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 先日最終回が放送された、NHK朝の連続テレビ小説『おひさま』のまとめ感想です。
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 そんなに積極的な朝ドラウォッチャーではない僕なのですが、僕の中ではこれまでの人生で視聴したベストオブNHK連続テレビ小説でした。視聴率も『ゲゲゲの女房』を越えたとのニュースも聞き、東日本大震災があった年に「喪失」を主題にした朝ドラが制作され放映され、かなり多くの人に共有されたという事実から、何かしら「公共性」に思いを馳せたほどです。こっちの方向の公共性は何かしら可能性がある気がします。

 お母さんの死から始まる「喪失」が主題のドラマなのですが、中盤に大きな「戦争」という一大喪失イベントがあって、その前後に日常パートが配置されている。後半のパート、戦後にも日常はあるけれど、それは経験してしまった大きい喪失と向き合いながら歩んでいかなければならない、という構成を取っていた作品でした。ことさら僕が書くまでもなく、この劇中の「喪失」を、現実の東日本大震災と重ねながら見ていた視聴者も多いと思う。

 僕のこの作品の評価が異様に高いのは、何と言っても川原さんをしっかりと描いていた、という点が大きいです。悲劇的な喪失があったとして、そのことは忘れて、前を向いて、未来に希望を馳せて生きていこうという方向性が一つは考えられます。そして、それは別に悪くないし、基本的には何度失ってもそっちの方向でがんばっていくしかない。

 なのだけど、ちょうど戦争が終わり、復興の兆しが見えてきた、ラジオからは喪失から立ち直り女性運動家として活躍しはじめた育子の声が流れてきて(育子も戦争で愛する人を亡くす喪失を抱えていた)、陽子の回りにも幸せが帰ってきた……という所で、満州に行って悲劇的にタエさんを亡くすという喪失を抱えて帰ってきた川原さんが登場してくるのね。

 で、強固な意志で言い放つ。俺は戦後の幸せなんて絶対認めない。みんなあの戦争の悲劇、喪失を忘れて生きていくのか、と。俺は一人でも失われたもの、喪失に寄り添って生きていってやる、と。

 結局、幸せを歩み始めた陽子達と、川原さんは相容れぬまま違う道を行く……という帰結も良かった。最終回のみんな集合の百白花の風景は、いわゆる「つらいことがあっても幸せはまた訪れる」というシーンですが、そこにはやはり川原さんはいない。きっと川原さんは今でも喪失に寄り添い続けている。幸せじゃなくても、失われたものを見ながら生きている。背景にそう思わせるだけのドラマが書き込まれていたので、だからこそやはり百白花の新しい風景は尊い、と思える。

 全体的に育子が喪失を経験しても前を向いて未来に進む人で、川原さんは喪失を尊重して過去に寄り添い続ける人……という視点で見ていたのだけど、その流れからいくと、作中の解答の一つは茂樹兄さんのドラマだったように思います。

 この人も喪失経験者で、もう、春樹兄さんを失ったこと、特に最後に春樹兄さんと話した時に、死ぬのが怖いと言っていた春樹兄さんに、戦中イデオロギーのお題目でしか返せなかった自分を一生後悔しながら生きていく人で、本当戦後パートしばらくの茂樹兄さんはこのままダメになってしまうんじゃないかという真にせまる描写でした。

 なのだけど、うんと時間をかけて、この人も前に進み始めるのね。医大に合格したのも何年も後。育子と結婚したのも何年もかかった後。もの凄く時間はかかるし、もしかしたら一生立ち直れないかもしれない。それでも、本当に少しずつでも前に進みたい。こういうのが本当の復興だと思いました。「何年かけてでも医者になる」という解答が、失われた医者だった春樹兄さんの遺志を継いでいる点はもちろん言うまでもありません。

 川原さんは、ずっと喪失してしまった春樹兄さんの写真を見ていてくれた。育子は比較的早く前に進み始めた。そう考えると、何年もかけて春樹兄さんの遺志を継いで医者となり、最後は育子と結婚するという茂樹兄さんは、川原さんと育子を繋ぐ架け橋的な登場人物だったと思います。喪失には寄り添いつつ、だけど、失ったものを尊重しながら最後には前に進み始める。本当、非常に奇跡的に時代性にマッチした主題を丁寧に描いてくれた作品でした。

 他、いわゆる名場面も続出な作品でした。

 中盤の転換点、喪失パートである戦争が終わった回のラストシーン。陽子が街に灯りが灯ってることに気付く……の所とかは涙腺崩壊でしたよ。あとは和成さんが戦争から帰ってきたシーンも良かった。何しろ「喪失」が主題の一つなので、和成さんが帰ってこない展開で喪失を描く可能性も十分考えられた訳で、しばらく普通にハラハラと見てました。愛する人が生きて帰ってきてくれた。それだけでイイ。というあらゆる装飾物をはぎ取った上で本当に大事なことは、常日頃忘れずに生きていきたい……。

 そんな感じで良いドラマでした。何年か経って少し落ち着いた時に、そういえば余震が続き物資も不足しているという状況で、TV放映にようやくドラマとか娯楽系が帰ってきはじめた頃に放送が始まった(今年の四月放映開始)連ドラがこれだったなぁ……としみじみしながら見返したい作品なのでした。

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