大学時代に出会って以来、僕の価値観のベースを形成するのに大きな影響を与えた榛野なな恵作品。そんな榛野なな恵先生の傑作短編集を題材に語ります。込み入った内容の感想は書かずに、この短編集を題材に最近のあいばの雑想をつれづれと語る感じ。
 まず、大学時代に読んだ時よりも、僕自身の考え方が状況の変化に合わせて色々と変わって、作品から受け取れる物も変わってきた今読んだからこそ新たに胸に響くフレーズが多数でした。

 「だってあなた方の御両親はひたすらあなた達を可愛がり、とにかく幸せにと願うでしょう。社会はあなた達にラクで得な生き方があると、その方がステキだと耳打ちする。それなら、いったい誰が誇りを持って生きよと教えるの?傷を受けても自分を貫きなさいと教えるの?」(「早春賦」)

 やっぱり理想を持つことも大切というか、世間一般の価値観、スタンダード、普通、楽、そういった物とぶつかっても、自分の本当にやりたいことを手の中に放り込んで固く拳を作って握りしめ続ける。マイナーな価値観を誇りを持って胸に秘める登場人物の話を描き続けてる榛野なな恵さんの作品を読むと、そういう生き方を肯定してくれてるようで、胸に強い気持ちが沸いてきます。

 僕もここ半年、幾度と無く母親は施設にでも預けて、介護の義務なんて自分にはなくて、「負け組」にならないように就職して、結婚相手でも探した方が良いんじゃないかと、そういう価値観にさらされてきました。

 が、それは僕的には違うんだと。どんなに楽で世間的に「仕方がない」という価値観だとしても、それは僕がやりたい生き方じゃないんだと、どうしても心の奥で引っかかり続けたワケです。

 僕がやりたいのは、母親の介護もやる、家事もやる、在宅で収入も得てみせる。でもってツライツライと自分の状況を嘆くんじゃなくて、世の中が悪いと他罰型になるんでもなくて、やることをやりながらも本を読んで、映画を見て、時には自分で小説も書いて(ノベルゲーム作りにもトライして)、あくまで楽しく生きる生き方なんだと。それを貫きたいんだと。そう思い続けたワケです。だから難しくても、理解されないことがあっても、自分のやりたいことを貫けと、そう言ってくれる作品は非常に共感して読んでしまいます。

 またこの『卒業式』では、そういった自分の理想を実現していくにあたっての、どことなくサバサバとした効率的なスタンスなんかも描かれているのが好きです。

 「そーだよー。私の一生のテーマは『自由に生きる』だからね。<中略> だってさー。自由に生きるったって原野を勝手にほーろーするわけじゃないんだし、文明社会の中に入って、かつ、へんに組み込まれないで行こうと思ったら、いろんなテクニックが必要だと思うんだよね。言葉の使い方、歴史の知恵、公式と応用、学校でやってることっていつかすべて、どこかで役に立つんじゃないかと思う」(「野茨姫」)

 まさに、上記のように、僕も相当難しい、僕のやりたい「自由な生き方」を実行しようとしていますが、そのために必要なテクニックを今習得してる所ですよ。テクニック、技術、能力無くしては、夢も目的もかなうハズがない。コレは真理です。

 「野茨姫」の小野木さんは学校の勉強をテクニックの一つにあげていますが、ここ半年で僕的に現代で自由に生きるために必要なテクニックは、主に論理力、ファイナンシャルIQ、英語力、コンピュータ力の4つじゃないかなんて思ってます。

 そんな想いを胸に、ビジネスメルマガを読んでは収入源構築にいそしんでみたり、色々と情報を集めてはCSSやMovable Typeの勉強を徐々に始めてみたりといった今日この頃です。榛野作品のスピリットを胸に、頑張っていきたいと思います。

 以下、再読して心に残った台詞を抜粋。

 「笑って、ごまかして、おしまいにするたびに、自分も少しづつナメクジになっていくことには誰も気づかない」(「卒業式」)

 「噂はいっぱいある。でも噂だけじゃ影と同じ。血と肉と、筋肉をつけてちゃんと歩かせなきゃ」(「卒業式」)

 「でも、95%は自分のためです。これをすることによる時間とエネルギーのロスと、しないことによって失ってしまうものとを比べた場合、長い眼で見れば後者の方がはるかに大きいと判断したわけです」(「卒業式」)

 「平凡が一番とか、それが自然なんていう言葉は、壁みたいなものだと思う。そこで思考をストップさせてしまうための都合のいい壁。私はその向こうにあるものを見たいの、聞きたいの、知りたいの、先生。そうじゃなかったら、どうしてこんな面倒な勉強をするの?難しい本を読む必要があるの?」(「卒業式」)

 「そうです先生。きっとみんな先生が思ってらっしゃるよりずっと賢い。社会のしくみもその限界も見えてるから、与えられたわくの中で一番気持ち良く生きること、それについて何の疑問も持たないことが得だってわかってしまっている。でも私は時々思うの、そういう『賢さ』って、人に自慢できるようなものなんだろうかって」(「早春賦」)

 僕にとっては、ことあるごとに二読、三読していく短編集になりそうです。

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榛野なな恵『パンテオン』3、4巻/クイーンズコミックス/書評
Papa told me/コーラス12月号分/感想/榛野なな恵