期待通りのライトなミステリ

 これは勧められる層が幅広い一作ですね。少年少女には読みやすさと、ラノベチックなジュブナイルな雰囲気でお勧めできるし、大人のミステリ好きには、お、これはライトな装いながら日常ミステリとして中々やるな……という感じで勧められるという。
 健全な小市民を目指すために互恵関係の契りを結ぶ小鳩君と小山内さんが、逆高校デビュー(目立たない高校生活を送るということ)を指針に高校生活を送ろうとするんだけど、図らずも日常の謎を解き明かさねばならない場面に巻き込まれていく……と、あらすじからして軽い感じで、人も死なないし、びっくりな衒学要素が絡んできたりもしない、いたって気軽に楽しめる日常ミステリです。ホント、ココアの入れ方の謎とか、そういうレベルの日常の謎に小鳩くんと小山内さんが不本意ながら挑みます(解説、紹介などでことあるごとにライトノベル的+ミステリという捉え方をされてる通り、ライトノベルな魅力が確実に入ってるんですが、そのせいかなんなのか、小鳩君と小山内さんのコンビには正直萌えます)。

 とはいえ内容は、「誰が」「どのように」「どうして」が全て入った「羊の着ぐるみ」に、「どうして」に特化した「For your eyes only」、「どのように」に特化した「おいしいココアの作り方」、そしてファイナルエピソードの「孤狼の心」では全編で暗示されてた謎が開示されたりと、中々に素のミステリ小説としても楽しませてくれます(特に「おいしいココアの作り方」が僕的お気に入り。ちゃんと、推理の道具立てを徐々に明かす構成で、読者が推理して楽しめるようになってます。高いレベルの日常ミステリって感じ。友人はどうやってココアを入れたのか?というしょーもない謎ではあるんですが、そこをアレコレ推理するのが逆に熱楽しいです)。

 小鳩君と小山内さんの現在の思想背景になる動機パートが漠然としか明かされないのも特徴です。小鳩君視点で物語は語られるにも関わらず、小鳩君の思想の背景、小鳩君と小山内さんの関係の深い所までは読者に伝えないという書き方をしていて、ともすれば情報不足で感情移入を拒む作りのはずなんですが、何故か情報の無さがかえって二人のキャラを魅力的にしているという(まあこの辺りはファイナルエピソードの伏線にもなってるんですが)。小鳩君と小山内さんの微妙な機微に満ちた会話は、ジュブナイル要素目的で読む人は要注目の出来です。

 そんな感じで、力を抜いて青春要素とミステリ要素を気軽に味わえる一作。刺激の強い話に疲れた頃にさらっと手に取ってみるのをお勧めします。

米澤穂信『春期限定いちごタルト事件』/創元推理文庫



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