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『XXXHOLiC(ホリック)』の最新第12巻の感想です。
作中で百目鬼が口にしていますが、今巻で特に描かれているのは荘子の「斉物論」の「胡蝶の夢」という故事を題材にしているお話です。蝶が自分が見た夢なのか、逆に自分の方が蝶が見ている夢なのか、判別がつかないという感覚にまつわるお話。遡ったルーツが荘子にあるのかどうかは分からないんですが、わりと今自分が信じている現実が夢であるかどうか厳密には証明できないというトピックは哲学の世界で古くからあって、派生的に現代に溢れている様々な創作作品の中でも題材に取り上げられて使われています。「胡蝶の夢」「自分の主観の方に齟齬があるトリック」「ループする世界」は、そういった幻想文学的な作品を支えるトリプルコンボじゃないでしょうか(そして、3つがそれぞれ関連している)。
そして今巻では、四月一日くんは、自分は侑子さんのお店関係と、百目鬼、ひまわりちゃん関係以外の記憶がない、そもそも両親の名前さえ思い出せない存在であることに気付き(自分の主観の方に齟齬があるトリック)、百目鬼やひまわりちゃんが出てくる世界と遥さんや桜舞う中で蝶の羽を持った侑子さん、「ツバサ」から渡ってきたサクラがいる世界のどちらがホントウの世界であるか分からないまま(胡蝶の夢)、それらの世界を時間軸があやふやなまま行ったり来たりをくり返す(ループする世界)という三要素でみっちりと話が進み、そんな中で四月一日くんが離人感状態に陥ってしまう様が描かれています。
これ、設定として、夢の世界と現実の世界がどういう風に関連してるのかが作中で明かされるのかは分からないんですが、既に、伝えたいメッセージは今巻時点で伝えられていると思います。そのメッセージがそのまま厳密な設定なんてどうでもいいじゃんというスタンスを表明しているものなので、物語完結までに、この辺りの「夢」ってなんだったのか?とかは、特に描かれない気もしてきています。
で、「胡蝶の夢」「自分の主観の方に齟齬があるトリック」「ループする世界」は何かしら人を惹きつけるモノがあるらしく、前述したように様々な作品で使われてはいるんですが、一方で、そういった離人的感覚は、本当にそのまま迷路に入っちゃって普通の人が精神科のお世話になる最初のきっかけになる要素になってしまう場合も現実ではあったりします。それくらい、いいようのない不安を掻き立てる概念でもあったりするわけです。
で、XXXHOLiCで描かれている、伝えられているメッセージというのは、そういった不安を払拭する、一種のトランキライザーの提示。その全てが、ラストの侑子さんの、
「貴方が経てきた事実(ホントウ)が貴方を強くする そして、その強さで願い続ければ夢は真実(ホントウ)になるの」(壱原侑子)
に込められていると思います。この記事(選択される世界/エヴァ&ヱヴァ・ハルヒ・ひぐらしのなく頃に(解))なんかでも書いた話と通じる点ですが、虚構の世界(今巻であるなら夢)、虚構の自分(齟齬がある主観)、虚構の時間(ループする世界)の中で、不安を感じてアイデンティティロストする主人公の苦悩を描いた作品っていうのはSFなんかを中心に沢山あったわけです。だけど、上述のハルヒやひぐらしと同様、このXXXHOLiCで描かれているそれらの不安、苦悩を克服するトランキライザーというのは、「例え夢だろうと現実だろうと、自分が信じる拠り所がある方が真実」という考え方だと思います。ハルヒだったらその拠り所がSOS団の皆と過ごした時間だったりひぐらしだったら部活メンバーだったりするわけですが、それが、XXXHOLiCにおいては侑子さん曰く「貴方が経てきた事実(ホントウ)」であると。その直前の四月一日くんの語りが「逢ったこと」や「遇ったこと」、そして自分がいなくなったら悲しむ人に関する述懐だったことから、やはり、その拠り所となるのはツバサとXXXHOLiCの両方で冒頭からくり返し描かれてきた、「他者との関係性」なのだと思います。ツバサの方で、真・小狼くんと写身小狼くんとで、一つ真実の存在と虚構の存在にまつわるお話を描いていますが、そっちの方の解答も、例え虚構だとしても、東京編以前の旅で培った写身小狼とサクラや仲間達の「関係性」は真実(ホントウ)だ、という風に落ち着く方向に物語が進んでいるのはよく読んでいれば分かります。それと同じく、例え虚構の世界の虚構の自分でも、四月一日くんが培った「関係性」、そこから生まれた「願い」は真実(ホントウ)だ、というのが、今巻ラストの、この人間が背負う離人感的負荷を浄化するための解答。そういった四月一日くんが虚構(夢)の世界で、虚構の自分を自覚しながら、ただそれまで培った関係性から生まれた真実(ホントウ)の願い、「侑子さんの願いを叶えたい」を口にするというラスト。そんな四月一日を虚構の存在だとしても真実(ホントウ)だとでもいうように抱きしめる侑子さんの絵でラスト。ヒジョーに神がかってたと思います。「胡蝶の夢」系作品(そういう作品群があるとして)の中でも、最高傑作の部類じゃないかな。XXXHOLiC、ホントウ好きです。
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この作品に関するここまで深い考察をされてるレビューを拝見するのは初めてです。 どんどん読みいってしまいました。 ありがとうございます、とても面白かったですw
最初から最後まで神懸り的な魅せ方をしてくれた本作、ホント最高傑作じゃないかと思います。