以下、ネタバレ感想です。
以上がコトの始まりにしてほとんどおしまい。
わたしこと瀬尾静音と、黒桐幹也さんとの運命の出会いなのだった。ぱきゅーん。
もう、冒頭から「4/」とかで始まってる時点で、時系列バラバラ…キターーー(>▽<)、分かりやすく伝える気がさらさらない、読者に読解を求めるパズル型作品、これぞ『空の境界』!って感じでテンションあがってたんですが、今回も時系列バラバラ表現がイキイキとしていました(参照:時系列をバラバラにする手法の意義/『空の境界』、『涼宮ハルヒ』、etc.. )。「大きな流れに見えるけれど一つ一つの日常はそこで完結している儚い物なんだとしたかった。」(奈須きのこインタビューより)を地でいってるよなー。
サブタイトル「未来福音」が発表された時から予想していた通り、原作のラストでエピソードの存在だけがほのめかされていた未来視の静音ちゃんのお話だったんですが、静音ちゃんが意外と普通の女の子でワクテカでした(もっと神秘的な娘のイメージだった)。
未来視の静音ちゃんと幹也のパートと、未来視倉密メルカと式のパートとが交互に(それこそ断絶したモノであるかのように)進み、最後に合流(物語としても、テーマとしても)という流れも、本格ミステリの系譜を汲んでる『空の境界』らしくて、構成からしてやっぱりこれは『空の境界』の新作だ!という感じでした。
「未来視」をテーマに、近年隆盛のルート分岐があるAVG媒体をメタなネタにしている作品だと思いました(TYPE-MOON自体がAVG作ってますが)。静音ちゃんパートは、未来、どのルートに進むかは決まっていないからこそいいんだと結論づけておいて、逆にどのルートに進むかが決まって見えてしまう倉密メルカパートの方は、未来のルートが確定した瞬間に、そこに「死」の概念が適用可能になるので、式が直視の魔眼で未来のルートごと殺してしまうというのが活字媒体でこんな表現アリなんだという表現で描かれていたり。能力ごと殺したり、空間を殺したり色々やってきたけど、未来の一ルートを殺すとか、本当大変なことになってきたな!>直視の魔眼。
そして、ここまでの「未来視」のお話で完結してるのに、そこからアフターパート的なストーリーが続いて、まさにファン仕様になっているのがニクかった。
まさかの、
----------------
式と幹也の娘、両儀未那(マナ)登場の原作本編のアフターストーリー。
----------------
ここも色々時系列を入れ替えてやっていますが、最後の1996年の「彼」は明らかに識で、観布子の母(この人はルートを超越して未来視できるホンモノらしい)が、この時点で識は絶対に救われずに死ぬけれど、識の「夢」は生き続けると未来視する。
原作本編より、識が自らを殺して護ろうとした「夢」は幹也という名の憧れた日常だったことが示されているので、その後、最後のアフターエピソードで式と幹也の娘である未那に出会った観布子の母が、本当に、識が願った夢・日常(結婚して娘が生まれてるなんて、1996年時点の式/識からは憧れても届かなかった日常)が存在していることを知り、「おそらく。彼女の物語はこの少女に出会う事で、ささやかな団円を迎えたのだ」という状態になったのだと思われます。
直前にこの10年(『空の境界』が同人で出た時間〜現在までの現実時間と、作中の1998年〜2008年とリンクする10年という数字)で変わったしまったことについて淡々と寂しげに語られる箇所があるのだけれど、それを最後にひっくり返して、式と幹也→未那と受けつがれ続けているものがある、変わるものがあっても、これから始まる物語もあるという感じで締められています。メタ読みすれば、娯楽の超スピード消費時代(よく日記やインタビューで奈須さんはこのことに触れている)にあって、この10年生き続けた『空の境界』、10年の時を超えて劇場映画化し、こうして新作が出される運びになった『空の境界』自体のあり方を、ラストの10年後の倉密メルカと未那のエピソードでは叙述しているような気がします。
という訳で大変満足な一冊でした。現在手に入れるには同人ショップ流通を利用するしか無く、価格も1800円とちょっち高いですが、『空の境界』ファンは是が非でもゲットして読もうという一冊だと思います。
→『劇場版空の境界』の感想へ
→講談社ノベルスでの初読時の全体感想へ
→「時系列をバラバラにする手法の意義/『空の境界』、『涼宮ハルヒ』、etc..」 へ
→原作『空の境界』の感想インデックスへ
神納月です。
僕もこの本を買いました。
買いましたのですが・・・・・・、始まりの部分が“/4”になっていたのは知りませんでした。
私の感想はやっぱりこの二人は最高のコンビだなと、思ったぐらいなので、この本を考察できるあいばさんはやっぱりすごいです。
それでは。