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 いよいよ放映開始が迫ってきたガンダムの新TVシリーズ「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」。今回は、ガンダム作品がリリースされるたびについて回る(特ににSEEDシリーズ以降)、「実際の戦争を描いていない」「子供だまし」etc...といった批判に関して、コピーライティングという筆者独特の世界の視点を導入しながら、そういった批判の妥当性を検証してみましょう。
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 コピーライティングのレターと、アニメをはじめとする創作娯楽コンテンツは、その性質が似ているということを僕はこれまでときおり言ってきましたが、その共通する性質とは、「誰に向けて書くか(創るか)」という点が非常に重要になってくる点です。

 現実の世界は人類補完計画(@エヴァンゲリオン)が完遂されて主観が一つの個体として統一されてるわけではなく、視聴者の一人一人は異なる主観・嗜好を持った群体の中の一つの「個」なので、万人全てが反応するセールスレターというものも、万人全てが楽しめる娯楽というものもこの世界には存在しません。それゆえに、万人という大きな母体から、どういう「層」を切り取ってきて、その「層」が楽しんでくれるレターを、創作を創るか?という視点が非常に大事になります(特に、イデオロギーのような東浩紀氏の言う所の「大きな物語」が没落した現代においては)。

 コピーライティングのセールスレターの例を最初にあげると、この「誰に向けて、どういう層に向けて書くか?」という点に関して、OATH(オース)と呼ばれる顧客層の分類が一つあります。それぞれ、頭文字を取って、

Oblivious(気付いてない)
Apathetic(無関心な)
Thinking(考えている)
Hurting(痛んでいる)

 という四つの層です。ダイエットの教材を売るセールスレターを書く場合について考えれば、まず問題の存在そのものに気付いてないようなOblivious(気付いてない)な層に向けて書く場合は、色々とダイエットの必要性の説明から入ります。実はメタボリックというものがありまして……これこれこういうリスクがあるんですよ……と、そういう説明から入っていく場合ですね。

 次に、Apathetic(無関心な)層、すなわち問題の存在は知っているんだけど、でもあまり関心がないという層に向けて書く場合は、関心を持って貰うことに重点を置いたレターを書きます。いえいえ、あなたが思ってる以上にメタボリックは身近で、これこれこんな例もあるんですよ、とかそんな感じですね。

 そして、問題も知ってるし、関心もある、それどころか、独自に色々考えている……というThinking(考えている)な層に向けて書く場合は、色々と専門的な言葉を使って、アカデミックに、論理的に、データを提示しながら書きます。既に自分で考えて色々調べてる人なので、その専門的な知見を持ってしてなお、このダイエット商品はこれこれこういう理論で効果的だ、というのを論理的に説得するわけですね。

 最後に、Hurting(痛んでいる)な層、もう、これは明日までに痩せないと婚約を破棄される!とか、スマート美人って嘘ついてたのに、明日はデブな自分がオフ会だ!何とかしたい!とか、そういうもの凄く切羽詰まってて心が痛んでる層ですが、そういう人向けに書く場合は、ただ即物的に解決法だけをダイレクトに示してあげます。脂肪吸引機とか、そんな感じですね(笑)

 重要なのは、OATHそれぞれの層に関して、まったく違うレターを書かなくてはならず、またOの層の人にとってはAの層のレターはピンとこないし、Tの層の人にはOの層のレターなんて「そんなことは知っている」と言った感じでちゃんちゃらおかしくすらアリ、やはりピンと来ないという点です。先に述べた、万人に統一的に心に響くレターというものが存在しないという一例ですね。

 さて、この客層の分類を、想定している視聴者層の分類にあてはめると、ガンダムというコンテンツをどういう層に向けて創っているかという点に関しても、ちょっとした知見が得られるということがあります。今回は、冒頭でお話した、題材として「戦争」を扱ってる作品としてのガンダムという視点にのみ絞りますが、果たして、最近のガンダムはOATHで言うならどういう層に向けて創られているのか?

 これに関しては、SEED時代の福田監督も同じような趣旨のことを語ってたことがありますし、また今回の00(ダブルオー)の水島監督のインタビューでも共通の見解が見られる箇所があります。以下、今年の雑誌『Newtype8月号より』水島精二監督のインタビュー箇所から引用です(参考:僕の知らない世界、私とかけ離れた人々/『機動戦士ガンダム00【ダブルオー】』/プレ感想00:サブカル・カムカム)。

 ただ、それで社会に問題提起したいとか、解決策を見せたいということでは決してないんです。番組を見る若い子たちが『あ、こういうことって本当にあるのかな?』ってネットで検索してくれたら、それだけで作品をつくった意味があるな、と思っているですよ

 知らない世界に目を向けるきっかけになりたい
 日常とかけはなれた境遇の人々を理解していくこと


 上のコピーライティングで想定する「層」の話と関係づけて理解して頂けたでしょうか?すなわち、ガンダム制作サイドの中心である監督の口から語られている言葉を参照にすると、こと「戦争」という題材を扱っていても、その内容は、あくまで現実の戦争に関してOblivious(気付いてない)な層や、あるいはせいぜいApathetic(無関心な)な層に向けて描いているということなのです。実際の年齢層で多いのは、中学生くらいの層でしょうか。

 僕はSEED感想サイトを運営していましたが、その時によせられた作品批判の一つに、「こんな戦争論は幼稚、週刊こどもニュースの方がまだマシ」というようなモノがありました。しかし、お気づきのように、そういう批判をしてくる人は、自分が戦争に関してThinking(考えている)な層に属しているのに対して、作品はOblivious(気付いてない)な層や、あるいはせいぜいApathetic(無関心な)な層に向けて創られているというその齟齬に気付いていないのです。国際関係学やら政治やら哲学やらで、本気で戦争について考えているThinking(考えている)な人達にとっては、そりゃガンダムSEEDで描かれてる戦争なんて物足りないですよ。しかし、それは創り手が能力的にアカデミックな戦争論を描けないわけではなくて、あくまでOblivious(気付いてない)な層や、Apathetic(無関心な)な層に対して、戦争に関して考えるきっかけになってくれればイイ程度のスタンスで作品を加工しているから。そこでは、Thinking(考えている)な層が喜ぶようなアカデミックな戦争論や深みは、かえって邪魔になる場合があるのです。

 また、「現実の戦争はもっと過酷、こんな部活みたいなファッションな軍隊があるか」というような作品批判を目にしたこともありました。そして、このケースは、既におわかりのように、Hurting(痛んでいる)な層を前提として作品を見て批判してるのに対して、やはり実際には作品はOblivious(気付いてない)な層や、Apathetic(無関心な)な層に対して創られているという齟齬があるのです。そりゃ、現実の戦争を経験した痛みのある人などにとっては、アニメで描かれてる戦争なんてちゃんちゃらおかしいのもイイ所だと思います。実際の中東の兵士がガンダム00(ダブルオー)を見たら、何の茶番か?と思うかもしれません。だけど、サンライズも水島監督も、本当の中東の戦争兵に向けて作品を創ってるわけではないのです。あくまで想定してるのは日本にいるOblivious(気付いてない)な層や、Apathetic(無関心な)な層。そして、そういう層に導入として意識してもらうためには、実際の戦争の現場にいる人には滑稽に映るようなファッション要素が、効果的な導入剤として作用する場合もあるのです。

 自分が属してる層に対して(これは今回あげたOATHのみに限らず、様々な要素において)ぴったりとマッチした作品を提供された幸せは、娯楽享受者にとって最高の喜びです。だけど、その理想的なマッチが起こらなかったとしても、すぐにイコールで作品自体の低評価に結びつけるのは、早計という部分があります。自分の主観が世界の客観とマッチしてるような錯覚を感じている中学生くらいならまだ分かりますが、僕くらいの年齢の大人視聴者は、創り手の想定する層と実際の層とのマッチ具合などに関して、自分自身が直接作品の想定する層とマッチしているかは脇においておいて考えながら視聴する……というような楽しみ方ができてもいいような気がします。自分の主観でイマイチな作品でも、創り手が想定した層からしっかりと支持を獲得している作品は、少なくとも市場の中では優れた作品なのですから。

 リンゴが好きなお客さんに向けてリンゴを売っているリンゴ屋さんがいました。所が、リンゴ屋さんは、ある日、お客さんAから「俺はオレンジが好きなのになんでリンゴなんか売ってるんだ!この店はけしからん!」と怒鳴り込まれてしまいます。

 このお客さんAをちょっとでもイタイと感じることができたあなたは、アニメをはじめ、娯楽創作の感想・批評となると、こういうお客さんAみたいな人が沢山いる現実を、ちょっと一歩身を引いて見られるようにしてみましょう。

 そして、自分自身のあり方としては、せめてリンゴ屋さんに対しては、批評、意見を行うにしても、僕はもう少し甘いリンゴが好きだ、柔らかいリンゴが好きだ、と、リンゴ括りレベルでは、送り手と受け手のマッチングを意識して感想を述べられるような大人になってくれれば、そしてそういう人が少しつづ増えていけば、もう少し世の中の楽しさも増していくんじゃないかと思った、コピーライティングやマーケティングが生業のガンダム好きの雑感でした。

機動戦士ガンダム00 2008年カレンダー

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