ここ最近、数回に渡って紹介した「論理トレーニング」に関する書籍が当サイト経由で随分と売れて、管理人が「お前は野矢先生の回し者か?」と思われている今日この頃、本日は「論理トレーニング」にまつわる喜怒哀楽を、経験者の立場から徒然と。

 紹介した書籍にじっくりと取り組んで、その内容が血となり肉となる頃には、トレーニングした皆さんは、かなりの論理的思考というものを身につけることになっていると思います。

 しかしながら、ちょうどその頃に陥りやすい失敗ポイント、注意すべきポイントというものも存在すると思うので、老婆心ながら、経験者からピコアドバイス。

1.世の中というモノに絶望しないようにしよう

 ややもって冗談半分の話ですが、ある程度適切な論理思考とういうモノが身に付いてくると、世の中とは何て多くの詭弁に満ちているんだろうと驚く時期があると思います(#詭弁:一見最もらしく聞こえるんだけど、実は論理的にははなはだおかしい弁舌)。特に、しばらくTVのコメンテーターの非論理的な話とかに苛立つことがあるかもしれません(勿論、しっかりしたコメンテーターの方も沢山いらっしゃいますが)。それだけではなく、政治家の演説や新聞という公的なメディアの論説ですら、時に詭弁に満ちていることに気づくようになると思います。それでも、そこで世の中全体を憎まず、出発点としての世の中というのはそういうモノなんだと割り切って、そこからそれこそ建設的で論理的な思考でもって色々と初めて行くのがイイんじゃないかなと僕は思います。こんな詭弁に満ちた世の中はダメだ!と余りにロックな今の世の中否定に走らない方がいいかなと。やっぱし最後は「それでも、守りたい世界があるんだ!」と叫べるような状態を目指して思考を積み重ねていって欲しいなと、そんな感じです。

2.あまり人を論殺することに快感を覚えないようにしよう

 ある程度論理思考が出来てくると、むちゃくちゃなことを言ってる人と会話してる時に、その相手を論殺することが可能になってきます。それはそれで気持ちいいんですが、あんまし激しく相手を論殺してしまうことには慎重になった方が良いかと思います。何故かというと、相手に恨まれるからです。世の中、自分の理屈が間違っていたことを突きつけられて、「ああ、間違っていた、改善して次に繋げよう」と生産的に考えてくれる人ばかりではありません。というか、僕の経験上だとそういう人の方が少数で、逆ギレしたり、怒りを向けて来たりといった反応を示す人の方が、まだまだ多いような気がします。ひょっとしたら、世で起こってる暴力事件の多くに、この正論に対する逆ギレという状況が多々あるんじゃないかと個人的には思えるほどにです。なんで、逆ギレによる暴力というリスクを回避するためにも、相手を論駁する時は、細心の注意を払いましょう。まず相手を観察してみて、この人は逆ギレするタイプかもしれないと思った場合は、頭から否定するのではなくて、やんわりと遠回しに間違いを自覚させるという手法を取った方が無難だと思われます。それ以外でも、常に、相手の議論を否定するのであって、相手の人格を否定しないように気をつけましょう。特に大学生辺りにこの論理トレーニングを勧めましたが、若いウチは議論への攻撃と相手の人格への攻撃を混同してしまいがちです。そんなことで深刻な対立を生んでしまうのはバカバカしいので、相手への配慮を欠かさない広い心を持てるように心がけるのが良いかと思います。

3.「理屈ばかり言うな!」の台詞を余り気にしないようにしよう

 論理的思考、論理的言術を身につけた人について回る批判に、「屁理屈を言うな!」と「お前は理屈ばかりでダメだ」があります。これはもう、そういう批判はついて回るものだと諦めて、それでも地道に理屈を追って筋道立てて考えていくことを続ける自分であって欲しいと僕は思います。常に自分の言ってることが本当に屁理屈や詭弁になっていないか自省することは大事ですが、だからと言って「理屈を言うな!」と言われて、「はいそうですね」と納得しては、そもそも論理トレーニングを始めた意味がありません。それでも、何らかのしがらみで、そういう批判を言ってくる人とコミュニケーションを続けなければならない場面もあると思います。そういう時は、少々相手には悪いですが、意図的に詭弁を使ってみましょう。さすがに理屈を否定しているだけあって、理屈の通らない詭弁には案外ノってくれたりします。そんな、詭弁で納得してるあなたでいいのかと、一抹の虚しさを覚えますが、それは相手の自己責任なんで、割り切りましょう。勿論、ものすごい凄腕の論理話者になって、そういう相手をも本当に論理的なフィールドに引き込んで話し合えるという人は、そうするのがベストだと思います。ただ、そこまでの実力がある人というのは、かなり希有だと思います(勿論理想であり、目指すべきだと思いますが)。(#この話はよくある理論かフィールドワーク(実践)かという話で、フィールドワークを軽視する意図ではありません、僕は無難に理論もフィールドワークも両方大事だと思ってます、念のため。理屈を何も考えず頭から否定する人とそういう人に会った時は……みたいなのが主な意図です)

4.あいばさんへの批判は、やんわりと行おう(笑)

 僕も詭弁を使ってる時があります。僕が至らなくて使ってる時も多々でしょうが、たまに意図して使ってる時もあります。サイトを運営していれば、そんなあたりをズバっと突かれるなんてシーンがコレからあると思います。真摯に対応する所存でありますが、そんな時はやんわりと言ってくれると嬉しいです(^_^;

 以上、本日は老婆心ながらの「論理トレーニング」にまつわるコメント集でした。大学で「論理学」や「言語学」をやってたけれど、今は無職で獲職活動にいそしんでいる人の話程度に思って聞いて頂けたら幸いです。


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