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 「型をしっかり覚えた後に、『型破り』になれる」(中村 勘九郎)

 の警句を、あいば的に物語鑑賞論の警句に置き換えると、

 「型を知ってるからこそ、型破りが楽しめる」

 となります。
 ……そういう文脈で、剣に魔法にエルフにドワーフにという近年のファンタジーに多大な影響を与えた、「型」中の「型」、『指輪物語』をついに読了。王道から変化球的なモノまで、幅広くこれからファンタジーを楽しむためにも、最高の「型」として読んでおいて損はないですぜ?
 例えば、この最終章では「王の帰還」のサブタイ通り、アラゴルンが王として即位する場面が最高にカタルシス場面として描かれているんだけど、そういう型、原点を知ってるからこそ、例えば『ロードス島戦記』で王にはならない決断を下すパーンの物語なんかが軸を踏まえた上での変化球としてより楽しめると思うんですよね。

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 最後の戦いも王道中の王道でいきます。モルドール軍に苦戦するローハン、ゴンドール連合軍の前に、地元民しかしらない秘密の抜け道を通って駆け付けてきたアラゴルン率いる別働隊が到着して逆転という、別働隊が勝利要因になる王道パターン。そして最後の最後も、今度はアラゴルン側の主力部隊が絶体絶命という所で、二人だけの別働隊フロド&サムが指輪の破棄に成功して冥王消滅という、オオ、王道だ!型だ!と唸るしかないラスト。個人的にはラスボスバトルが特に描かれなかったのが印象的でした。冥王サウロンが実体化して立ちふさがって、フロドがつらぬき丸をかざして特攻とか、そういうの想像してたよ。実際には冥王の存在は漠然としたままで、指輪の魔力に捕らわれる人間の弱さを仲間の力で克服する所にスポットがあたって、主人公達勝利。これはこれで、文学に分類されることが多い指輪物語らしく趣深くてヨシ。

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 そして、ラスボスを倒してからのエピローグが長い!
 長いよ!これは長いよ!と思って読んでたんだけど、本当、最終の最終のシーンで、やっぱり読んできて良かったなぁと思えたので満足。これまたファンタジーの王道として、大冒険の末に故郷であるホビット庄(=日常)へとフロドら主人公達は戻ってくるんですが、ストレートに皆日常に戻って幸せに暮らしていきましためでたしめでたしではこの物語の幕は下りません。ストレートな大団円からは少しだけ変化球で、非常に残留感のある、そしてやけに切ないラストになってます。

-------<ラストシーンのネタバレ>------

 指輪の破棄をなしとげたフロドとサムだけど、ラストシーンで日常へと戻って来れたのはサムだけ。フロドは長く指輪を持ちすぎたために、変化してしまった自分はもう日常には戻れないことを自覚し、同じ指輪保持者のビルボやガンダルフと共にホビット庄を後に、果てしない航海へと旅立っていってしまう。最愛の主人であるフロドを涙ながらに見送ったサムがホビット庄へと戻ってきて、サムにとっての日常の象徴である妻のローズと娘のエラノールを前に、小さな娘を膝にのせて、

 かれはほーっと一つ深い息をつきました。「さあ、戻ってきただよ。」と、彼はいいました。

 のラスト1文がラストシーン。


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 切な温かい。「旅の仲間」から始まるフロドとその仲間達の長い絆の物語を読んでいるからこそに、グっとくる終わり方です。

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 巻末に「著者ことわりがき」なる文章がついてるんですが、生のトールキンの文章も興味深かったです。とにかくこの物語には寓意は入ってなくて、言語学的モチベーションから書かれたものだというのが熱いです。書いてる最中に戦争とか色々あったけど、とくに政治的思想的メッセージとかはないよんと言っているのが熱いです。なんで言語学的モチベーションが物語創作に繋がるのか普通の人には分かりづらい部分かもしれませんが、僕には分かるよ!分かるよトールキン!という感じです(トールキンの本業は言語学者/この文章を書いてる僕は言語学修士号所持者)。
 また、かなりの長い年月をかけて少しづつ書き続けて出来上がった作品だというのもイイですな。言語学者が自分で作ったエルフ語を頼りにコツコツと物語を書き続け、それが今では世界中の人々を楽しませてるというのがロマンです。

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 文庫にして全9巻の長編とハードルが高めの読書でしたが、あしかけ4年でコツコツ読んで、間違いなく糧になる読書経験でした。ものすごい映像美の映画の話題とも合わせて、世界中の人々との話のネタに、ちょっちやる気出して読んでみようかという読書好きの心意気を広く歓迎したい所存であります!

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