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 アニメ『小林さんちのメイドラゴン(公式サイト)』第11話「年末年始! (コミケネタありません)」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 「年末年始」、特に「大晦日」の話。「商店街」の福引。トールが「餅」を配る(そしてそれが「取りもつ」という要素になっている)。曽根さんから頂いたデラを連想させる鳥の彫刻……と、これまでの話数でも見られた『たまこまーけっと』のオマージュが本格的に見られた一話でありました。

 『たまこまーけっと』に関しては「ねざめ堂」さんの「『たまこまーけっと』を振り返る」シリーズがとても良いので、一読しておいて頂けたらと思います。もう、「序論「結局、デラってなんだったの?」」から読んで、時間とって全12話分じっくり読む価値あるよ。↓


参考:『たまこまーけっと』を振り返る/ねざめ堂


 その上で、これまでも本作(というか京都アニメーション作品)で繰り返されてきた、「繰り返し」・「ループ」のモチーフがひときわ顕著な一話だったと思います。

 もう、『たまこまーけっと』からも作品を継いで京都アニメーション作品は「繰り返さ」れていて、本作『小林さんちのメイドラゴン』も『たまこまーけっと』からの何度目かの「ループ」みたいなノリですよね。『たまこまーけっと』エンディングの「回るレコード」表現の延長線上に、今作の、今話の「ループ」「繰り返し」描写もあるんだなーと捉えると熱いと思うんじゃ。

 本作及び、京都アニメーション作品の「繰り返し」「ループ」要素に関してはこちらの第5話の感想の時に丁寧に書いてるので、そっちを参照してみて頂けたら喜びます。↓


参考:パッヘルベルの『Kanon』のように「繰り返し」ながら「受容」の「共同体」は波打つように少しずつ豊かになってゆく〜『小林さんちのメイドラゴン』第5話の感想


 また、そういった「ループ」のモチーフが、OP・ED映像などに「円」「繰り返し」の演出が多数見られるなど、本作『小林さんちのメイドラゴン』で具体的にどのように使われているかは、この第6話の感想記事を参照して頂けたら喜びます。↓


参考:小林さんちのメイドラゴン/感想/第6話「お宅訪問! (してないお宅もあります)」(ネタバレ注意)(「C. 本作に見られる「繰り返し」のモチーフについて」以下の部分)


 さて。

 では、今回第11話の「繰り返し」「ループ」要素を見て行ってみましょう。

 まず商店街の福引きが、まさに「円」がモチーフの福引を「回し」て、それを三回「繰り返す」。そして、三回目が一番彩(いろどり)がある(コタツが当たる)、という表現になっていました。

 もう少し遡ると、その福引を成立させるための「券」をゲットする条件が、トールが商店街に通うのを「繰り返す」ことになっている……という遠景も見てとれます。この「商店街」での日常を「繰り返す」「継続する」ことで貯まっていく……というのは、もろに『たまこまーけっと』でたまこが集めていたスタンプと同じシステムなのですね。ここにも、『たまこまーけっと』と本作の作品をまたいだ「連続性」、「繰り返し」性が見て取れたりです。

 次に、コタツにハマってる小林さんちを訪れる近所の人達……というパートも、三回「繰り返さ」れます。笹木部さん、谷菜さん、曽根さんですね。これは、トールが「お餅」と引き換えに受け取るものが栗きんとん、ミカン、鳥の彫刻……と、三回目が一番彩(いろどり)が深いかは一見言明できませんが、後述するように、今話は「前のループから受け取ること」が一つ主眼のエピソードかと思われますので、鳥の彫刻がデラに似ていることで、一番『たまこまーけっと』(前のループ相当)と(「メタ」に)繋がった! 感が出てるのが三回目なのですね。

 そして、「年」そのものも「繰り返し」「ループ」要素として描かれていたのも今話でした。エンディング映像で「年」の「ループ」は既に表現として盛り込まれていましたが、本編にも表現として組み込んできた感じです。新年の初日の出を見るシーンで、この「年」だけでなく、昨年、一昨年、……と、「年」は繰り返されているんだなー、そして来年、再来年とも「繰り返し」ていって、少しずつ彩(いろどり)を深めていけたらイイなーという気分にさせてくれる表現になっていたと思います。

 細かいところだと、ミカンの皮をゴミ箱に投げるシーンも三回「繰り返さ」れて、三回目で成功するという表現になっています。これに連動して、滝谷さんがコミケで完売するのは既に三回どころか何回も「繰り返し」サークル参加してるからで、ファフニールさんの本が売れないのは、まだ二回目だからっていう連動になってるのだと思うのですね。だから、ファフニールさんも三回目もちゃんと「繰り返し」て、反省点を改善してちょっと彩(いろどり)を加えれば、三回目は一冊くらい売れる……みたいな示唆にもなってると思うのでした。

 こういう「繰り返し」描写の連続の中で、一番縦軸の芯として描いているのは、親から子への「繰り返し」「ループ」……という視点かと思います。

 「前のループ」「今のループ」みたいな言い方をこれまでしてきましたが、その言い方を当てはめるなら、親の人生は「前のループ」で、子の人生は「今のループ」みたいな描き方になっていて、「繰り返し」「ループ」モチーフにこの要素も組み込まれているのですね。違う人生だけど、まったく断絶してるわけではない、親から子への「繰り返し」「連続性」「ループ」。

 この部分が、小林さんは親(前のループ)との関係が良好で、トールは良好じゃない……と、二パターン描かれていたと思います。親(前のループ)との関係が良好な小林さんは、着物の着付けの技術など、親(前のループ)から受け継いだ能力を持っています。これは、受け継いでいる人と、受け継いでいない人とでは、話にならないくらい差が出る部分なのです。一方でトールは、親(前のループ)とは断絶の状態にあるので、「個(アトム)」化して漂流状態になり、「境界領域」的な場所である「小林さんち」に一時滞在している……という状態になっている。

 これは、どちらが正しいということを描きたいわけではないのだと想像します。劇中でも言っているように家族の関係は様々ですし、一つのフォーマットにはめようとすると、本作で描いてきた「受容」の態度と逆になってしまいます。ただ、そういった「受容」の態度、そういう「余裕」を差し伸べられるのは親(前のループ)からリソースを受け取っている小林さん側だし、受け入れられる側は、親(前のループ)から断絶してるトール側なんだと、そういう背景を描いているのかと思います。

 ここで、「メタ」な読みが好きな人は、この親(前のループ)から子(今のループ)へ……という話は、『たまこまーけっと』という前の作品から『小林さんちのメイドラゴン』という今の作品へ……の関係にもかかって解釈可能なんだなと気づく、ということです。

 その「メタ」な視点からは、京都アニメーションの制作の方向というのは、小林さんよりなのだと思います。親(前のループ)からも、受け取りつつ「繰り返し」ていく方針。これは、今作第8話(感想)の演出・絵コンテにはもろに『たまこまーけっと』の監督だった山田尚子さんなんかも入ってますから、顕著です。親殺し、ドヤァ! という方向ではなくて、別の存在ではありつつも、同時に受け取るリソースは受け取りつつ、「繰り返し」「連続性」というものを継続してゆく。その過程の中で、彩(いろどり)のようなものを徐々に深めていくという感じなのですね。そう思うと、やっぱり『たまこまーけっと』の時よりも、『小林さんちのメイドラゴン』の時の方が、メッセージやテーマを「繰り返し」つつもある種の彩(いろどり)は深くなってるなぁと、感じられるようになってきたりもします。

 そこまで、「繰り返し」「ループ」が組み込まれてる作品なんだなぁとしみじみした所で、次回、たぶん最終話ですよね? 第12話は小林さんとトールの出会いが描かれる模様です(公式サイトの次回予告より)。つまり、時間軸的には最終回で第一話に戻るのですね。ここでも、作品の構成的にも「繰り返し」「ループ」を使ってくるっぽい綿密さです。

 『たまこまーけっと』エンディング映像の「回るレコード」のように、曲が始まり、「繰り返さ」れ、終わりが来るとまた冒頭に戻っていく……。でも、それは無意味な「繰り返し」ではなくて、「ループ」の最中に聴いた音楽が、何かしら、人に、世界に、彩(いろどり)をもたらしていくはずだ……という世界観ですね。

 我々も、『たまこまーけっと』も観たし、『小林さんちのメイドラゴン』も観てるし、また次の京都アニメーション作品も観るであろうしで「繰り返し」てるのですが、そんな中で、「ループ」は無意味かと言ったらそんなことはなく、「今、ここ」のループ、『小林さんちのメイドラゴン』を観ている時間も、何かしらの彩(いろどり)として、視聴者に、世界に、立ち現れてくるはずなのでした。

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→前回:『小林さんちのメイドラゴン』第10話「劇団ドラゴン、オンステージ! (劇団名あったんですね)」の感想へ
→次回:『小林さんちのメイドラゴン』第12話「トールと小林、感動の出会い! (自分でハードル上げてますね)」の感想へ
当ブログの『小林さんちのメイドラゴン』感想の目次へ

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