良い話なのですけど、その話は、受け入れた側が「外」からの異質者の影響を受けて「変化」するのとセットです。ギャグチックにはなってますが、時にはそれまで「共同体」で使われていた「言葉」ごと、「外」からの存在にハックされるというのは、あり得るのです。日本語、大切にしようね。教育全部英語でやればイイとか愚かなことは言わないでね……。

 続いて、ドッチボールパート。

 これは、やはりそれだけで「内」の「言葉」を持ってるような「マイルドヤンキー的共同体」と「ドラゴン・カンナ・才川リコ共同体」との「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」として描かれます。というか、公園という「領土」の奪い合いですから、「戦争」の比喩ですね。

 で、わりと「ドラゴン・カンナ・才川リコ共同体」が勝ちます(笑)。そして、そのままドラゴン基準のバトルドッチボールを始めてしまって、これは「ドラゴン共同体」の「内」だけの「言葉」で「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」している状態ですから、こちらもやはり、公園という場をハックしてしまったのですね。

 まとめると、


・「ショッピングモール共同体」―「商店街共同体」
・「小林さんち共同体(というかカンナ)」―「朧塚小学校共同体」
・「ドラゴン・カンナ・才川リコ共同体」―「マイルドヤンキー的共同体」


 全て、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」が生じているのは同じです。

 そして、左側が「強い」というニュアンスもあった一話だったと思います。やっぱりカンナは「ショッピングモール」的なものに惹かれてランドセル・小物などに染まりますし、「カンナ」は強くて「朧塚小学校共同体」はカンナ的に染まりますし、「ドラゴン・カンナ・才川リコ共同体」は強くて「公園」はドラゴンたちに染まります。

 こっちの力学だけだと、強い方から弱い方に影響していくだけで、世知辛いのですが、面白いのは、「内」に取り入れるのもオーケーという視点があることで、右側の弱者側の「共同体」が、徐々に多様性を内包した「しなやか」なものにアップデートされていって、左側に回っていっている点です。

 「ショッピングモール共同体」から「ランドセル(や小物)」を導入してニュー「小林さんち共同体」へ。そんなニュー「小林さんち共同体」から「カンナ」を導入してニュー「朧塚小学校共同体」へ。そんなニュー「朧塚小学校共同体」から「才川リコ」を導入して、ニューニュー「小林さんち共同体」へ。

 今回は「外」からの異質を「内」に取り入れること……というのが焦点ですが、やはり「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」と「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」は相互に関係し合っていて、千変万化しつつも循環し合っています。そして、全体像としては、『響け!ユーフォニアム2』の感想で僕がよく使っていた言葉だと、「曼荼羅(マンダラ)」的な「共同体」像が浮かび上がってくる感じになっています。

 今話だけだと強い側に追い出されちゃっただけに見える「マイルドヤンキー的共同体」も、おそらく、彼ら自体が別な「共同体」に貫入したり、あるいは彼らの「共同体」に異質を導入して、ニュー「マイルドヤンキー的共同体」になったりしていく……という世界観・「共同体」観なのだと思います。

 この流れで、次回はついに「会社共同体」との接触、「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」発生! というお話っぽいですか。本当面白いですね。どこまで、本作の「共同体」像は展開されていくのでしょうか。

 楼閣が実は大楼閣の一つで、大楼閣も大大楼閣の一つで、でも極大は同時に極小でもあって……みたいな、本当仏教方面の世界観ですね。

 どういう感想記事だという感じですが、仏教の中でも「華厳経」の、善財童子が大楼閣の中に無数の楼閣があることを見つけたシーンを引用しておいたりしてみますよ(笑)。


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「これらの無数の楼閣は、互いに侵害し合わない。それぞれが他のすべてと調和して個としての存在を保っている。ここには、一つの楼閣が他のすべてと個的または集合的に融合するのを妨害するものはない。完全なる混合状態にありながら、しかも完全なる秩序を保っているのである」

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 参考文献(引用元)。

華厳の思想 (講談社学術文庫)
鎌田 茂雄
講談社
1988-05-02


 この作品の終盤では、シンボルとしてこれに近い、「楼閣モデル」的な「共同体」像が浮かび上がってくる気がしてきております。

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小林さんちのメイドラゴン 1 [Blu-ray]
田村睦心
ポニーキャニオン
2017-03-15


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→前回:『小林さんちのメイドラゴン』第3話「新生活、はじまる! (もちろんうまくいきません)」の感想へ
→次回:パッヘルベルの『Kanon』のように「繰り返し」ながら「受容」の「共同体」は波打つように少しずつ豊かになってゆく〜『小林さんちのメイドラゴン』第5話の感想
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