けいおん!  college (まんがタイムKRコミックス)
けいおん! college (まんがタイムKRコミックス)

 本日発売のコミックス『けいおん!college』の感想です。
 ネタバレありなので注意です。
 ◇◇◇

 雑誌の方で追っておりましたが、結構描き下ろしページなどあり満足。カバー外したらムギのたくあんネタがあって、妙な所で続編を実感しました。

 テーマ的には無印『けいおん!』のリフレインと解釈。「今もその時に負けないくらいわくわくしてるの」のムギから始まる→(大学での)新しい友人たちと出会う→(今度は大学の)学園祭で「ずっとずっと放課後」の主張を掲げる……までの流れが、無印高校生編の流れと重なります。色々、ずっとずっと放課後思想のカウンター的に上昇志向を持った恩那組の面々が出てきたりするんですが、彼女らと交流しながらも、基本的なメッセージは変わらなかったと解釈。無印のボーナスディスク的な位置づけに僕の中では落ち着いております。

 以下は雑誌連載中に書いていた感想の再掲載。予想的なことも書いていますが、梓編との本格的なクロスは実現しませんでしたね。梓編のラストも読んでますので、そっちの話はそっちの単行本が出た時にでも。


けいおん!大学生編所感

 「大学生編」にも一本の軸があって、それは上昇志向の是非、みたいなテーマ。

 唯達放課後ティータイムのメンバーが、恩那組の人達という新しい登場人物達と新しい人間関係を築きはじめる様がこれまで描かれている「けいおん!」大学生編ですが、いつも通りのまったり日常ストーリーの中に、「でも恩那組の人達は本気で音楽で上を目指している」というのがキーポイントとして見え隠れします。彼女達は音楽で上昇志向を持って上に行きたい人。だけど唯達が「高校生編」で出した結論は、「ずっとずっと放課後」というちょっと上昇志向とは違うものだった(だから本当の武道館ではなくて、私たちのこの講堂が武道館なんだと言い切る)という対照があります。この、仲良くなりはじめてはいるんだけど、本質的に逆な人達が、どういう人間関係を築けるのか、というのが「大学生編」の面白い所。

 唯が熱を出してパワーアップするエピソードも地味にこの流れの話で。急に、唯が上昇志向の方向でがんばるなら良い方に、ギターも上手くなって音楽観も大人になっちゃうんだけど、回りの放課後ティータイムのメンバーは、それをちょっと不気味だと感じてしまうという。上昇志向で上目指そうぜが是なら拍手喝采で歓迎する現象なのに、やはり、現在の放課後ティータイムの本質・方向性はそことはちょっと違う。結局熱が出た暴走モードだったというオチなんだけど、なんで熱が出たかというと、「唯が音楽について真剣に考え始めた」という展開なのね。これは、ともすれば、今までの放課後ティータイムから、上昇志向で上を目指す恩那組の価値観にも引っ張られ始めているとも捉えられる気がします。だから、板挟みになって、唯は熱を出す。

 最新号の「澪が新しい服を合わせる話(ダイエット話含む)」も実は同じで、これまでの自分ではダメで、もっと上の自分に(今回は見かけとかオシャレとかそういう要素だけど)上昇志向で変わっていかないと、というのに澪がちょっと引っ張られる話です。で、こっちのきっかけも恩那組のメンバー。いずれも、新しい人間関係をきっかけに、もう一度上を目指すのか、それとも別解である「いつまでも放課後」を貫くのか、そういうシーソーゲームが背後に描かれています。

 面白いのは紬で、紬の「私のお金が目当てだったのね」エピソードも、同じような話なんだよね。

 ただ構造が上二つとは逆で、こっちは「紬は上昇志向に引っ張られなかった」というエピソード。紬は、むしろ上昇志向の果てにある富とか名誉とかは既にあったんだけど(お金持ちのお嬢様だから)、それよりも放課後ティータイムの時間を尊いと感じてこっちにきた人なので、この人だけ上昇志向の誘惑にはあんまりブレないのね。

 その分、唯達は上昇志向を遂げる道具として、お金目当てで紬に近づいたんじゃないかっていうこのエピソードは、コメディ調にはなってるけど、やっぱりifとしての作中悪みたいなのを描いていた感じ。唯達が本当に仲間を利用してお金だけ求めるようなただの上昇志向の奴隷だったら、それは放課後ティータイムの魅力とは全然違う訳で。

 以上のように、上昇志向を目指している恩那組と、永遠の放課後を歌う放課後ティータイムは、実は相成れない。だからこそ、高校生編と同じく、表面的には楽しい日常の裏に、「やがて来る終わり」が意識されるような作品になっている(この話はアニメ版の感想で散々書きましたね)。それが切ないんだけど、でもだからこそ、やがて終わりは来るからこそ、今、ここは輝いた時間なんだ、というこれまた「高校生編」から続いているけいおん!イズムが炸裂してる作品でもあります。

 最後のキーパーソンは、今作でも梓なんだと思っています。高校生編の結論は、「卒業しても私達は一緒だよ(ずっとずっと放課後)」だった。なのにもし、唯達が大学で出会った新しい恩那組との人間関係に引っ張られて、より先に、より前にと上昇志向で走るほうに行き始めたら、それは梓を置いていくことになる。別連載進行になっていますが、当然どこかでクロスオーバーさせると思われ、その時の展開には大注目しています。

 ようは、単純化すれば、唯達はもう一度梓と放課後ティータイムをやるのか、梓は置いて恩那組が目指すような上昇志向の先にある何かを追いかけるのか、という話だと思うので。

 前者なら、アニメ版で散々描かれていたように、近所の演芸大会、夏フェス、ライブハウス、友人の結婚披露宴と、いくらでも音楽をやれる場所はある。ずっとずっと放課後はできる。もう一度それを選ぶのか、それとも、上昇志向で本当の武道館を目指す価値みたいなのに引っ張られて選択を変えるのか、そういうシーソーゲームが見所の作品だと思うのです。

 もう一度梓を選び、上昇志向とは違う、日常の中に輝きは見つけ出せるということを歌い続ける、疲弊した日常を心躍る放課後に変えることができるということを歌い続けることを選ぶなら、それは恩那組とはどこかでお別れになるかもしれないことを意味している。

 いずれにしても、先にいくつかの切なさが予感され、だけどだからこそ「今、ここ」の時間は貴い、という、良い作品だと思うのでした。


けいおん!大学生編感想/まんがタイムきらら6月号掲載分

 最後は、上昇志向と競争にこだわる晶と、それらを無効化する唯との対比で話が進む模様(「大学生編」の上昇志向テーマについての話はこちらの記事を参照)。

 晶は一人プロ志向であり、学園祭での競争にこだわり、一方で唯は「ずっとずっと放課後(上昇志向と競争で武道館クラスを目指すことの逆)」の象徴である「制服」を身に着けて大学の学園祭でも舞台に上がる流れ。部長の制服ネタが伏線だったのには感激。

 前回が、唯が帰省するも唯の部屋はなくなっており(荷物置き場になってる)、なんだか憂も自立しはじめた(というか姉離れ)感じ、和も留学を決意してしまうなど、「バラバラになるエンド」に揺り戻しがきた感じだったのですが、今回でさらに逆にやっぱりバラバラにはならない、共同体と再契約していく、「ずっとずっとどこでも放課後エンド」へと揺り戻しがきた感じです。

 一作目と続編ではテーマを逆にするのもよくある手法なのでまだ分からないですが、個人的には「けいおん!」は大学生編になってもテーマは変えないのではないかと思っています。つまり、どこへいても、いつでも「輝き」は延々続行できる、その「輝き」のためにある種不自由でも共同体(代表は放課後ティータイム)と再契約する、世界を外に広げていくので(部室〜学校の外〜最近では映画版の海外……の流れ)、一見物理的にバラバラになっても、バラバラにはなっていない、という解答。

 次回最終回とのことで、どう決着をつけるのか楽しみです。高校時代に唯が「ずっとずっと放課後です」宣言をした学園祭のライヴで、そのことを証明してみせる(リフレイン)。高校の外の世界に出ても(大学生編)本当に「輝き」も「共同体」も続けていける、というアンサーを大学版ライヴで返す……というのが一番綺麗な気はしますが。

 梓代のエピソードと合流して続いたりはしないのかな。それはそれで、高校と大学で別れても共同体(放課後ティータイム)は切れない、という高校生編本編のテーマが実現してるという意味で意義があるし、一方でもう十分中心の主題は描いたので、学園祭リフレイン(でテーマも再確認)で綺麗に完結というのも良い気がしています。個人的にはアニメ三期とかも観てみたいですけどね。


けいおん!大学生編(最終回)/感想

 「大学生編」の焦点だった、恩那組(メインは晶)に代表される「やっぱり上昇志向も大事」という価値観と、放課後ティータイム(メインは唯)が引き続き担ってる「ずっとずっと放課後」という価値観と、どっちなの? というシーソーゲームの結末は、うまく相対化されて「未定」で終劇を迎えた印象でした。

 競争(対バンド)自体は恩那組が勝利し、晶も失恋しても、今度は「また髪を伸ばす」と上昇志向を捨てない。一方で唯たちは青春の輝きの象徴だった制服を纏って大学の学園祭の舞台に上がり、特に唯は「おばあちゃんになってもこのメンバーとこの衣装でバンド出来たらなぁと思っています!!」と語り、高校生編の学園祭のMC「放課後ティータイムはずっとずっと放課後です」が場所を変えても継承されているのを語ってみせる。高校生編終盤の、「絆は切れない。共同体は広げていける。"輝いた、今、ここ"はずっと延々続行していけるはず」というストーリーラインが本物だったと、同じ学園祭というステージでリフレイン演出を使って証明してみせるように。

 打ち切り少年漫画ラストのテンプレのパロディのように、「俺たちの戦いはこれからだ」的に、晶と唯の戦い(というか価値観の違い)はこれからも続いていく……というのがラストのページ。これは、少し寂しいけど、「高校生編」だけなら唯一無二の結末にしてメッセージだった、仲間の絆は切れないし、上昇志向よりもここが武道館でずっとずっと放課後だし、輝きはずっと続行できるよ、というけいおんイズムに、少し釘を刺された感じになってると思う。続編作品の一つのフォーマットで、無印編のメッセージが相対化されて終劇する流れです。確かに、漫画は理想を描くものとは言え、実際問題現実には学生時代の仲間の絆を大事に継承したまま大人として"輝いて"生きている人間というのは少ないものなので、これ以上やると胡散臭さも付きまとうようになってしまうのかもしれない(律に言わせている「それはやだよ!!」とか「もうやっとれんわ!!」なども、作者さんも抱いてるのかもしれないバランスとしてのシニカルさの反映にもみえる)。けいおんイズムも、上昇志向や競争原理の前では常に劣勢なのがリアル社会だし。

 ただ、それでも僕はある種不自由でも紐帯を切らずに一時の縁の共同体と再契約して輝きを続けられたなら……という、けいおんイズムに大変共感していた。これからの時代必要なのはこっち側じゃないかとも思ってます。なので、ラストの制服(ずっとずっと放課後の象徴)に身に着けるTシャツはさわ子先生が作ったという展開はたいへん熱かったですよ。「高校時代が終わって場所的に離れても絆は切れない」という高校生編を証明してる演出だった。高校の部室だけじゃない、街の演芸大会、ライブハウス、夏フェス、結婚式の宴会、海外(劇場版)、場所なんて関係ないよ、共同体も"輝き"も、続けていけるでしょ、というのが「高校生編」だったので。

 ゼロ年代コンテンツ史に残る金字塔であった。かきふらい先生お疲れ様でした。


けいおん! Blu-ray BOX (初回限定生産)
豊崎愛生
ポニーキャニオン
2014-03-05




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