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 普通の人の手がこんなにも温かいなんて

 本日発売の古味直志『ダブルアーツ』コミックス2巻のネタバレ感想です。
 ジャンプ掲載時に書いた感想の収録話分の再掲+書き下ろし部分の感想となります。ジャンプ掲載分で知ってる先の分のネタバレは回避して書いてるので、コミックス派の方でも読めます。
 ◇

 フィーチャリング・スイな表紙&おまけ漫画。黒髪でスレンダーなのが「可愛い」っていうより「美しい」キャラでした。第13話の本誌掲載時はカラーだった扉絵がモノクロになってるのだけ残念ー。

 という感じで、再掲の本編感想。

●ダブルアーツ/感想/第6話“体温”

 作中悪であるトロイを表現する特性として新たに「体温が失われる」というのが示された第6話でした。そして、そんな作中悪トロイのカウンターとなる作中正義であるキリの能力は、失われた体温を取り戻すことができる能力でもあることも同時に示されました。

 トロイは誰とも触れられなくなるという意味で、コミュニケーションができなくなる孤独病を表現してるんだろうという話をずっと書いてきましたが、触れられなくなるがゆえに人の体温を知らない、「温もり」を知らない状態になってしまうということで、ますますリアルにあるコミュニケーション不全病をトロイは比喩的に表現してるんだろうと思うようになりました。

 ざっと、作中悪であるトロイと、それを治す作中正義であるキリの能力は、今の所出てるモノでは、それぞれ対でこんな感じですね↓

 トロイ−キリの能力
 誰にも触れられなくなる−キリだけは触れられる
 やがて透明になって消えてしまう−触れることで消えるのを止めることができる。また、キリ自身は透明化とは真逆の芸術的な創造する能力も持っている
 誰にも触れられないので孤独−皆で繋がる(触れ合う)ことでかけ算的にパワーアップする力(フレア)
 体温が失われる−体温を保全することができる

 また、今話のシスター達との握手イベントは、キリは「同情からか使命感からか知らないけれど」と表現してますが、キリ自身が能動的にトロイに立ち向かう動機を補強するイベントその一にもなったようです。触れ合うことでパワーアップできる世界にいたキリですが、そういう世界とは真逆の、触れられない、人と触れ合う温もりすら感じられないというトロイとそれに立ち向かうシスター達の世界が悲しいものだと、今回でヒシヒシと実感しはじめたようです。

 ここまでで、トロイ、というか「人と触れられない」ことが如何に寂しいか悲しいかということを掘り下げてるからこそ、そのカウンターとなる、ずっと触れていなければならないというキリとエルーの絵と設定が映えます。第1話の、

 「あんたがこの手を取ったら俺はもう 絶対その手は離さない!!」(キリ)

 の場面は、触れられないで消えていくという孤独病を一撃で破壊したという意味で、本当この作品の全てが凝縮されていたんだなぁとしみじみ。

 さて、引きは敵キャラっぽい「あいつ」の存在が示されて、いよいよ強敵登場という流れになりそうです。今話ラストのモノローグも、エルーが未来から出来事を回想してる箇所だと思われるので、既に「あいつ」が「あいつ」という特別な意図を付加した呼称で呼ばれてるだけで、キリとエルーにとって長いスパンで因縁深い相手になる(なった)キャラであることが示されています。1クール、というか物語冒頭のクライマックスバトル編になりそう。わざわざ前もって掘り下げた分、スイとかも助っ人登場しそうだし、楽しみです。

●ダブルアーツ/感想/第7話“鴉は舞い降りる”

 前回ラストの(未来のエルーのものと思われる)モノローグで、「あいつ」と特別な呼称で呼ばれていた、これからキリとエルーの因縁の相手となるキャラと思われる、ルーシー・ゼズゥなる敵キャラが登場。

 ダブルアーツの「アーツ」がたぶん「Arts」で、「透明」になっていく作中否のトロイという病気に対して、透明な場所に絵が描ける、「彩り」を創り出すことができるという作中是のクリエイティビティーを意味している「Arts」なんだろうとは前から書いてきたことですが(実際、キリには絵を描くのをはじめ、芸術的な創造する力がある設定)、今回ゼズゥが、カラスというガジェットを引き連れて登場してきているのは、たぶん「黒色」という部分に意味があって、そんな作中是のキリ(とエルー)が創り出す「彩り」を「黒色」一色に塗りつぶしてしまう……という比喩を込めての、「黒色」を携えたキリ(とエルー)の敵キャラってことなんでしょう。

 あとは、ローズさんの自己犠牲的な姿勢をキリが否定的に捉えた所も今話の見所でしょうか。作中否のトロイと、それを打ち破る作中是のキリ(とキリにまつわる能力・特性)の対比は前回の感想でまとめた通りですが、そこにさらに、「自己犠牲−自己犠牲の否定」というのも加えられそうです。

 これも、人との触れあい、関わりができなくなって消えていくトロイに対して、人と触れ合って関わり合って力を増幅させるキリのフレアという構図にほぼ繋がってくることで、シスター達は自己犠牲、つまりはトロイを吸い上げて自分が透明になって消えていくことを受け入れてしまっているフシがあるんですね。いわば、他者と繋がらずに「存在が薄く」なっていく方向を受け入れてしまいがちな人達(第01話でキリと出会うまではエルーにもこんなフシがあった)。で、それではいけないだろうと言うキリの能力は、そんな姿勢とは真逆の、他者と繋がることで、触れ合うことでパワーアップするフレアなんですね。こっちは、逆に他者と繋がることで「存在が濃く」なっていくイメージ。そんなイメージが、それぞれ「自己犠牲の姿勢」と、「みんなで繋がってパワーアップの姿勢」に対応している感じ。ストレートにエンターテイメントとしても面白いですが、この漫画の凄さは考え抜かれた比喩表現の巧みさにあると思っております。

 さて、キリ&エルー、連載開始以来のピンチな状況ですが、まだまだ逆転カードがあるのでそんなに心配でもない感じ。パッと思いつくだけでも、キリとエルーの助けに向かってきているファルゼン部隊、前もってバトル要因として掘り下げられていたスイの存在、力の弱いシスターでもフレアでみんなでパワーアップすればなんとかなりそう……など、結構な逆転カードが思いつきます。3番目のフレアでパワーアップパターンが一番熱い気がしますが、スイ好きなんで助っ人登場して欲しい気持ちも!

●ダブルアーツ/感想/第8話“彼の選択”

 多数を生かすために部分を犠牲にするか、部分を生かすために多数を犠牲にするか。子どもの理想だと分かっていても全員救済を目指すか、大人として部分を切り捨てるか。

 近年のサブカルチャーな世界では『Fate/stay night』でど真ん中で扱っていた主題ですね。で、サブタイトルの「彼の選択」として、子どもの理想だとは分かっていても(曰く「ガキだって分かってるけど」)キリは全員救済の理想を目指すと。

 「大事な事は……!!心が本当にしたいと思ったことをしろよ!!」(キリ)

 の辺りも、自分の本然と向き合うという『Fate/stay night』というか奈須きのこ作品で必ず関わってくる主題に踏み込んでいるようで、直接古味先生が作品に触れているか、同時代人として同じ世界を見ているうちに、同質のアウトプットに至ったのかもしれないですね。

 少し深読みの予想ですが、今回の「誰かを切り捨てて誰かが救われる」という原理を、作中のマクロな世界にまで広げて今後テーマとして描いていく可能性を考えると、トロイで消えてしまう人々の分、誰かが得をしている、誰かが救われていたりするのかな?と思いました(今の所、トロイがあると都合がいいらしいガゼルメンバーらが第一候補ですが)。

 で、キリはそんな誰かが消えて誰かが得をするというこの世界の原理に、どっちも救いたいんだと、トロイで消えていく人も、(仮定される)それで得をしている/救われている人も救いたいんだと、全員救済の子どもの理想を掲げて頑張っていくと。そういう大局的なお話に繋がっていく第一歩としての、今回の誰かを切り捨てて誰かを助けるか、それとも全員救済を目指すか?という「選択」だったのかなと思います(キリが選択したのはエルーを抱えてシスター達の元に戻るという「全員救済」)。

 さて、キリは、さすがに切羽詰まって、今話のラスト部分では我を忘れていますね。「オレのせいで……」「オレのせいでこうなったんだぞ…!!」「オレが…」「オレがなんとかしなきゃ……!!」と、オレ、オレと4回も連呼してる通り、自分の本質が仲間パワーの強化にあるのを見失って、自分一人でなんとかしようとしてしまっています。

 なんで、そのテンパり具合を脱出して、「オレ一人じゃなくてみんなで」という通常のキリモードにどう戻るかが見所ですかね。僕的には、前回予想した通り、スイが来るか、シスターさん達をフレアで強化して戦うがありそうな気がしています。

●ダブルアーツ/感想/第9話“そして彼は歩き出す”

 ゼズゥに見逃してもらうという決着だった!

 ライバルキャラとの初戦は敗北で主人公の挫折を一旦描くというのは考えてみれば王道を行くこの作品らしいんですが、もう少しバトルエンタメしてもらった上で負ける展開でも良かった気がする。1クールというか、序盤10話のヤマ場のバトルクライマックスだったと思うので、勝利しないまでも、ゼズゥにもう一矢報いるくらいのカタルシスが欲しかったなぁ。前回ラストで一人で何とかしなきゃ!と焦ってたキリの所にシスターさんが飛び込んできて、彼女とフレアでパワーアップして一旦局面を打開する所が異様にカッコ良かっただけに、もう一押し欲しかった。いや、でも、「手をっ!!」で作中是の「手繋ぎ行為」がアップで映ってフレアが発動、そっから局面を打開するという所は良かったですね。

 あとは今回のゼズゥ襲来イベントに対して自罰しているキリなれど、最後にシスターさんから戻ってきてくれてありがとうと言われて、それでもやっぱり関わること、関わろうとすることは意味があることだというのも示唆して結んでいるという。存在が希薄になって消えてしまうというトロイと、トロイを治しながら透明になって消えていくことを受け入れてしまいがちなシスターさん達は、現実のコミュニケーション不全病みたいなのを比喩してるんだろうとは書いてきましたが、今回のケースをそういった現実の比喩にあてはめるなら、引きこもりとかコミュニケーション不全の人が「もう私のことは放っておいて」って言ったんだけど、それをそのまま受け入れずに関わり続けることを選んだ、みたいな。自分で放っておいてと言いつつも、関わりに戻ってきてくれて嬉しかった、みたいな。

 エルーいわく「あなたが選んだ」っていう今回のエピソードを通してのキリの選択は、切り捨ててしまわないで関わり続けること、触れ続けることって感じでしょう(実際に戻って物理的にも手繋ぎで触れ合った訳ですが)。今回は敗北という展開でしたが、こういったキリの決意は大変良いと思います。「体温」の回でちょっとキリの意識の変化が描かれはじめてる部分から、今回ラストの決意の部分まで、ひとまとまりの流れとしてきれいだった感じです。

●ダブルアーツ/感想/第10話“旅立つ朝に”

 クラシックファンタジーを今の子ども読者に(再構築して)届けようがコンセプトだと(僕が)思っているダブルアーツな訳ですが、本当、コテコテのファンタジーな感じで「旅立ちの日」のお話。

 ドラクエならアリアハンから出る所、指輪物語ならホビット庄から出る所ですね。で、最後には主人公達が帰ってくる場所にもなっているという(だから「この先どこで何があっても またここへ戻って来たい… そう強く想った」のエルーのモノローグでエピソードが締められている)。この物語の最後はタームの町に帰ってくるというフィナーレしか既に思いつかない自分がいます。

 あとはスイが旅の仲間に加わる所もすごいクラシックファンタジーっぽかった。

 「スイがなかまにくわわった」

 って表示されてドラクエのあの音楽が聞こえてきそうだったよ。

 そして、

 「そこに“ファラン・デンゼル”という男がいるはずだから 訪ねてみて欲しいの」

 あたりからもドラクエっぽさを感じた。この微妙な手がかりを頼りに次のイベントが起こる町を探さなきゃいけない感じがRPG的。もともと世界の仕組みを解き明かす(トロイのこととか)旅に出るお話ですからね。小さい町からはじまって、断片的な情報を追いながら徐々に世界の仕組みを解き明かしていくというドラクエ6、7あたりチック(僕ドラクエでは6と7が特に好きなんですが)。

 世界の謎の方は解き甲斐がありますね。存在が薄くなって最後には消えてしまうトロイと、存在が濃くなる的にそれを止めて、かつ触れ合うことでかけ算的にパワーアップするフレアとの対応関係の謎。ゼズゥがわざわざ見逃すほどの重要な要因である、キリ以外のフレア能力者の存在(「唯一無二の物のハズだろ」と驚いていたので、既に唯一無二でその能力を持っている該当者をキリ以外にゼズゥは知ってるっぽい)。ここいらは謎解きのピースの一つとして長期的に関わってきそうです。

 短期的には、作中で「二股はダメよ!!」ってセルフツッコミ入ってるけど、エルーとスイを連れてのハーレム道中が面白そう。もう、スイ(=トラブルメーカー)、エルー(=それにツッコミ)で確定してるじゃないですか。まあエルーはボケもこなす器用な娘なんですが。

●ダブルアーツ/感想/第11話“ファラン・デンゼルと予言おばさん”

 シスター服の設定、人がいない所では素性を隠すようにローブを纏い、人がいる所では「私に近付かないで」という記号の役割を果たすシスター服を着てると、本当触らないで、関わらないで、というのがシスター達なんですね。まるでそうやって透明になって世界から消えていくのもしょうがないとでも言うように。

 そういう人との触れあいが薄くて、そのまま消えてしまうのを受け入れてるフシが冒頭のエルーにもあって、キリと出会って変わりつつあるというのが序盤のストーリーラインな訳ですが、ここでスイも、触らないで、関わらないでを記号として纏ってるエルーに積極的に関わってくるのね(髪が触れても感染すると言ってるのに、するなと言われるとしたくなると近付いてくる所とか)。スイの性格、トラブルメイカーとか、すぐ告白するとか、やけに人と関わるのに積極的な辺りは、そんな感じで触れないで、関わらないでな冒頭のエルーやシスター達とは逆のパラメータに入ってるキャラなのだと思っております。

 フレアの設定を出すまでもなく、これまでのお話から、触れ合おうよ、関わろうよ、ということを言ってる作品だと思うので、スイは作中的にいい娘ってことですね。

 そして、クラシックファンタジーでRPGなダブルアーツ。次の町に着いてまずやる情報収集の場と言ったら、TRPGなんかでは「酒場」がもう定番中の定番なんですが、やっぱり少年誌でお酒云々はどうかという配慮があったのか、今回は「占い師から情報を得る」+定食屋という、定番から二番手くらいできました。いや、予言師はファンタジーの華なので、これはこれで王道か(普通もっと神秘的なシチェーションですが(笑))。

 すごいどうでもいいんですが、ファランに注文を取りにいったウェイトレスのお姉さんが脇キャラであろう割にエラく可愛かったです。

●ダブルアーツ/感想/第12話“噂の男”

 ファランの前髪バッテンはカッコ悪すぎると思う訳ですが(笑)、この人も他者と関わらない人として登場してきてる感じですね。動物に触れたいんだけど触れられないという所まで、触れる−触れられないのこの作品のテーマと関連づけるかは深読みの度合いによりますが、とりあず今回で、ファランとキリがまだ距離を取ってるのが「お互いにまだ触れようとしていない」という意味合いでこの作品の主題と関わっているのはおそらく確か。

 ファランの方も今の所キリに関わる気はないし、キリの方も「オレはちょっと断られて安心したよ」ってこの段階では言ってるんですね。ゼズゥ戦で一人でやらなきゃ、俺一人で何とかしなきゃと自分を見失って一旦窮地に陥ったように、自分の本質は仲間パワーにあるのに何かにつけて一人で背負おうとしてしまうというキリの姿勢は今の所、ウィークポイントとして描かれていますね。フレアの設定を持ち出すまでもなく、他者と関わろう、触れ合おう、他者と協力しようというのを是として描いている作品なので、その文脈から行くと、とりあえず物語を経てファランがキリに関わってくる、キリの方からもファランに助力を求めるという部分が今回の話のクライマックスになってきそうです。そこまで一気に出すのかは謎ですが、ファランとキリのフレアが描かれる時はカタルシスが大きそうです。

 そしてエルーのサービスお風呂シーン。この恥じらいとか、控えめさとか、ToLOVEらない感じに涙が出そうです。なんちゅーキュンキュンな。オープンファイアーな萌えが多くなってる感じの昨今なので、逆に新鮮です。こ、これが飽和の中からの差別化ということか。そういうのは置いておいて、シャワーシーンから3ページは漫画的な表現でのエルー百面相で、たいへん漫画漫画した面白さが詰まってるページだと思いました。スイの乳はキリと読者と視点が同化して、作中のキリからも、読者からも見えないように描かれてるコマとか、面白いです。

 最後は、どこまでも王道ファンタジーを行ってやるという勢いで、宿屋強襲イベント発生という流れの模様。やっぱりTRPGのリプレイとか読んでた子どもの頃をこの作品読んでると思い出すなー。

●ダブルアーツ/感想/第13話“戦おう”

 祝、表紙&巻中カラー&大増45ページ。

 古味先生は忙しくて死んでると思いますが(笑)、新連載1クールでこの扱いは素晴らしい。ちゃんと一般層にも人気があるみたいです。良かった良かった。巻中カラー表紙のキリの頭の上で髪結ってるスイが可愛いなぁ。

 ◇

 本編も、相変わらず「触れる−触れられない」「関わる−関わらない」というのをキーにして、濃密なバトル編でした。この前のVSゼズゥ戦より数段良かった感じ。

 構図をおさらいすると、ファランは、現在何らかの理由で「触れられない、関わらない」側の人。

 で、キリはフレアの設定を持ち出すまでもなく、「触れる、関わる」側の人。

 で、自分のためにしか力を使わないってことで、他人のためじゃない、他人とは「触れない、関わらない」というスタンスのファランが、誰かを巻き込みたくないなら、誰かを守れるだけ強くなれという含みを持ったアドバイスをキリに贈るのね。

 これはこの時点では矛盾なんですよ。ファランは誰も守らない、自分のためだけに戦うっていうスタンスなのに、キリには誰かを守るなら強くならないとという含みで言っているという。

 これは、トロイ、シスター達と、ダブルアーツ作中には何らかの他人と触れられない、関われない、孤独病のような設定、人達が出てきますが、ファランも現在はそういった孤独病に冒されている側のキャラクターで、もとは誰かのために戦っていたというのが既にかなり示唆されてますよね。もともとはキリと同じ「触れる、関わる」側のキャラだったのに、何らかのイベントがあって、自分のためだけという「触れない、関わらない」の本人曰く「鉄の掟」を今は自分に課してる人なんじゃないかと。

 だから、この時点のファランからすると矛盾したようなアドバイスなんだけど、ようはたぶん、昔の自分、まだ他人のため、守るために戦ってた頃の自分と重ねてキリにアドバイスを贈ってるんだと思うのね。

 で、キリはそのアドバイスを汲んで守るために「戦う」ことを今回決意するわけですが、それは現在ファランが取っている「触れない、関わらない」戦闘スタイルではなく、フレアを持つキリ独特の、作中で肯定される所の「触れながら、関わりながら」戦う戦闘スタイルなんですね。

 「そのために、あんたの力が必要だ…!」(キリ)

 という訳で、第1話以来の、キリとエルーの手繋ぎバトル。ダブルアーツ。もう、物語冒頭で誰とも触れられず、関われず透明になって消えていくしかなくて、それを受け入れてしまっているフシすらあったエルーが「あんたが必要だ!」って言って貰えて、触れたまま、人と関わったまま何かを成し遂げるという、それがバトル編にもかかってるという、それだけでおなかいっぱいな内容だったんですが、今回は大増45ページということで、そこからさらにキリとは逆の、「触れない、関わらない」ファランの強さも描かれます。

 何で戻ってきたと問うファランに対して、巻き込んだから、放っておけるはずがないというおまえと「関わる」ぞという意志で返すキリに対して、敵に対して、標的はファランだけなんだなと、キリ達が「関わってない」ことを確認するファラン。

 で、そういった、自分のためだけ、「関わらない」力っていうのは「触れよう、関わろう」が正義なこの作品では否定されそうなものなのに、ファラン、見開きで瞬殺と異様に強いと。

 「関わらない」強さのファランVS「関わる」強さのキリっていう構図なんですが、これはお互いがカウンターな構図に現在はなってるけど、たぶんそれは表面的なもので、ファランももともとは「関わる」側の人で、守るために戦ってた人だと思うんですよね。ティセラさんがキリに関わればファランの運命も変わってくると予言してるように、このファランの物語もまた、トロイの打破、シスターの自己犠牲の否定なんかと同じく、この作品で一本芯を通して描かれてる、他者と関われなくなった人が、キリとの出会いを通して関われる自分を取り戻していくお話なんでしょう。

 ラストの締めの未来エルーのモノローグが、

 ファラン・デンゼル この日をきっかけに 彼は私達と深く関わっていくことになる

 完璧な締めですね。訪れるであろう、「関わり」の明示化、キリとファランのフレアは盛り上がりそうです。

●おまけスイ×キリ漫画

 「キリあたし…フラれちった」の泣き顔スイが可愛い。美顔だけどアクティブからはじまって、奔放だけど泣き顔が可愛いと、スイはとことんギャップキャラだったなー。

●次巻最終巻は12月発売

 やはり事実上のクライマックスエピソードになったシスター・ハイネのエピソードにフォーカスした次巻予告。2巻の表紙はスイをフィーチャーでしたが、3巻は順当ならファランの所を、オッサン分を排除(笑)して、ハイネフィーチャーになるのではないかと予想ー。

ダブルアーツ 2 (2) (ジャンプコミックス)

ダブルアーツ 1 (1) (ジャンプコミックス)

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