
前回のW杯終了後にサッカーを引退して旅に出てから、世界50ヶ国100以上もの都市を旅してきた中田英寿の「今」がみっちりと詰まった一冊。ロングインタビューと監修した記事を読み終えると、サッカーではない新しいフィールドで、グローバルな視点でもって新しい行動(=ビジネス)を始めようとしてる彼の意志が明確に伝わってきます。
W杯だけTVで視るくらいのサッカーファン未満な僕ですが、中田はもとから好きでした。けど、特に強い興味を持つようになったのは、引退してから断片的に寄せられる情報から、彼の今度の舞台はビジネスのフィールドを考えているらしいというのが分かってから。
インタビュー記事と監修記事から伝わってくる、彼が特に感じていることは、「メディアを通しての世界と現地での実感としての世界の差異」と「多様性が持つ可能性」の二つ。
奇しくもっていうか、日本国内のサブカルチャーな作品が昨今設定しているテーマと、世界を縦横無尽に旅してきた中田の見解とが重なっています。
貧困地帯からリゾート地まで、道ばたの名も無き人から有名人までと、直接自分の足でもって世界を視てきた中田が、メディアのフィルターを外して視た世界に実感としての可能性を非常に感じているんですが、ガンダムOOとか、娯楽を度外視したらこういうことをメッセージとして伝えたいんだろうなと思った。世界中を回って独自のワールドマップを築く作業を「前提」として、そこからまた大きい世界での活動へと移行していく意志を見せている中田は、まさに天上から地上におりた人間がミクロの視点から独自の知見を積んでパワーアップし、再び世界を変えるために天上(マクロ)へと昇っていくという予想されるガンダムOOのストーリーラインそのままです。こんな島国の片隅のブログでガンダムに例えられてるとは中田もビックリだろうけど、僕らが創作物の中であれこれ考えてる事柄を、リアルに実行してるのはスゴイです。創作物とか、中々普通の人の現実にはならないから創作として成り立っているんであって。
もう一つは「多様性が持つ可能性」。もちろん世界中を旅してきたという意味でのグローバル化的意味合いでの多様性にも言及してるんだけど、それ以上に、僕が島国の片隅で『魔人探偵脳噛ネウロ』の感想で触れてたような、個人の中の内面の多様性にも可能性を見いだしているフシがあります。中田が選んだ記事というのに、完成体ではなく、アップデートされ続けるモノが時代にマッチしてるというような意志を感じる箇所があります。
近未来的なカザフスタンの新首都、アスタナが先日無くなった黒川記章氏の仕事だったという記事に(中田も旅の途中で訪れた雑感を書いてますが)、完成体としての都市ではなくて、つねにアップデートされ続けることを前提としてデザインしたなんていう黒川氏のお話が載ってる点から感じられる。
アスタナは都市ですが、中田という人間自体が、これまでの時代だったらなんだかんだで一生サッカーに携わってサッカーの人というアイデンティティを完成体として目指していた所を、あえて別なフィールドに携わるという風に自分をアップデートし続けてる人なわけで、そんな中から完成体幻想の棄却、多様性を含有するアイデンティティ、あらゆる事象がアップデートされ続ける世界、などなど、僕個人としては宇多田ヒカルの「Parody」や「光」の「完成させないで」のフレーズも相成って、感受性のアンテナが強い人達はなんとなく一つの方向に向かって進み始めてる気がするななんて、色々とこれからの「世界」に関して考えさせられる雑誌でした。
超お勧めです。
