基本的にネタバレで書いていますので、アニメ版のみで楽しんでいる方などはご注意下さい。
解釈にまつわる感想として、時間分岐でアルファパートとベータパートに分裂した現象に関しての、古泉の「ハルヒが能力をコントロールできるようになりつつあり、事前に無意識的にSOS団の危機を察知して分岐させた」的な説明はおそらくフェイク。
それもあるのかもしれないけれど、裏解答的なものもちゃんとあるかと思います。
「分裂」にて、そもそもハルヒが不安定になっていた原因が、佐々木さんの出現にある様が描かれていたのを思い出すと、その辺りが繋がります。つまりベータパート(佐々木さんから電話がかかってくるルート)が基軸だったっぽいのに、渡橋泰水から電話がかかってくるアルファパートが割り込んで分岐した形。そして、渡橋泰水がもう一人のハルヒとでもいうべき存在なのだから、要するに「ハルヒは佐々木さんとキョンが親密になるベータルートが気に入らないので割り込んだ(それも時間軸を分岐させるレベルで)」という、「根底に乙女心があった」説を僕は推したいと思います。佐々木さんの言い出せなかった恋愛相談といい、何かと色んな所で恋愛ネタがキーになってるのも、この説を推してくれる感じ。
結局、神的力をそのままハルヒが持っている世界と佐々木さんに委譲した世界、ハルヒか、佐々木さんか、非日常か日常か、全てが選択に委ねられる涼宮ハルヒシリーズ定番の構造になっていって、やはり結局キョンはハルヒを選ぶんですが、『消失』の頃からのテイストとして、選ばれなかった側にも矜持が描かれているのが良かったと思います。
非日常的なハルヒに対して、淡々と日常で積み重ねることを本気で選んでいる佐々木さんの解答が、これだけの事件があっても、「勉強する」というものだったのがカッコいい。クライマックスで古泉が言っていた、地球人なめるな、地球人にも未来を憂いで本気の人間もいる、という語りは、劇中では明らかに一人は佐々木さんなんだよな。非日常の愉快なSOS団とは違う選択として、佐々木さんは学習塾に通い続けるんだけど、佐々木さんには佐々木さんの信念がある。とにかく佐々木さんが大好きになった前後編(分裂から含めると三冊ですか)でした。佐々木さんが衒学を語り始めるパートだけで何回もテンション上がりましたよ。決然と神になることを拒否して普通に勉強を続けるという佐々木さんカッコいい。
全体的には、三年前の七夕にハルヒが何かやった時間軸上の一大イベントの他に、未来にも、大人朝比奈さんの時間軸と藤原の時間軸が交わるポイントで、何やら悲劇的なことが起こるらしい(朝比奈さんの死別もにおわされている)。その悲劇を回避するために何ができるのか、そもそも、確定された悲劇を改変しても良いという正義はどこに求められるのか、といういよいよ大きいお話に発展していきそうな仕込みの回でもありました。既に歴史に残るレベルのライトノベルになってると思うので、谷川先生には是非とも書ききって欲しいと思うのでした。
没頭して読めた久々の読書体験でした。もう何年も前になりますが、アニメ化時のハルヒフィーバーにのってこの作品を読み始めて良かったのでした。
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