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 アニメ『小林さんちのメイドラゴン(公式サイト)』第10話「劇団ドラゴン、オンステージ! (劇団名あったんですね)」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 家、商店街、学校、会社、などなど様々な「共同体」が出てくる本作。

 「共同体」にまつわる物語を扱うのは、最近の京都アニメーション作品の傾向の一つです。本作の「朧塚商店街」の元ネタにあたる「うさぎ山商店街」が出てくる『たまこまーけっと(公式サイト)』などは、それこそ商店街「共同体」を描いた作品でありました。

 そういう傾向の中で、本作は特に「共同体」と「共同体」の「関係」により焦点をあてて描いている作品だと感じております。小林さんち「共同体」の小林さんと、翔太君ち「共同体」のお父さんが、会社「共同体」でも社員と専務という形で「関係」し合ってる……とか、そういう構造で表現している箇所です。

 そんな中で今回出てきたのは老人ホーム「共同体」なのですが、これが商店街「共同体」経由でトールが関わる……というきっかけが描かれます。

 第2話(感想)で商店街「共同体」はトールという異質者を排斥しなかった! という展開があるからこその今話の物語になってるのですね。あそこで商店街「共同体」がトールを排斥しなかったからこそトールが「代役」という形で老人ホーム「共同体」に喜びを届けられたという流れなので、やはり「受容」の態度で異質者を「共同体」の「内」に受け入れておくということをやっておくと、良い方に繋がることもあるんだ、ということが描かれております。

 ちなみに、ここでトールが怪我したおじさんの「代役」なのは、もろに近年の京都アニメーション作品が追っている「代役」のヒーロー像に当てはまります。

 「代役」のヒーロー像は、これはかなり現代的でカッコいいヒーロー像なので、興味がある方はこの辺りの記事を参考に読んで頂けたら喜びます。『響け!ユーフォニアム』なら夏紀先輩、『無彩限のファントム・ワールド』ならルルがそれぞれ「代役」なりのヒーロー像ですね。↓


参考:響け!ユーフォニアム2感想/第四回「めざめるオーボエ」(ネタバレ注意)

参考:『ハルヒ』放映開始から十年、京都アニメーションがここまで進めた「日常」と「非日常」にまつわる物語〜『無彩限のファントム・ワールド』最終回の感想(ネタバレ注意)


 いわば、老人ホーム「共同体」の「内」にトール(たち)という「異質」が貫入してくる……という、物語冒頭の小林さんち「共同体」の「内」にトールという「異質」が貫入してくる……的な第1話から、様々な場面で繰り返されている展開が今話でも繰り返されているのですが。

 今話で特筆したいのは、その「共同体」の「内」に貫入してくる「劇団ドラゴン」「共同体」自体が、メンバーたちは普段は別々の「共同体」に属しているのだけど、そんな面々が「和」をなしている、様々な存在が様々な存在なりに一緒にいられる百色百光的「共同体」であるという点です。

 ざっとでも、普段は、


 トール―小林さんち「共同体」、商店街「共同体」など
 カンナ―小林さんち「共同体」、小学校「共同体」
 ファフニールさん―滝谷さんち「共同体」
 エルマさん―会社「共同体」
 ルコアさん―翔太君ち「共同体」
 才川リコさん―才川さんち「共同体」、小学校「共同体」
 翔太君―翔太君ち「共同体」


 と、見事にバラバラな「共同体」に属しています。そんな面々の「和」の「共同体」が「劇団ドラゴン」「共同体」なのです。この話数まで「共同体」同士の「相互貫入」を良いこととして描いてきた物語が、結実してる回だとも言えると思います。

 この「和」のあり方、百色百光的なあり方は、「劇団ドラゴン」「共同体」そのもののみならず、彼らが演じた劇そのものにも写像されています。

 上記の様々な「共同体」が「和」を成すのと同じノリで、様々な作品からの要素が「和」を成してる劇になってるのですね。

 『マッチ売りの少女』『傘地蔵』『魔法少女もの』『忠臣蔵』『ファンタジーもの』『バトルもの』などなど、「和」とか「百色百光」という言葉を使っていましたが、ありていにいえば「みんな違ってみんなイイ」的な態度で作られた劇だということです。

 その態度が、人間もドラゴンも、あるいは比喩的には含意されているであろう(リアルの方の)移民の人も障害がある人も、様々な存在が様々な存在なりにいてイイという「受容」の態度……というこれまでこの作品が描いてきたものに収斂されていきます。

 同時に今話は、「ディスコミュニケーション」を肯定的に捉えなおしてみる、少し言い方を変えると、「ディスコミュニケーション」自体すら「受容」してみようか、というような話でもあったかと思います。

 「劇団ドラゴン」のメンバーの意図と、観劇している老人ホームのお年寄りたちの受け取り方は、「ズレ」ている……というのが描かれています。これは「ディスコミュニケーション」なのです。

 なのだけど、結果としてお年寄りたちは「ズレ」たままでも笑って笑顔で楽しそうで、演じた「劇団ドラゴン」側も楽しかった。全体としては喜びに満ちています。「ディスコミュニケーション」の切なさと、でも、それでもみんな笑顔ならイイよねとそれすら「受容」する優しさと、同居しているような繊細さで、でもトータルでは陽気なシーンです。

 その後も、トールと小林さんのプレゼントの授受のシーンもお互いの意図は「ズレ」ていて「ディスコミュニケーション」ですし、カンナと小林さんも、カンナはサンタを願い、でもサンタは小林さんで……と「ディスコミュニケーション」しています。でも、それでも、ここでのトールと小林さん、カンナと小林さんも、トータルでは笑顔になれる出来事として描かれています。

 人と人は、「ズレ」たまま、でも「ディスコミュニケーション」の中でも笑顔になれる……というのは、映画『聲の形(感想)』のラストを思い出させます。

 映画『聲の形』ラスト、植野の手話は間違っていて(「バカ」が「ハカ」になってる)、実は硝子との間には「ディスコミュニケーション」が発生しているのです。最後に植野と硝子も分かり合えたというオチの映画ではないのです。「ディスコミュニケーション」のまま、笑い合っている、というオチの映画なのです。

 映画『聲の形』のこのシーンについては「ねざめ堂」さんのこちらの記事に詳しく書いてあるので一読して頂けたらと思います。↓


参考:映画『聲の形』感想メモ:「スキ」と「バカ」/ねざめ堂


 印象的な「スキ」という言葉にまつわる硝子と将也の「告白のすれ違い」(「スキ」が「ツキ」に受け取られてしまう)という「ディスコミュニケーション」が象徴的ですが、最後まで、その「ディスコミュニケーション」が解消できない我々人間は不完全だなぁという切なさと、でも、それでもみんな笑えてるよねという温かさとが同居しているような繊細なラストで、今話の「劇団ドラゴン」と老人ホームのお年寄りたち、小林さんとトールなんかも、この手の描写になっていると思うのでした。

 第2話の背景にさりげなく「身障者用」の場所が描かれてるシーンより、ドラゴン=マイノリティ=たとえば障害がある人……というような含意があるような作品で、映画『聲の形』からもテーマ的に繋がっている作品だと思うのですが。

 そういった障害がある人たちとも一緒に百色百光でそれぞれがそれぞれなりに生きていける世界、社会では、ある程度の「ディスコミュニケーション」自体は「受容」してはどうか、それでもみんな笑えているような世界に、そんな方向性のここ数作の京都アニメーション作品なのかもしれません。

 僕も障害がある親がいて、母は言葉もそんなにうまくは出にくい状態ですが、そういう状態なりに言葉を交わしてコミュニケーションを取って、それでも笑顔になることも多々というのは経験中なので、この「ディスコミュニケーション」を含むなりの「受容」、そういう態度だからこその「すれ違い」なりのままの笑顔……という感覚は、個人的にも感得しているものだったりするのでした。

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→前回:『小林さんちのメイドラゴン』第9話「運動会!(ひねりも何もないですね)」の感想へ
→次回:『小林さんちのメイドラゴン』第11話「年末年始! (コミケネタありません)」の感想へ
当ブログの『小林さんちのメイドラゴン』感想の目次へ

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2016年「アニメ作品」ベスト10〜過去の悲しい出来事を受け取り直し始める震災から五年後の想像力(ネタバレ注意)


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『無彩限のファントム・ワールド』と、10年代京アニの現在地点(前編)/ねざめ堂
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