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 「――自分で自分を何度も殺してきた」

 劇場で序盤三章を一気観賞した時に興奮して書き殴った感想はこちらにありますが、DVD2巻が届いて「殺人考察(前)」を改めて視たので、再び軽く感想をば。原作のネタバレありなんで注意です。
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 相変わらず溜息が出る映像美。冒頭の雪、クライマックスの夕日、ラストの雨と、完璧です。

 内容としては式と幹也の恋愛譚。というか『空の境界』全体が実際はシンプルな式と幹也の恋愛物語と捉えられるんですが、それが一番分かりやすくて、かつ起点になってるのがこの第二章。

 もう、式と幹也とで全然会話がかみ合ってないのが美しすぎる。キャッチボールしてるようで、実はお互い勝手に喋ってるだけって感じでこの章では実は二人は何の相互理解にも至れていないという(実際、ラストのモノローグでさえ、幹也は式が最終的にどうしてああいう行動に出たのか全然分からないと述懐している)。

 人と人とが解り合えるとか、嘘だろうと淡々と書きながら、でももしかしたら?という所に落とすことが多いのが奈須きのこ作品だと思うんですが、この章ではその「もしかしたら?」もほとんど見えないと言う。

 それでもそれまで自分の内面世界の式と識だけで成り立っていた式(識)にとっては、その内面世界の境界を越えてはじめて進入してきた幹也という異分子は特別の存在で、幹也にとまどい、憧れ、拒絶しながら、結局壊れていくという。

 ラストの、

 「私はお前を殺し(犯し)たい」(式)

 が、そういう自分の内面世界と相手の世界との境界を取り払って一つになれたらという願いと、だけど絶対にそれはできないという、「空の境界」というタイトルの裏の意味に繋がる凄まじい台詞なんですが、このシーンの意味が明かされるのはもう少し後。

 この章では(映像的にも)識の魅力が炸裂していますが、そんな識がこの章のラスト(の時系列。明示的には描かれない)にとった行動、どうして目ざめた後の式には識がいなくなっていたのか、識が幹也をどう思っていたのか。

 この辺り、原作も再読してはじめて気付いたんですが、全てが後半の章で、この第二章がかかっていく形で明らかになります。色々と頭の中のパズルを組み合わせてその意味に気付いた原作再読自は泣いた。それくらい、この章のヒロインはまぎれもなく識。

 あとは第一章の「君は女の子なんだから」もそうですが、叙述トリックを完璧に捨てて映像ならではの魅力で勝負してるのがイイですね。この第二章でも、「――1995年4月 僕は彼女に出会った」は実は原作では叙述トリックの箇所なんですが、普通に幹也のモノローグとして鈴村さんが声をあてています。やっぱり、雰囲気は再現しながらも分かりやすいというのが劇場版の魅力です。

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