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ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 (EVANGELION:1.11) [DVD]  「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を観た感動から綴り始めたプチ評論。今回で最終回です。
 注意1:記事中には、エヴァとヱヴァ、双方に関して、また「涼宮ハルヒの憂鬱」、「ひぐらしのなく頃に(解)」に関して、結末までを含むコアなネタバレを含みます。
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 前回「エヴァとヱヴァを繋げて解釈してみる」までで、エヴァのラストは「主人公による世界の選択」にキーがあった点、また、類似する要素が「涼宮ハルヒの憂鬱」のクライマックスにも見られ、だけど双方の結末が異なる点を書いてきました。今回のラストの記事はまとめの記事なのでいたって簡単な話です。エヴァのシンジくんや、「涼宮ハルヒの憂鬱」のハルヒのように自分が世界を選択できる立場に置かれたとして(当然、両作品とも、視聴者にも問いかけるような構成になっている)、じゃあ僕たちはどちらを選べばよいのか、何をたよりに選べばよいのか、そういうお話です。

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 結論から言うと、僕は「涼宮ハルヒの憂鬱」で描かれる選択の方が好きです。クライマックス、キョンとハルヒだけから始まる新世界か?SOS団の皆がいるこれまでの世界か?その選択を委ねられたキョンは、迷わずSOS団の皆がいるこれまでの世界の方を選択します。

 ここで重要なのは、実は、キョンが選んだSOS団の皆がいる世界の方が「真実」の世界ではないということです。むしろ、ハルヒを神とする見解(古泉一派の見解)もある作中では、ハルヒが創ろうとしてる新世界の方が「真実」の世界なのかもしれない。それどころか、SOS団の皆がいるこれまでキョンが暮らしてきた世界は、数年前に何らかの出来事で誕生したばかりの「虚構」の世界であることが作中ではほのめかされています。それでも、キョンは「虚構」であるかもしれなくても、SOS団の皆がいる世界の方を選んだ。

 ここが「ハルヒ」が傑作たるゆえんだと思うのですが、自分のいる世界が実は何ものかに作られた「虚構」の世界だった!的展開はSFの世界では昔からくり返されてきた物語文法であるんですが、パラノイアSFとか言って、やっぱり、主人公は自分の世界の虚構性にアイデンティティをロストして、非常に悩みまくるのが常だったんですよ(映画『トゥルーマンショー』とかモロにそれ系で分かりやすくてかつ傑作だと思うので一度観て欲しいのですが)。所が、「ハルヒ」の登場人物達は、「虚構」の世界だと分かっていながらも、特に悩み苦しむことなく、楽しければいいんじゃん?的なノリで、草野球をやり、バンドをやり……と「生きる」ことを楽しんでいる。

 例え「虚構」の世界でも、仲間達と過ごした楽しい時間には価値がある。

 「涼宮ハルヒの憂鬱」では、このSOS団の仲間と過ごしたコメディ調の物語の部分が、最後の帰るべき回帰点として機能しますが(未来から来たみくるちゃんが、とても大事そうにSOS団の部室を見回すシーンなんかがある)、結局の所、仲間と過ごした楽しい時間。もう少しカッコよく言えば、仲間との関係性は、世界の真実性とか虚構性とかを凌駕して、尊い。それが「涼宮ハルヒの憂鬱」に込められた一番のメッセージで、かつ結局大多数の他者との関係性を放棄してアスカとのセカイ系に逃げたエヴァのラストのシンジくん(しかもそれすらもアスカから「気持ち悪い」と否定されて終わる)とは異なる形で提案された、世界選択にあたってのたった一つの「価値(世界を選択する根拠にまでなるもの)」だったように思います。

 この系譜は、去年2006年を席巻したと言ってもよいであろう、「ハルヒ」ともう一つ、「ひぐらしのなく頃に(解)」にも実は共通して見られて、最終話「祭囃し編」の後に出されたファンディスク収録の「賽殺し編」という物語の中で描かれています。超常の存在で、世界を常に選択できる立場にあった梨花ちゃんが、いざ「何もかもが平穏な世界」と「悲劇があったけど乗り越えた仲間がいる世界」との選択を突きつけられた時に悩み抜き、結局、仲間との「関係性」を取って「悲劇があったけど乗り越えた仲間がいる世界」に戻ってくるというお話です。

 この展開の後に、「ひぐらしのなく頃に」作中のキーヒロイン、竜宮レナから語られる、この命題への解答が、僕が読んできたこの「世界の選択」という命題を掲げた物語の中では、一番心に響いてきます。すなわち、「世界を選択できるなんて普通の人間にはあり得ない。だから、人は与えられた世界を一度限りのモノとして一生懸命生きている」という結論。

 世界の選択権を持っていた梨花ちゃんが、そのレナの言葉を聞いて、選択権を棄却してただ一つの世界を一生懸命生きると決めるというラスト。例え虚構の世界だとしても(そんなことは誰にも分かりません)、与えられた今という自分が生きている世界、だったらそこで仲間との関係性を築いてみよう。一生懸命生きてみよう。それが、この「世界選択系」とでも言える物語の系譜から僕が感じ取った、一番共感できる結論です。複数の世界と、その選択権という設定を設けながら、一つの世界の価値に収斂してくるという一つの逆説。それがひたすら美しいので、「涼宮ハルヒの憂鬱」も「ひぐらしのなく頃に」も僕は傑作だと思うのです。

 来世で幸せになってもしょうがない。与えられた一度きりのこの世界で一生懸命生きてみよう。僕の他にもそう思って生きてる人に出会えたなら、それはきっと嬉しいことなのです。

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トゥルーマン・ショー(通常版)

→1:「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」は原作者による二次創作か?
→2:ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序/ネタバレ感想
→3:エヴァとヱヴァを繋げて解釈してみる
→次回:ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破/ネタバレ感想へ