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すごい情緒的な一話。キネマ版も傑作だなぁ。
もう、橋の欄干と瓦斯灯(ガスライト)の風景。語り合う剣心と薫の絵は「趣(おもむき)」があるという感じ。文明開化がうたわれ文明が先に進んでいく中、その流れに無謬には乗れない過去を引きずった登場人物たちがいる、というのが『るろうに剣心』の核だと思うのだけど、そういうのが十全に詰まってる場面だと思いました。灯燈(とうろう)から瓦斯灯(ガスライト)に代わっていくような文明の流れの中で、剣術も道を説く剣道に変わって行けたならと薫は語るけれど、過去を背負ってる剣心は無条件にそれを肯定できないというのは良い。薫はそれでよいけど自分は違うという剣心。新しい変化に綺麗事と表裏の理想を見られる薫と、一昔前の過去を引きずってる剣心(どちらを積極的に肯定するでもない)との、愛の構築過程の話になっていて、キネマ版は薫がえらく大人な感じの良い女性になってることもあり、たいへん良い。
進んでいく文明の流れの中のもう一つの変化は、剣から金へ、という資本主義隆盛がいよいよ日本に入ってくるという時代背景で、新しい金の力の象徴として武田観柳という登場人物を配置してるのも良い(彼も悪役的なポジションにいるけれど、大切なのはOldFashioned(昔気質な)な剣心に対する、新しい力の象徴であるという点だと思う)。弥彦が昔信じていた侍という理想も、剣心の剣術も、時代の流れの中で、金や剣道へと変わっていく、灯燈から瓦斯灯へと変わっていく中で取り残されていく類のもの、だけど……というのが『るろうに剣心』。
本編二十八巻分でやった「それでもずっと変わらない真実」というのが、ともすれば剣心個人の実存の問題に帰着していったのに対して、キネマ版は時代とか社会とか文明とか、もう少し大きいスパンでの舞台構造側にもそういうテーマが生きてる気がします。そういうしっかりとした背景がある中で、じゃあ個人としての剣心は文明の流れの方には乗れないのかもしれないけれど、その流れの先に綺麗なものを夢見る薫のまなざしが尊いのは分かるから、自分では得られないかもしれないけれどそれは守るよ、という風になっていくのかな。こういうのが、日本発のヒーローだよなぁ。いいなぁ、しみじみとカッコいいなぁ。
るろうに剣心─特筆版─ 上巻 (ジャンプコミックス)
るろうに剣心―明治剣客浪漫譚― モノクロ版 1: 巻之1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
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