相羽です。

 NHKの大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜(公式サイト)』、第1回「夜明け前」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 ざっくりとは、「競争(戦争)的なもの」と「文化的なもの」の相克……という題材がある作品なのかと感じました。

 まず、競争(戦争)側のレイヤーが第1回で既に二層は見てとれて、


 一層目は「オリンピック」という「競い合い強者を目指す」力学ですね。


 これが、意外と全肯定では描かれていない。オリンピックに参加しようとする嘉納治五郎(かのうじごろう)先生サイドだけが正しいという風には描かれていない。

 「ドランドの悲劇」などをあげて、「勝ち負けにこだわる人間の醜さ」について強調していきます。

 で、この点が二層目と関連する作劇になっていて、


 二層目は「戦争」ですね。


 日清戦争、日露戦争の話。1940年のオリンピック返上の題材。太平洋戦争の話。第一回から随所に「戦争」の題材が組み込まれていますが、「競い合い強者を目指す」力学として、「オリンピック」と「戦争」が同系要素を含むものとして、二層構造として描いてゆくのだと思います。

 「オリンピック」に関して「死人が出る」という台詞が印象的でしたが(永井道明さんが何度も繰り返す=作中としても重要な台詞)、「勝ち負けにこだわる人間の醜さ」の帰結としての「ドランドの悲劇」的なものと、戦争で出た死者的なものとを、我々が歴史を重ねてきた上で出してきた「犠牲」として重ねて表現してる感じなのだと思います。この、あまり、意外とオリンピック及びオリンピックの力学万歳! の方向(だけ)じゃなかったのは好感でしたね。

 その上で、この圧倒的に強かった(今でも強い)「競争(戦争)的なもの」に対置する概念として、まあ言葉としては「文化的なもの」という言葉を使っちゃいますけど、そういうものが配置されてるシナリオだと感じました。具体的には、「文化的なもの」を一番描いていたのは「満州で今古亭志ん生の『富九』を聞いた人間の子供(五りん)が志ん生を訪ねてくる」シーンですね。第一回では、僕はこのシーンが一番ウルっときましたけれども、我々の歴史は「勝ち負けにこだわる人間の醜さ」の上で成立してきた(満州であった歴史上の悲劇的なことを我々は知っている)、だがそれだけではない(=世代を超えた「富九」的なものの継承?)……という箇所かと感じました。戦争の歴史の中で人類が進んできたのは分かってる、でも人類が残してきたものはそれだけではないというような意味合いでの「富九」。

 歴史を少し知ってると、明治44年から、「オリンピック」の要素側も大変なのが分かるのですが、上記の意味合いと対置されるように、「オリンピック」も「勝ち負けにこだわる人間の醜さ」の上で成立してきた、という前提の上で、「だがそれだけではない」何かを探していくようなドラマになっていくのかなと感じました。

 嘉納治五郎が、外国のエライ人に対して、発音の「r」を何度も練習する(「r」の巻き舌馴染ないという日本人あるある)……なんてのも「文化的なもの」側の要素ですね。嘉納治五郎、他者と競争しようとしたのではなく対話しようとしていたって表現だと思います。相手の文化を尊重するゆえの「r」の練習。こういう何気ない場面で嘉納治五郎の「自他共栄」の精神は本当だったんだというのを表現してるのは上手いと思いました。

 全体として、「競争(戦争)的なもの」と「文化的なもの」の相克……とは最初に書きましたが、歴史上も現在も「競争(戦争)的なもの」の方が強いので、「競争(戦争)的なもの」の外側に「文化的なもの」を探していく……くらいの表現が適切かな〜と思った第一回でした。何故「外側」かというと、「中心」には「競争原理」が渦巻いているので。

 この両者は対立して終わるものではなく(つまり「文化的なもの」大肯定エンドでも無さそう)、「競争(戦争)的なもの」と「文化的なもの」は補い合うというか、両義的になっていくような方向に向かっていくんじゃないかとは期待したいところです。主人公の金栗四三(かなくりしそう)という人からして、僕もちょっと調べた程度ですけど、どういう人生をたどった人なのかと思うと、第一回のラストで表面的には「競争(戦争)的なもの」で日本は通用するんだウェーイ感wで登場して「引き」だったわりには、どうも、逆に否「競争(戦争)的なもの」と和合していくような題材として描けるような人生を歩んだ人っぽいですよね……。

 僕、歴史はあんまり詳しくないんで、何か変なことを言っていたりするやもしれません。

 実際の歴史の話と大河ドラマのようなフィクションの話は原則分けて考えた上で、これはこういうことだと思いますヨとか、このあたりのシーンにはこういう話がありまして……みたいな話などがありましたら、気軽にコメント欄にでも書き込んで頂いて、教えて頂けたら幸いです。

 今年は学びの姿勢で。学びの年にしていきたい所存です。

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