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 アニメ『小林さんちのメイドラゴン(公式サイト)』第8話「新たなるドラゴン、エルマ! (やっと出てきましたか)」の感想です。

 ネタバレ注意です。
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 今回のキーワードは「同格(対称)」で、「同格(対称)」だからこそ小林さんとトールはケンカもするんだな……という二人の関係のパートは分かりやすかったと思うのですが、そこからエルマさんがやってくるパートとも絡んで、少し遠くはこちらの世界とあちらの世界(ドラゴンがいる世界)との「同格(対称)」とは? というところまで想像の射程が伸ばせるような一話になっていたと思います。

 まず、序盤の「遠足弁当試合三番勝負」パートですが、ここはこのブログの感想で使っていた言葉を使えば、小林さんち「共同体」という「内」での、またまた小林さんとトールの「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」が描かれている箇所です。

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 前提としての、「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」と「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」という二つのコミュニケーション様式の存在と、その違いについて詳しくは第1話の感想を参照です。

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 で、今話のラストに絵的にも分かりやすく回収されるのですが、小林さんとトールは形式上は主人とメイドという関係なのですが、その関係は「支配―被支配」ではなく、「対称」(同格にバランスが取れている状態)だということを描いていた箇所かと思います。

 前者はイメージ絵としてはピラミッド構造を、後者はシンメトリーなものを想像して頂けら分かりやすいと思います。ルコアさんが(トールが小林さんとケンカするのは)「珍しい」と指摘していますが、小林さんとトールの関係は「対称」にまで辿り着いたので、ケンカもするようになったという話なのですね。

 このパートを踏まえた上で、本作で繰り返される、「内」を持っている「共同体」に「異質」が貫入してくるという展開。今話で小林さんち「共同体」に貫入してくる「異質」は、もちろんエルマさんです。最初は絵的にも壁を破壊して突っ込んできて、本当「外」から「内」に貫入してきた感アリアリですね(笑)。

 ここで、エルマさんは「調和勢」で、トールは「混沌勢」という言葉が分かりやすく使われていますから、ここでのエルマさんとトールのコミュニケーションは、もろに異なる勢力同士の「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」です。

 で、「外」からの「異質」であるところのエルマさん、今話で三回小林さんち「共同体」にやってくるのですが、最初は、もろに排除されます。一回目は、草原送りに。

 ここは第一段階で、しっかりと「内」を形成してきた小林さんち「共同体」に、もう「外」からの貫入者(エルマさん)なんて入れないよ! という段階が描かれています。

 二回目は翌日にやってきた箇所で、一回目よりはマイルドに小林さんち「共同体」の「内」までエルマさんが入って来てるのですが、ここではクリームパンで餌付けされて追い返される……というのが描かれます。だいぶマイルドにはなってきてるのですが、「食べ物」を押さえてるのがトール側なので、ちょっとここでのトールとエルマさんの関係は「支配―被支配」になってる感じがします。

 ここで、本作では定番の、一人の人間が一つの「共同体」に属しているわけでなく複数の「共同体」に属しているので、ある場所では「inter-group communication(集団間コミュニケーション)」しか取れなかった人同士が、別のある場所では同じ「共同体」に属して「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」をしたりもする……というのが描かれます。具体的には、小林さんち「共同体」くくりだと「内」と「外」の分断された関係だった小林さんとエルマさんが、会社「共同体」だと、同じ「内」に属する者同士で「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」をやる、というのが描かれます。

 そして、同じ「共同体」で「intra-group communication(集団内コミュニケーション)」をやってみると何かが伝播する……というこの作品の法則にのっとり、ここで小林さんからまた、受容の態度、「対称」の態度などが、エルマさんに伝播します。

 帰りにエルマさんが「コロッケ」という「食べ物」をを美味しいって食べるシーンがこの話のエッセンスでもあって、今度は一方的に餌付けされたものではないものをナチュラルに食べてエルマさん美味しいって言ってますし、ここで重要になるのは、前半の料理対決パートで、小林さんが謎の肉(?)というあちらの世界の「食べ物」を食べてるシーンが入っていることです。

(なお、ここで「コロッケ」なのは今話の演出・絵コンテの山田尚子さん監督作品『たまこまーけっと』で「コロッケ」がとある文脈で重要な感じで使われているののセルフオマージュかと思われます。)

 エルマさんもこちらの世界の「食べ物」を食べるし、小林さんもあちらの世界の「食べ物」を食べる。これが「対称」っていうことで、個人間の人と人との関係性の「対称」の話から、こちらの世界とあちらの世界の、世界と世界の「対称」の話まで射程が伸びて行っているのが感じられるギミックです。

 ともすると、目をギラつかせて和食を輸出するぞ! とか現実でも言っちゃいがちなのですが、「対称」な異文化交流の観点からすると、こっちもあちらの国の「食べ物」を食べる、というバランスがないといかんということです。そのバランスがないと、関係はたちまち「対称」から「支配―被支配」になってしまいます。

 最近はそこまで話題にならなくなったキーワードですが、少し前に「フェアトレード(Fair trade)」という概念が注目されたことがありました。貿易において、現地の労働者や子供を搾取して出来上がった商品を裕福な国の人が買い叩いてるのはおかしい、いわば「非対称」だとして、そういう「支配―被支配」の関係を解消した、生産・貿易の過程において、現地の労働者や子供にも十分な富が行きわたってるような状態で貿易(トレード)されたものだけを買う、みたいな話です。

 厳しい現実だと中々そうもいかない面もあるのですが、今話で描かれていたのは、ちょっとこの「フェアトレード」方面的な発想も絡むような、人と人の、国と国の、世界と世界の「対称」性の復元、というような話かと思います。

 前半の料理勝負パートがちゃんと全体の話のキーになっているのに構成力を感じるところですが、この「食べ物」を媒介にして、小林さんとエルマさん、こちらの世界とあちらの世界が、少し「対称」に近づいたことで、エルマさんも軟化。今話三回目の小林さんちの訪問が描かれます。

 ここで、エルマさんは小林さんにお守りという「お返し」を持って来ており、やはり一方的に「食べ物」を恵んで貰う「支配―被支配」の関係から、三回目の訪問にしてようやく「対称」の関係になってきた、という感じになっています。

 結局、三回目もトールの熱線でエルマさん排除されちゃうんですけど、一回目の草原送りよりは、まだ近場に飛ばされていて、ちょっとずつ排除の程度は減り、受容の態度の方面に彩(いろどり)が増してきてるのが伺える感じになっています。

 ラストは、今回のエルマさんのイベントを経由しての、改めての小林さんとトールの関係の確認です。エルマさんのイベントを経由して、トールは過剰に小林さんを接待するような行動に出てしまうのですが、これは見方を変えるとトールが小林さんに「媚び」てしまってるということで、二人の関係性が、ちょっと「支配―被支配」に逆戻りしてしまっています。

 そうして、トールと小林さんの関係の「対称」のバランスが崩れかけていたところを、愛情はトールから小林さんへと一方方向じゃなくて、小林さんもトールのことを想ってると、いわば小林さんから言葉+頭をなでるという「リプライ(返事)」がトールに返ってきて、「対称」のバランスはまた復元される、という締めになっています。背が低い小林さんの方がトールの頭をなでるという絵が、逆説的に「対称」の表現になっていて、上手いなーと思った部分です。

 「対称」性が崩れて、「支配―被支配」関係になってないか? という問いかけを、小林さんとトールの二者間の関係に関してと、こちらの世界とあちらの世界(ドラゴンがいる世界)との関係に関してと、重層的に問いかける一話になっていた、素敵な一話だったと思います。

 で、恒例のというか、ちょいパート、今回だと翔太くんとルコアさんのパートも一応このテーマの補強になってます。

 こっちは人間とドラゴンの関係が、小林さんとトールの関係の場合と逆で、そのままだとルコアさんの方が強くて、ついルコアさん優位の「支配―被支配」の関係にバランスが傾きがちです。

 で、翔太くん、ルコアさんを悪魔だと誤認してるという当初からのディスコミュニケーションネタから繋がって、相変わらず(夢で)ルコアさんを色々なものに誤認してるのですが、これも京都アニメーション作品的な「繰り返し」モチーフで(参考:パッヘルベルの『Kanon』のように「繰り返し」ながら「受容」の「共同体」は波打つように少しずつ豊かになってゆく〜『小林さんちのメイドラゴン』第5話の感想)、少しずつマシになってきていて、最後の誤認対象の「力士」は、まあ意志がある生命体です(笑)。その上で、二回目のループまではルコアさんから迫られるばかりだった翔太くんが、最後のループでは翔太くんの方からルコアさんのおっぱいを揉みます(わざとではない)。いちおう、上記のメインストーリーで小林さんがトールに「リプライ」を返すのと同じで、翔太くん側からの「リプライ」です。

 そんな感じで、こっちからも揉むぞ! と(笑)ちょっとだけ翔太くんとルコアさんの「対称」性も復元されて終わっているのでした。

 今話の演出・絵コンテは『けいおん!(!!)(感想)』、『たまこまーけっと』&『たまこラブストーリー』、映画『聲の形(感想)』などの監督の山田尚子さん。たとえば、『聲の形』において(第2話より、ドラゴンには異国人のみならず、障害がある人というような連想もできるように作られてる作品かと思われます。)石田将也と西宮硝子はいかにして「対称」になれるのかとか、そんな遠景も想像しながら観てみても、味わい深い一話だったかもしれません。

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→前回:『小林さんちのメイドラゴン』第7話「夏の定番!(ぶっちゃけテコ入れ回ですね)」の感想へ
→次回:『小林さんちのメイドラゴン』第9話「運動会!(ひねりも何もないですね)」の感想へ
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