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 「――生きているのなら、神さまだって殺してみせる」(両儀式)

 テアトルダイヤ池袋での第一章〜第三章一気上映でついに劇場版『空の境界』を劇場体験してきましたんで、その感想です。原作ネタバレありなんで注意です。
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 超大満足でした。三章一気に見たせいもありますが、見終わったあと、フラフラに消耗してるほどの、圧倒的な「映画」体験でした。

 めまぐるしい視点切り替えによって、各キャラクターの内面が内省的に深く深く掘り下げられる原作小説に比べれば言語情報は少なくてたぶんこれが初見の人は原作組が原作で体験したような言語世界、叙述世界は体験できないと思うんですが、そういうのは映画見た後に原作読めばいいじゃんくらいの勢いで、映像という特徴を生かしての視覚的な美しさ、カッコよさ、派手さが群を抜いて良くて、至福の映像体験を届けてくれた感じです。エンターテイメントですが、あえて芸術的と称えたいくらいです。

 僕はよく今の時代は作品の価値は作品に客観的に内在してるのではなく、受け手の主観に依拠して千差万別に変わるんだ、だから値段的な価値も受け手によって様々でしかりという話をするんですが、受け手としての僕は、この映像作品にだったら、DVD、もといBlue-rayとかだったら、10万円です、とか言われてもたぶん買うね。それくらい、手元に置いておいて折に触れて繰り返し体験したいと思った。東京に住んでたら絶対繰り返し劇場に足を運んだよ。

●第一章「俯瞰風景」/感想

 高度経済成長が終焉して、どことなく虚無的な雰囲気が流れてる世の中を表象してるかのような廃墟と化したビル群と、そんな退廃や空虚さとは無縁かのような普通の幸せが溢れる町の風景。そんな映像で主題の境界性を表現していたのが大変よくて、もうそれだけで世界観の方はどっぷりできあがっている所で、幹也との絆を媒介に、日常からあぶれた存在である式と巫条霧絵という二つの実存がぶつかり合う所がもの凄く燃えました。しかも舞台は廃墟と化した巫条ビルの屋上。流れ出す梶浦由記さんの切なカッコイイ楽曲に、超絶のバトル映像。これは凄かったわー。DVD買ったら、バトルシーンの所は10回観ますよ。

 そして、ラストシーン、式宅の冷蔵庫に入っている幹也用のハーゲンダッツのシーン(劇場版アレンジとして、式が特に好きでもないハーゲンダッツ(幹也が買ってきてくれた)を食すシーンがかなり時間を取って途中に描かれている)から、主題歌「oblivious」が流れ出してエンディングへ。ものすごい構造的な複雑さと物語的な深みを持ちつつも、実はシンプルな式と幹也の恋愛小説というこれぞ『空の境界』という結び方だったと思います。こんな第一章「俯瞰風景」が観たかった。

●第二章「殺人考察(前)」/感想

 式と幹也の恋愛譚の色が濃い第二章。非日常の存在である式は、内面では幹也に惹かれつつあるんだけど、日常の幹也と式は決して交われない存在。式(識)の幹也への気持ちが高まれば高まるほど、それを殺人衝動としてしか表現できない式(識)の、切ない恋心。

 原作の方の初読時一気感想では書きましたが、この作品の表題である『空の境界』には、物事に設定されている様々な境界なんて実は空虚なものだよねという表面上の意味の他に、自分と他者とを分け隔てる境界を無効化して、一つになれたらいいのに、それだけは絶対にできないようになっている、切ないね、という、裏の意味が一本の芯を通して、全編にまたがって式と幹也の恋愛譚を中心に描かれています(原作の、「人間はひとりひとりがまったく違った意味の生き物。ただ種が同じだけというコトを頼りに寄りそって、解り合えない隔たりを空の境界にするために生きている。そんな日がこない事を知っていながら、それを夢見て生きていく。」の部分より)。

 その終着点へ繋がるための、ラストの式が幹也を押し倒しての、

 「私はおまえを殺したい」(式)

 の台詞。

 原作では、「殺したい」の部分は、「犯したい」にルビを振って「犯したい(ころしたい)」と読ませています。幹也と一つになりたいという式の衝動と、けれどそれを殺人衝動でしか表現できない式の背反する内面。どんなに一つになりたくても、その境界だけは無効化することができない。原作の解説が必要な部分ですが、圧倒的な映像力で式の内面の揺れ、それまでの式のアイデンティティが幹也という異分子によって崩壊していく様が表現されていたと思います。

●第三章「痛覚残留」/感想

 生きている実感がない式と、浅上藤乃とが、お互いに幹也を拠り所にしながら同類ゆえに殺し合うというエンターテイメント色が強い一話なんですが、クライマックスのバトルシーンがヤバカッコよかった。

 美麗絵で動く動くのバトルシーンの最クライマックス、式が藤乃の能力を、直死の魔眼で能力ごと殺しはじめる所で梶浦さん楽曲が流れ出して、例の決め台詞「万物には全て綻びがある……」の語りが始まる所が鳥肌もの。直接的な作品のテーマとかに密接した台詞では無いものの、雰囲気的なカッコよさとしてこれぞ『空の境界』という決め台詞、

 「――生きているのなら、神さまだって殺してみせる」(両儀式)

 が炸裂する所で、もう、ありがとうございました!って感じ。直死の魔眼カッコ良すぎる!

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 という感じで、もう大満足の劇場版『空の境界』でした。DVDは突撃済みで、もう一回観られるのを心待ちにしております。続く『伽藍の堂』『矛盾螺旋』『忘却録音』『殺人考察(後)』も楽しみです。特にこのクオリティーで再現されたら、『矛盾螺旋』のバトルシーンはヤバカッコいいことになりそうだなぁ。もう、こういったコンテンツを世に具現化してくれたクリエイターの皆様にただただ感謝です。

劇場版「空の境界」 俯瞰風景 【完全生産限定版】

劇場版「空の境界」 殺人考察(前) 【完全生産限定版】

劇場版「空の境界」 痛覚残留 【完全生産限定版】

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