DVD視聴したアニメ『宇宙をかける少女(公式サイト)』の、全26話分のまとめ感想です。
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 登場人物のほとんどが引きこもりという凄いアニメでありました。

 だいたいの登場人物が、自分の居場所がない、あるいは今いる自分の居場所は違う……という問題を抱えてるんですが、この問題の解決にあたっての、作中の解答は主に二つ。

1.引きこもりになる。
2.自分の意志で本当の居場所、別の居場所に移動する。

 1を否定して2で万歳というフォーマットで良さそうな話なんですが、そう簡単なお話でもなかったです。無駄に考えさせられる要素が詰まっています。

 以下、それを踏まえた上で、主要登場人物ごとにコメントする感じで送る全体の感想。



●獅子堂秋葉

 三ヒロインの一人にして主人公。

 この娘が一番とらえどころが無かったのが、混乱の元にして勝因だった気もする。

 なんとなく生きてると結婚させられてしまう。自分には本当にやりたいことがない。と、まさに「自分の居場所がない、あるいは今いる自分の居場所は違う」という、本作の主人公としてど真ん中な所から物語が始まるんですが、特にその問題を解決しようと努力するでもなく、最終話でも特に解決したという感じでもなかった。

 一応「宇宙をかける少女」っていう、秋葉にしかできない役割、本当の居場所とでも言うような役回りがあって最後はそこに収まるんですが、自分の意志でそれを選び抜いたというよりも、私しかやれないんなら、やってみるか、くらいのノリでやってみて、勝利して終劇。

 終盤のストーリーラインの動機は、自分の本当の居場所とかどうでもよく、宇宙規模の戦争もどうでもよく、イモちゃん(お付きのメイドロボット)に会いたいというものでした。

 無駄に明るいわりに始終そんな感じなのでムカつかれてしかりみたいな所があるんですが、その点には作中でナミやお姉さんから徹底的に糾弾を受けていたので、意図されたもの。色んな意味で主人公らしくない主人公だったと感じました。

 ベタに最後はナミの救済役になって、ああ、やっぱり主人公だな! って感じの展開を予想して見ていたんですが、そんなこともなく、ナミとの最後の対峙の場面でまで、ナミをドン無視してイモちゃんイモちゃんを連呼。これは、ナミもグレるな……。



●神凪いつき

 三ヒロインの一人。

 たぶん「引きこもり」勢のカウンターだったキャラ。

 生きることに不器用で、人間関係の能力も最弱。凄い引きこもりになりやすそうな要素満載なんだけど、なんやかやと引きこもることなく最後まで乗り切ったキャラ。

 人間関係能力が最弱だったにも関わらず、ちゃんと秋葉とほのかという友だちも出来た、という分かりやすい成長キャラでした。終盤で秋葉にビンタしてるシーンなんかも、「人間関係を閉じて引きこもれば楽」という作中のネルヴァル側、箱人間側の主張のカウンターだったシーン。ビンタしたりされたり痛いこともあるけど、人間関係の中にいることには価値がある、と言うような。

 家族という居場所を奪われた所から行動の動機が始まり、やがて怪奇課や友だちの存在という自分の居場所を開拓していくという、一番ストレートなストーリーラインのキャラでした。



●河合ほのか

 三ヒロインの一人。

 秋葉の近景の物語と、神楽達の遠景の物語の架け橋役。

 既に「神楽達と一緒の機動喫茶エニグマ」という確かな居場所を一度得て、それを失っていた人。行動理念が一切ぶれることなく、その失くした居場所を取り戻すために奔走していた、こちらも分かりやすいヒロイン。

 最終的に洗脳が解けた神楽と再会して抱き合えたことから、一番ストーリーライン的に報われたキャラな気がします。



●レオパルド

 主役ロボ相当の、引きこもりのコロニー。

 ゴールデンボールに貯めたエネルギーを、少女に自己投影してキャノン砲として発射するという、メタファーだけ見てると割と最低なロボ。

 彼を通して、引きこもりから脱引きこもりまでを描く……みたいなベタなストーリーを最初は想像してたんですが、全然そんな展開にはならなかった。最後は、引きこもりの自己実現として、世界を支配するとラスボス化。福山潤さんボイスはカッコいいけど、ろくでもないというメインキャラだった。



●ネルヴァル

 敵役のコロニー。

 世界全部が引きこもりになれば平和じゃない! という思想のもと、箱人間という箱をかぶったり箱に入ったりする人を量産する政策を進めているロボ。

 打倒される対象なのかとも思われた所、最終章でわりと真剣に人間を理解しはじめて、最終戦では人間勢と共闘。政策はどうかと思うけど、人間的にはレオパルドより大人な感じだったと思う。



●獅子堂風音

 獅子堂シスターズ長女。

 「全てを見通す目」という、役割に応じた適材適所を見抜いて、それを割り振る能力の持ち主。

 居場所探しテーマで言えば、一番最適の居場所を見抜いてそこに移動させることができる能力ってことなんだけど、ポジティブ面で押し切った感もありながら、これはガンダムS-DESTINYのデスティニープラン的な趣もある能力なので、僕的には悪役っぽくも見えた。実際、引きこもっていたナミの居場所を奪ったのはこの人の一言とも捉えられる。こういう人にはナミ側の人間の気持ちは分からない、という面も担っていたキャラだと思う。



●獅子堂高嶺

 獅子堂シスターズ次女。

 物語の大部分をネルヴァルに洗脳された状態で敵陣営で過ごしていた人。

 何かしら引きこもりになりがちな素性があったからこそネルヴァルにつけ込まれたのかな……と思っていたんだけど、特にその辺りの踏み込んだ描写はありませんでした。

 作品の中心的な物語には関わってこずとも、戦闘シーンの花でした。彼女が和風の衣装で出て来て剣を振り回すと戦闘シーンが華やぐという、ビジュアル的に好きだったキャラクター。



●獅子堂桜

 獅子堂シスターズ五女。

 問答無用の天才。並の天才ではなく、ヤバイ、これ本物、的なマジな感じの天才。

 何か閃いてグリグリ意味不明の絵を描き始めたら、それが複雑な理論を解くキーになっていたとか、そういうガチな人。

 あらゆる意味で、作中のストーリーとも他のキャラクター達とも別次元にいた人。これくらいの天才になると別に自分の居場所がどうこうでは悩まないという意味なんかもあったのかもだ。

 付けてるストールの正体が異星人という、もう何でもアリなキャラだった。ネルヴァルとの戦争がどうこうよりも、異星人さんが普通にいる事態は事件な気もちょっとしたんだけど、桜だからま、いっかで済まされるというキャラ。



●獅子堂妹子

 居場所は秋葉の側、という最初から自身の解答を得ていた獅子堂家付きのメイドロボ。

 終盤の、秋葉、引きこもり思想に流されて箱の中に順応してしまう→やっぱりイモちゃんに会いたいから出る! の流れは分かりやすくて良かった。

 その後すぐに秋葉と妹子は再会できた訳ではなく、イモちゃん一回死んだりと、タメにタメて数話ごしに再会というのもドラマだった感じ。

 しかし、「会いたい人がいるから引きこもらないで外に出る」はこのテーマのベタな落としどころとは思いつつ、い、いや、イモちゃんは人じゃなくてロボじゃん! とかツッコミをいれたくなりつつ見てる自分もいた。これが恋愛対象の男の子キャラに会いに行くためとかだったらベタベタに盛り上がった展開なんだけど、そこを敢えて「お付きのメイドロボに会う」が主人公の最終目的になる辺りが、色々とこの作品のベタを外してみせてくる所。



●ミンタオとブーゲンビリア

 ICPという居場所から、怪奇課という居場所に移動してみたら、結構居心地良かった。こっちの方が私たちの居場所じゃん! という一番無難な感じで「2」の解答に辿り着いた二人組。

 普通に新しい居場所の怪奇課でも職務を全うしていたので、好感が持てる感じだった。転職の際には参考にしたい事例。



●馬場つつじ

 スール学園の生徒会というそれまでの居場所に違和感を感じて宇宙に飛び出し、なんやかやと最後には「自分の帝国を築く!」とか言い出す、居場所探しがスケール大きくなったアグレッシブな人。居場所が変われば姿も変わるのか、作中の大半を虎ビキニ姿で過ごした人。

 しかし、たぶんつつじさんが作中解の体現者だった気がする。秋葉のように流されて自分の役割に収まった訳でもなく、常に自分の居場所は自分で切り開くという姿勢だった。で、最終戦時も、一人+ベンケイだけの独立勢力として奮迅。

 風音お姉さんの「適材適所に割り振る」を突破してみせたのもこの人だけ。一旦は風音お姉さんに上をいかれて囮に使われちゃうんだけど、最終戦のベンケイのノコギリでレオパルドに一太刀入れるシーンで、風音さんの予想を超えて見せた(このシーンで風音さんが驚いている。そこまでの役割は見通してなかったのに、的に。)。

 なんか今の自分の居場所では生の実感が感じられない……という所からはじまって、劇中で太陽に飛び込みながら生の実感を感じるシーンがあります。

 う、うん。確かに自分で居場所を切り開いた末に生の実感を得るというのは作中解な気がするけれど、何も虎ビキニで灼熱の太陽を抜けるまでやんなくても……と思って見てたけど、とりあえずアグレッシブで清々しかった。

 ちなみにネルヴァルの能力や後期OPで、「引きこもっての他者との断絶」の象徴として「氷」が使われていたので、「灼熱の太陽」はあらゆる意味でそういう思想のカウンター。縦横無尽に暴れ回って、面白いキャラだった。



●獅子堂ナミ

 しかし、MVPはこの娘にあげたい。この娘がいてこそのこの作品だった。

 ブログ炎上をきっかけに引きこもった真性の引きこもり。姉たちはみんな優秀で、秋葉ばかりを見ている。どこにも居場所はない……という人。

 その辺りをネルヴァル陣営につけ込まれて、だったらこっちに来なさい。一緒に引きこもりの世界を作りましょうと、一旦ネルヴァル陣営に行ってみたものの、そこでも投げ出され、最終的にどこにも居場所がなかった。

 最終戦では、もう何もかも壊してやる。この世界全部ブッ壊してやると犠牲者意識を破壊衝動に結びつけるだけだった。ラスト三話でずっと描かれていた顔の流血の跡が、涙のメタファーに見えるのが上手い。

 風音お姉さんにいつまで引きこもってんの的に叱責されて引きこもり状態さえ奪われ、自分の居場所かもしれないと思ったネルヴァル陣営もダメだった(つまり「1」「2」もダメだった)。どんだけ「自分を見て」というサインを発し続けても、秋葉は最後の戦いでまでナミを見てくれなかった。最終戦は、神楽に命だけは助けるから、後は自分で何とかしなさい、自立しなさいとぶった斬られて終わり。あらゆる意味で、救われなかったキャラだった。ベタなトラウマヒロインの救済劇を期待して観ていると、イイ意味で裏切られたキャラだった。

 ただ、救いとは言えないけれど、ラストエンディングでつつじさんの元に回収されていたのが、「オオッ」という感じだった。そこで自分の意志で縦横無尽に振る舞い抜いたつつじさんの所にナミ、流れ着くのか、というような。

 救われなかったと言うより、26話ではナミの物語は終わらなかった感があるエンディング。この後、つつじさんの影響を受けて、最後に神楽さんに指摘された「常に依存している」を乗り越えた、その先にある何かをナミが手にすることもあるのかもしれない。完全独立勢力のつつじさんと、最後まで誰にも見て貰えなかった、どこにも居場所がなかったナミは何気に親和性高いし。この後、アフターストーリーがあるなら虎ビキニ的な方向でがんばっていって欲しい。

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