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 相羽です。

 NHKの大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜(公式サイト)』、第2回「坊っちゃん」の感想です。

 ネタバレ注意です。
 ◇◇◇

 「競争的(オリンピック的)なもの」で作られる世界観と対置されるものとして、「文化的なもの(作中の代表的なものは『落語』)」も描いていると思われる本作。

 オリンピック(競争)が題材なわりには、「勝者の栄光」とはほど遠い情景も丁寧に描いていきます。

 「西南戦争」も「勝者の栄光」と逆、敗者の文脈として作中に登場していると思われ(薩摩は負けたので)、そのいわば「敗者の文脈」を、「競争的(オリンピック的)なもの=勝者を目指さなくてはならない」な世界観に挑まなくてはならない主人公の金栗四三(かなくりしそう)に乗せてる……というテクニカルな作劇をやっているものと思われます。

 このいわば逆・「競争的(オリンピック的)なもの」は第二話でも四つくらいは分かりやすく描かれていて。


 一つ目:目的は遂げられない

 二つ目:嘘をついて守る

 三つ目:師弟

 四つ目:愛



 あたりですね。

 これら四つについて、軽く書いてみます。


一つ目:目的は遂げられない

 幼少期の父親と嘉納治五郎(かのうじごろう)先生に会いに行ったんだけど会えなかったエピソードと、少年期の士官学校を受けたんだけど落ちたエピソードが、「目的が遂げられなかった」エピソードとして重ねて描かれています。

 目的を遂げる、金メダルを取るのが至上目的っぽい「オリンピック」とは逆の要素なので、ここであえて描いているのには意味があるかと思います。

 今話時点でも、目的が遂げられなかったことで、逆に「縁」をもたらしてる的なのはみてとれますよね……。


二つ目:嘘をついて守る

 西南戦争の時に病弱(これも「競争」の「強者」とは逆の要素)な四三の父親の金栗信彦(かなくりのぶひこ)が、「嘘」をついて家宝の日本刀を守るエピソードと、本当は嘉納治五郎先生に会えなかったんだけど会えたことにする「嘘」を信彦がつき、四三と長男の実次(さねつぐ)はそれを知りつつ「嘘」を突き通すというエピソードが「嘘」をキーワードに重ねて描かれます。

 これも、正統派、「真」で爆走して綺麗に勝利! みたいなありがちなオリンピックのイメージとは逆の要素ですが、ここで盛り込んでるのには意味があるのだと思います。

 今話だけでも、この「嘘」で「家族」の「愛」のようなものが守られてるのですよね。

 第二話で仕込みとして入れてるので、物語のクライマックスになるであろう、1912年のストックホルム大会、あるいは1964年の東京オリンピック招致で、「嘘」で大事なものを守る……みたいな展開がくるのですかね。


三つ目:師弟

 オリンピック(競争)で勝とうが、どんなにお金を持っていようが、死ねば終わりです。

 西南戦争で死んだ人たち、太平洋戦争で死んだ人たち、意識されるように物語が作られていますが、この「死」の諸行無常の前に、あらゆる(オリンピック的な)「勝利」は無意味です。

 この、ある意味「死」、諸行無常のニヒリズムに抗うような、「世代(時代)を超えるもの」=「自分が死んだあとも残るもの」として「師弟」という要素が出てきます。


 嘉納治五郎と金栗四三の師弟(スポーツ的なもの担当)、

 橘家圓喬(たちばなやえんきょう)と美濃部孝蔵(みのべこうぞう)の師弟(文化的なもの担当)、



 の二組の師弟でこの要素が描かれていきます。

 第一話のハイライトは「満州で(今古亭志ん生)の『富九』を聞いた人間の子供(五りん)が志ん生を訪ねてくる」シーンだと第一話の感想で書きましたが、「死んでも残る何か」は、本作で大事な要素のようです。

 十中八九、嘉納治五郎から金栗四三へ受け継がれる「何か」を大事なものとして描いていく作劇なのだと思います。


四つ目:愛

 家族愛については既に述べましたが、これは、ヒロイン春野スヤと四三との、どちらかというと男女の「愛」の方。

 オリンピックで勝利するものだけがエライみたいな「競争(戦争)」的な価値観だけだったら、四三は士官学校に合格して出世していく(たとえば戦争に勝っていく)のこそが是……ということになるのですが、士官学校に落ちてその勝利ルートから外れた四三を掬い上げるように、ヒロインのスヤとのパートがはじまる……という構成になってます。

 オリンピックで金メダルを取るのは、それは尊いだろう。でも、自分の伴侶に向ける愛がそれに劣るかと言われれば、首肯しない人も多いでしょう。足をくじいたスヤを背負って四三が走る……という出会い方からして、競争的なもの(走る)と文化的なもの(愛)の両義……という本作の方向性を表現しているかのようです。


 これら四つ。

 第一話の永井道明さんが語るところの「勝ち負けにこだわる人間の醜さ」にそのままだとオリンピック(競争)は行きついてしまうのですが、その力学を乗り越える、何らかの「確かなもの」の一角として、これら四つは描かれていくのだと思われます。

 まあ、「愛」とかはそれしかないような要素だよな〜とは思います。

 「競争」で勝つ勝者最高ウェーイ、日本凄い強いウェーイとかじゃなく、真顔でいや、そういうのわりと無意味で本当は愛だから……みたいな視点をNHKが入れてくれてることに、ほんのちょっとだけ安心しましてよ。

 みんな。社会の仕組みから要請されたりメディアに煽られたりして「競争」の一握りの勝者を賞賛しつつ、その実、賞賛している本人たちは「競争原理」の前に摩耗しており、ざっくりとは心の奥では「競争」に傷つき切ってる最近なので、2020年の東京でのオリンピックの話題とかが行き交う最近なのをきっかけに、逆にもう「競争」的な世界観とか手放して、愛と祈りの世界観で生きていこうゼ〜。

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やっぱ志ん生だな!
ビートたけし
フィルムアート社
2018-06-25




→前回:いだてん第1回の感想〜競争(戦争)的なものの外側に文化的なものを探していくへ
→次回:『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)』第3回「冒険世界」の感想へ
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