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 今夏の最終話公開(予定)に合わせてブログにて再連載中のオリジナル小説『夢守教会(ゆめもりきょうかい)』の続きです(最初から読む場合はこちらの目次記事から)。
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 以下が今回掲載分の小説本編となります。


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 第一話「少女のケニング」6/「デート」


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「島谷、今日デートしないか?」

 十六歳の男の子にとって、同年代の女子にかけられるのにこれほど嬉しい言葉はないだろうという言葉を見繕って、私は島谷に声をかけた。
 ある月曜日の午前十時のことである。
 場所は昨日と同じく葉明学園寄宿舎の島谷優希(しまたにゆうき)の自室前。案の定、島谷は瞳をしぱしぱと瞬かせて驚いたような表情を見せた。

「えーと、僕ら、デートとか、そういうことする間柄だったっけ?」

 この少年は、いつもこう、感情を直接は表に出さず、迂言的な物の言い方をする。自己演出が上手いというか何というか。本当は嬉しいくせに。もうちょっとストレートに嬉しさを表現してくれてもこっちは別に構わけなのだけど。

「細かいことはいいじゃないか。リフレッシュだよリフレッシュ。いい加減サークルの名前考えるのも煮詰まってきただろ?」

 そう、結局の所、昨日までに古今東西のあらゆるケニングに当たってはみたんだけど、コレだというのには出会えなくて、果てには自分たちで勝手にケニングを作るという創作ケニングまで始めてしまったような次第だったんだけど、それも不発。現在私達の活動は激しく低迷期にあるんだ。

「ああ、それなんだけどね」

 ブラウンのボルドボーダーシャツをおもむろに纏った島谷が、玄関脇の鏡を見ながら髪にブラシをかけつつつぶやく。男の子の髪なんかいじっても大して変わらないのになんて思う。でもコイツ、ちょっと茶髪が入ってるけど自前なんだろうか、それとも染めてるんだろうか。今度ちょっと聞いてみよう。

「昨日あの後寝ながら考えたんだけど、理子が作ったケニングの中で、僕的に結構ヒットだったのあったよ。改めて考えるとコレいいんじゃん? みたいな」

 意外なことを言う。

「どれだよ?」
「それなんだけどね、さらによく考えてみるとやっぱり少々少女趣味というか、若干言うのがはばかられるというか」

 失礼なことを言う。

「島谷は、いつもそうだよな」
「ん?」
「マジな話なのかと思って聞いてると島谷的にそうでもなかったり。付き合う方としては慣れが必要なタイプだ。真面目なヤツなのにギャグも言ったりするしな」

 本当の島谷はどこ? みたいな。

「基本的に真面目な奴だと思ってもらっていいよ」
「どうだか」

 明確な返答をまだ聞いていないのだけれど、どうやら島谷は私とデートに行く件を承諾したらしい。既に身支度を整え、玄関で靴ひもを一旦ほどき、足を入れてから結び直している。柔らかなブルーレザーにオレンジウォッシュが好相性なわりかしステキなスニーカーだ。

「じゃあ行こうか」

 当たり前のように部屋の外に出、ドアを閉め、鍵をかける。

「理子」
「ん?」
「優希って下の名前で呼んでくれてもいいよ」

 またまた意外なことを言う。

「嫌、だ」
「え」

 少しばかりショックの表情を見せる。

「おかしいだろ、私達、会ってまだ二週間なのに、そういう間柄かよ」
「ぐぐ、コレからデートには行くのに」

 苦笑いを見せる島谷。

「それとコレとは別の話だろ。大体、島谷の方がおかしいんじゃないか? 会ったばっかの私に対して理子理子って呼び捨てにして。普段は控えめなヤツなのに、らしくないななんて思ってたぞ、私は」
「ああ、それはね」
「何?」

 廊下を出口に向かって二人歩き始める。

「名残だ」
「名残?」
「そう、昔はね、結構積極的な性格をしてたんだ。その名残」
「積極的って……どんな感じ?」
「うーん、世の中に上等の旗を掲げて、バイク乗り回してるとか、そんなイメージかな」

 また訳の分からないことを言う。どうせ、この話も大して本気じゃなく言っているんだ。

「まあいいや、それより行くなら行こうよ?」
「うん」

 私達は寄宿舎を後にする。
 月曜日のことである。普段なら学校はサボりになる所であったが、幸い今は春休みである。まあ、サボりになるとかならないとか、私にも島谷にも、結構どうでもイイことではあるんだけど。

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 本日の掲載はここまでとなります(^_^;

→前回:第一話「少女のケニング」5/「始まりの三択」
→次回:『夢守教会(ゆめもりきょうかい)』第一話「少女のケニング」7/「携帯しているもの」へ
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