WJ感想記事の、第9巻相当部分をまとめてみました。
◇第74話「二つの決戦」

 少し前から描写されてきましたが、今話にて火渡が悪役からほぼ肯定的なポジションに移行。再殺部隊篇はいたる所に敵−味方の概念のシャッフルがテーマになってましたが、これはカズキの仲間サイドを作り上げるためのシリーズの意味合いがあったためだったのかもしれません(ヴィクターへの仕打ちの伏線があるので、まだ錬金戦団全部が仲間になるとは思ってませんが)。毒島とか、既にギャグキャラでイイヤツキャラ化してきてるし……。

 ここで、いつだかの

 「守りたいものが同じなら きっと必ず戦友になれる」(カズキ)

 のカズキの台詞や、カズキが無闇に再殺部隊の命を奪わなかった描写が伏線として効いてくるワケですね。

◇第75話「ニュートンアップル女学院」

 「ごきげんよう」は『マリみて』知っててやってるんだよね?宇宙から降り注ぐアイデア波(吼えろペンネタ)が和月先生と今野先生を同時に直撃してたとかじゃないよね?『ネウロ』の「俺の料理は至高にして究極だぁ!」の台詞とか(美味しんぼネタと思われる)、多作品ネタが結構見つかった今号でした。

 本編の方は久々のギャグパートで面白かった。斗貴子さんがいないと御前様がメイン突っ込み役にならなきゃならないのが面白かった。

 そして登場した少女は脇キャラにしては髪を凝らしてみたりで「立っている」ビジュアルをしてる点に、意味深な「そう――なんだ…」のコマに一人何か気付いたっぽいパピヨンのコマが挿入された点とで、結構重要キャラっぽいですよ。 まひろが抜けた分のヒロイン補強でしょうか。次回楽しみです。

◇第76話「仮面の正体」

 「調べても何も見つからなかった」という謎の答えが、シェルターの武装錬金という形で、空間ごと武装錬金だったというのには普通にビックリさせられました。なんかもっと凝った謎の解答がありそうなものを、「武装錬金です」というストレートな解答なのが清々しい。

 内容はますます敵−味方の概念が分からないような展開に。アレキサンドリアもヴィクトリアも悪って感じの描写でもありません。というかむしろ一応敵ポジションのヴィクターに正当性を与えるような役割のキャラっぽいです。このどっちが敵−味方?剛太風には「どっちが化物だ?」というテーマは再殺部隊編で散々掘り下げてきたのでこの流れは自然です。是非とも人間ともホムンクルスとも違う存在になりつつある(和月先生曰くダークヒーローの)パピヨンの話なんかも絡めてこのテーマを押し進めていって欲しいです。

◇第77話「大決戦」

 バロン閣下…キターーー(>▽<)

 と一人で大喜びしてました。ミサイルランチャーの武装錬金「ジェノサイドサーカス」→ヴィクター第三段階→バロン閣下→ヴィクター巨大化という、和月先生のネジが外れてるようなトンデモ展開も突き抜けてて面白い。

 されど過去描写含む、ヴィクトリアパートは切ないことに。過去でのヴィクトリアの笑顔と、ラストの現在のヴィクトリアの、

 「錬金術がそんな簡単にみんなを幸せにすると思う?」

 という翳りに満ちた瞳とのギャップが切ない。

 カズキ−ヴィクターで対比があることは隅々の描写でも単行本の和月先生コメントでも明らかなので、カズキは対比として錬金術の力でヴィクトリア本人に笑顔を取り戻すorヴィクトリア相当のキャラの笑顔を守る……という所にハッピーエンドで落ち着いて欲しい。

◇第78話「決断を要す」

 重い。

 けど最高の展開。

 「守る」、というこれでもかと描かれてきたカズキの信念が残酷なシチェーションで試されるクライマックスです。

 蝶野戦との対比にもなります。あの時は結局「全員守る」という信念を貫けず、斗貴子さんの命と蝶野の命を秤にかけて斗貴子さんの命を選択しました。今度、秤にかけられるのが自分の命だった場合、カズキはどういう選択を下すのか。

 和月先生は主人公に「理想」を賭して描きながらも、どこかそこはかとなく「理想」にカウンターを入れて描いてしまうのが好きです。「るろうに」でも不殺という剣心の「理想」に対しては、斉藤というカウンターヒーローを設定して描いていました。武装錬金でも、「できるだけ多くの人を守る」という耳心地イイ信念を掲げさせながらも、そんなキレイ言だけではどうしようもない命の選択をせまるシチェーションを主人公に突きつけます。作者自身が「理想」だけではいかんともしがたい、信念を貫くにあたりぶつかる困難というものを知ってるからそう描かざるを得ないのかもなぁ。

◇最終話(WJ掲載分)

 終わっちゃった。

 和月先生も好きだと巻末コメントで明言していた『G戦場ヘヴンズドア』で鉄男が『俺達の挽歌』の終了に涙したシーンのような心持ちです。

●最終話「BOY MEETS BATTLE GIRL」/武装錬金

 「オレがみんなを守るから 誰かオレを守ってくれ……」(カズキ)

 高々と信念を掲げて頑張ってきたカズキが、堰が切れたように等身大の男の子らしく弱さを見せているのにウルっときました。どんなに強い信念を掲げようとも、カズキは崇高な宗教家でもなんでもなく、メンタルな部分は日常から飛翔しない「少年」主人公でした。そんな弱さも併せ持った「少年」の拠り所として最後に帰着するのはやはりヒロインの「少女」です。

 「キミのコト 少し気に入った」(斗貴子)

 といった程度の関係から開始した出会いから始まって、命がけで守り守られ、再殺部隊編での、

 「キミが死ぬ時が 私が死ぬ時だ!」(斗貴子)

 までの関係へ、丁寧に二人の関係性構築過程が描写されてきた作品でした。打ち切り最終回にあたりとにもかくにも帰着させるにはこの二人の関係のラストを描く以外にあり得ませんでした。

 この不器用な、カズキと斗貴子さんがというより和月先生が不器用な恋愛描写。なんだか温かさを感じさせてくれました。打ち切りは残念ですが、温かい読後感を残してくれる結びでした。

◇さりげなくちゃんと最終話に盛り込まれて帰結させられてた2つの武装錬金のテーマ

 1/再殺部隊編のテーマ

 再殺部隊編のテーマは、「敵−味方」概念のシャッフルでした。剛太の、

 「どっちが本当の化物だ――…」(剛太)

 から始まり、ホムンクルスを食らう戦部と人食いを断つパピヨンとの対比、現状では「敵」である再殺部隊にカズキがかける情け、そして大きくは「敵」ポジションにいるヴィクターの正当性など。

 結局このテーマの帰結はカズキ−剛太の関係性のラストで表現されました。カズキ自身が言った、

 「守りたいモノが同じならきっと必ず 戦友になれる」(カズキ)

 から始まっての、剛太の根来戦での

 「お前、戦友はいるか?」(剛太)

 の燃え台詞。そして今回最終話で剛太自らの口から、

 「守りたい者が一緒なら 俺達は戦友だ」(剛太)

 と、カズキの口から出た言葉をリフレインさせることで、この「敵−味方」のテーマに、守りたい者が同じなら戦友(味方)と結論づけました。「ヴィクター(現在のカズキ)」だとか「人間」だとか関係ない。表層的なモノを無化するステキな帰結だと思いました。

 2/『武装錬金』全編を通してのテーマ

 これは「守る」です。

 ブラボー戦のサブタイ「大事な存在を死守せんとする強い意志」に凝縮された、「守る」という強い信念です。

 かつては『るろうに剣心』でも描かれたおそらくは和月先生の普遍的なテーマで、奇しくもラストに原点に回帰するという手法まで『るろうに』とかぶせて締められていました。

 『るろうに剣心』は第二百二十四幕「真実」が全てです。身も心もボロボロになった剣心の心に、燕の懇願とオイボレの語りで、

 「出来るのは一つ この目に映る人々の幸せを一つ一つ守るコトだけだ……」

 「剣一本でもこの瞳に止まる人々くらいならなんとか守れるでござるよ」

 と、「守る」という、今までの物語の隅々で描かれていた剣心の原点=真実が木霊します。

 この「真実」が、『武装錬金』における「信念」と非常に近い。『るろうに』の、

 「…君の心の弱々しい迷いと裏腹に 君の手は強く握りしめて離さない……大事なものを失って…身も心も疲れ果て…けれどそれでも決して捨てることが出来ない想いがあるならば 誰が何と言おうとそれこそが君だけの唯一の真実――」

 と、『武装錬金』の、

 「善でも!悪でも!最後まで貫き通せた信念に 偽りなどは何一つない!!」

 は、「決して捨てることができない=貫き通す」、「真実=信念」が「守る」ことだという点でシンクロしています。

 その「守る」信念に、『るろうに』と同じように原点回帰しながら(「あの時の気持ちは今だって変わらない むしろより強く――…」)、

 「守りたい――…」(カズキ)

 のラストシーン。

 『武装錬金』は夢追い物語りでも愛と正義の物語でもなく、守人(まもりびと)賛歌の物語でした。しつこく、愚直なまでにそのテーマを描き続けました。僕はこの作品が大好きでした。

●雑想

 蝶野編が終わった時の感想で書いた、「まあ打ち切られちゃったりしても、序章が宿す作品としての良さは変わらないですし。」という自分の言葉が、実際に打ち切られてしまった今でも変わらない僕の心境です。

 手塚治虫の『火の鳥』、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』、埴谷雄高の『死霊』など、未完でも傑作と呼ばれる作品は世の中に沢山ありますし、また僕にもその良さは分かります。このように打ち切りで未完成品としてのラストを迎えてしまったとしても、あの折々の感動は本物ですんで。蝶野編ラストの「すまない蝶野公爵」、早坂姉弟編ラストの「まだだ!!あきらめるな先輩!!」、etc、全て本当に良かったと思えるシーンなんで、これから先も何度も『武装錬金』の単行本は読み返すと思います。私的に心に残る、2年間本当に毎週楽しませてくれた、本当に好きな漫画作品でした。


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