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 BS11で一週遅れ視聴のアニメ『輪るピングドラム(公式サイト)』、第15話「世界を救う者」 までの感想です。
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 「生存戦略」のキーワード通り、恋愛、食などで(それぞれペンギン1号と2号が担当している)、人間が生きていくのは所詮「弱肉強食」の生存競争の世界なんだ……というのが何やかやと描かれ続けます。

 タブキさんを巡る苹果やゆりさんの恋愛ゲームも、冠葉をめぐる様々な女子や真砂子さんの恋愛ゲームも、全て弱肉強食的、生々しく言えば子孫を残すために異性を勝ち取る、勝ち取れなかった者は滅びる、というようなニュアンスで話が進行していきます。

 「食」の方もカレーを中心に、様々なモチーフで描かれ続けているのも同様。直接的な食べる描写も比喩ですし、キャラクター関係も補食する者と補食される者に分けられながら進んでいきます。で、そういう補食する者、支配層をテロで世界ごと転覆させようとしたのが高倉兄弟妹のお父さん達で、でも結果として弱者側、補食されかける側に回ってしまったのが冠葉、晶馬、陽毬。弱者なんだから退場するしかないでしょ、と死んでしまった陽毬を、納得いかないと生存させる所からそもそも物語が始まるのでした。

 あと、ちなみに、性、食にそれぞれ対応してると思われるペンギン達の話も書いておけば、たぶん編み物したりするペンギン3号は、「文化」における生存競争の比喩かと思われます。だから、陽毬は「アイドルになる」という文化的生存競争の中で、破れた側という役回り。

 で、ここからなんだけど、そういう性でも食でも文化でも、誰が強者、補食する側に回って、誰が弱者、補食される側に回るかは、「運命で決まっている」という話がずっと出てくるのね。もしそうなのだとしたら、運命で弱者側、補食される側、理不尽に退場しなきゃいけないと決まっている側は、とても虚しい。

 例えば今年放映なので震災を持ち出せば、大きい被害を受けた人、命を落とした人、何の被害も受けなかった人、様々な人がいた訳だけど、そこに何ら人間的な要因を考慮せず、「全部誰がそれで死ぬかとか運命で決まっていたんだ」と言われて納得できるかというと、それはひどく人間性を剥奪されてしまった話に聞こえる。そんな理不尽に死ななきゃいけないなんて、誰が決めたんだと。運命の果てで決まってるとか、何なんだ、と。

 そんなことを感じ始めた所で、ついに作中キーパーソンであった桃果が、日記(これがピングドラム?)を使って代償を支払う代わりに、「運命を乗り換える」能力を持っていたことが明らかになる。全てが弱肉強食で、全部運命で決まっている? そんなことはない。人間の力で、乗り換えられるんだ、ということが明らかになる。それはずっと描かれてきたラディカルな弱肉強食と比べてとても優しくて、補食される側で死んでしまうのが決まっていたかに見える幼ゆりを、体が燃える代償を支払って運命を換えて助ける桃果の行為が、とても崇高に見える。全てが弱肉強食ではなく、時に代償を払って弱者を助けるのが、人間の文化ではなかったのか、と。

 そこで当然行き着くのは、桃果がいない現在の世界と、桃果が死んでしまった日に生まれた、冠葉、晶馬、苹果という話である。当然、現時点では、桃果が自分の存在を代償にした上で、現在の世界(冠葉、晶馬、苹果がいる)があるのではないか? という想像が膨らんでしまう。

 つまり、表面的に、特に前半しょせん弱肉強食だよねということを描いてきた訳なのだけど、第二クールに突入したのをきっかけに、それは裏を返せば、「自分が今生きているのは誰かの犠牲の上に成り立っているのかもしれない」という部分に裏返って表現され始めているように思います。恋愛なら選ばれなかった他の人、食なら今食べられていない誰か、文化ならアイドルになれなかった誰か、そんな犠牲者達の上での今の自分という存在。それどころか、物語上は「今、ここ」の世界すら、桃果のような誰かの代償の上で成立しているのかもよ? というのを投げかけてくる。それを大事にしなくていいのか? と。

 ゼロ年代に「ループ世界からの一つだけの世界の選択」ネタや、「日常の中に輝きを見つけられる」ネタなんかで、この「今、ここの一回性の回復」というのは描かれてきたんだけど、この作品はすごい10年代の、最先端の作品としてこの「一回性」表現に挑んでいるな、というのを強く感じます。言うなれば、自分への愛と他人への愛と世界への愛の回復。映像的にも、地球最先端の作品かと思います。とても、触れられただけで幸せな作品です。

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