まだ今年は12月中盤後半と結構日にちが残ってますが、中盤後半は冬コミ関係の更新などを多目にしたいので、例年書いてるその年ふれた作品のベスト記事を書いてしまいます。

 小説部門、漫画部門、アニメ部門などと分けて書く年が多かったですが、今年は全部混ぜてジャンルレスで、今年ふれた作品の中から良かったものを10作品選んでみました。

 例によって僕個人の感覚のランキングなのはご容赦です。
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第十位:コミックス版『僕は友達が少ない』/漫画

僕は友達が少ない 1 (MFコミックス アライブシリーズ)
僕は友達が少ない 1 (MFコミックス アライブシリーズ)

 平坂読さんの原作ライトノベルは申し訳ないことに未読でして、今年僕が触れたのはいたちさんの漫画版です。

 「友達沢山=幸せ」みたいなのはうさんくさいのではないかという前提が背後に流れているという、思わず共感してしまった作品。

 方向としては孤独を仲間パワーで乗り越えよう! というよりは、友達いなくて寂しくてもそれなりに生きていけ、な感じです。それでいいと思う。

 ちなみに第六巻ラストの演出が漫画媒体をフルに使っていて大変素晴らしく感動したので、これは興味持たれた方は紙版で六巻まで読むのがお勧め。



第九位:『久遠寺有珠』/音楽

魔法使いの夜 オリジナルサウンドトラック
魔法使いの夜 オリジナルサウンドトラック

 TYPE-MOONの新作ビジュアルノベル『魔法使いの夜』で使われているBGMの一つ。その曲名通り、登場人物、久遠寺有珠のテーマ曲。

 今年もっとも心に染み入りながら繰り返し聴いた楽曲。初体験は昨年末のまほよの体験版で、有珠が初登場する時にBGMに流れ始めるのだけど、それ以来惚れ込んでおります。

 他、「遠い疵」、「家路」、「Five」と素晴らしい楽曲満載なので、「『魔法使いの夜』の楽曲」を代表してランクインという感じで。こんだけオフボーカルの楽曲群にハマったのは久々の体験でした。



第八位:『けいおん!highschool』/漫画

けいおん!  highschool (まんがタイムKRコミックス)
けいおん! highschool (まんがタイムKRコミックス)

 ゼロ年代の金字塔、『けいおん!』の(ストーリー時系列的にもコンセプト的にも)紛れもない続編。『けいおん!college』とセットですが、漫画としての面白さは「highschool」の方が上だと感じたのでこちらをランクインで。

 「けいおん!は生き甲斐」を本当に少しだけ続行してくれたという作品。『けいおん!』読むと本当に何気ない日常が輝いてる気がしてくるので、この漫画すごいよな。

 放課後ティータイム(=唯)のフォロワーというだけでなく、梓なりの歌を見つける、というメインストーリーラインもイイ感じ。これは繰り返し読みました。



第七位:『桜流し』/音楽

桜流し [DVD]
桜流し [DVD]

 活動休止中だった宇多田ヒカルが久々に発表した曲にして、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のエンディング曲。

 昔からサイトとか見てる人は知ってる通り僕は重度の宇多田ヒカルファンなので、『Q』のラストは放心感に加えて、宇多田ヒカルがまた曲作ってくれた! という感動も味わっていたという謎のしみじみ体験でした。

 紛れもなく天才なんですが、個人的にこの曲でもう一つ何かが抜けたと感じました。日本の最高峰から、大袈裟に言うと文明がどうこうというレベルに行き始めた気がします。実際いくつかの海外のiTuneStoreでベスト5入り。「本当の」バイリンガルである本人が英語歌詞と日本語歌詞の両方をWEBで発表と、なにかもう本当にすごい。そして、そういう曲がポジティブソングじゃなくて喪失や情趣の曲であるという点が何やら誇らしいと感じてしまいます。



第六位:『るろうに剣心キネマ版』/漫画

るろうに剣心─特筆版─ 上巻 (ジャンプコミックス)
るろうに剣心─特筆版─ 上巻 (ジャンプコミックス)

 文明開化の足音が聞こえてくる明治。進んでいく文明の先に感じられるアカリと、無謬にはその流れにのれない過去を引きずった実存。そんな登場人物たちが明治期の東京で交差する。

 原典コミックス全二十八巻からして名作ですが、リビルド的作品である今回の「キネマ版」も傑作だと思います。最新話の第六幕「明治の光」がものすごく良い話。現実の世情と、時代的にリンクを感じながら読んでいる読者さんたちも多いことかと思います。あと、薫が今回はなんか大人びてえらく魅力的な女性に。和月先生の趣味を、全力投入している……。

 上述の宇多田ヒカルもですが、個人的に多感な頃に影響を受けたクリエイターさんたちが、現在進行形で素晴らしい作品を作り続けてくれているという、それがもう嬉しい。



第五位:『氷菓』/アニメーション

氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]
氷菓 限定版 第1巻 [Blu-ray]

 純粋に今年出会えて嬉しかった作品。映像が美しすぎて、作品内容も相成り、100年後とかに古典として残ってるのは京都アニメーションの美しい『氷菓』の映像なんだろうな、などと考えてしまう作品。TwitterやらのSNS隆盛やらで、言葉やテキストがフローなことに慣れてしまいがちな世情で、逆の極点から「今」をあぶり出してる、と感じた作品。折に触れて大切に観返したいよ。

 最終回のラストシーンの解釈は、「人の本当の心が伝わるのは難しい/読み解くのは難しい」を、主人公視点で回答してみせた、というもの。関谷純も、「クドリャフカの順番」の時の脚本の子も、とかく探偵の存在や推理によって、迫ったり「解体」はできるのだけど、本当の本当のその人の本心にまで触れるのは難しい、という話が多かったと思うのですが、折木奉太郎も、最後、千反田えるに本心を伝えることはできなかった、というラスト。それが、関谷純をはじめ今までの登場人物達の救済措置になっている。

 薔薇色の千反田えると、灰色の折木奉太郎、という話の主軸にもちゃんと区切りがついている。その本心を伝えられたなら、薔薇色側にいけるのに、はたから見てると行けよ! と思っちゃうんだけど、それが出来ない、それが分かる。千反田さんも千反田さんで、「今」に薔薇色的なものを志向していたのには、それなりに理由があった。物語ははじめ方と終わり方が大事で難しいとはTwitterでガンダムSEEDの福田監督が言っていたのですが、そのはじめと終わりが綺麗だったと感じた作品。

 これ、分かりやすいハッピーエンドじゃないここで終わることに作品的には意味があるんだろうけど、話の続き気になるな。米澤穂信さんには是非「10年後編」みたいなのを書いて欲しいですよ。



第四位:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』/映画

Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0"YOU CAN(NOT)REDO.
Shiro SAGISU Music from“EVANGELION 3.0"YOU CAN(NOT)REDO.

 「何かよく分からないけど凄い」、その何かよく分からない感のまま11月公開なのに2012年公開劇場映画のトップも窺うような位置に。

 本編感想の時も少し書きましたが、価値観が多様化した上での個人化で分断されがちな世情の中、共有体験としての価値だけで凄いなと思っております。とりあえず、「何か凄い」とみんなで言い合える。ライトで一時的に共有体験というのはまだけっこうあり得るかもと思うのだけど、これくらいディープで、見る人は繰り返し見る感じでこの時代に共有体験級にもっていきそうなのは凄い。

 14年ほど前のTVシリーズや旧劇場版直撃世代としては、個人的にアスカ観が更新された作品でした。もう、フィギュアとか買うならQのアスカだな(え)。Qのアスカ・真希波コンビは惚れるわー。状況が絶望的だからこそ、ああありたいんだよね、本当は。



第三位:『おジャ魔女どれみ16』/小説

おジャ魔女どれみ16 (講談社ラノベ文庫)
おジャ魔女どれみ16 (講談社ラノベ文庫)

 「失われた20年」とか「(ダメだったというようなニュアンスでの)ゼロ年代」とかがキーワードになってしまいがちな時代を、高校生になったおジャ魔女ズたちが日常で頑張る。TVシリーズ4年分の、今では一笑にふされがちになった「友情」をたよりに、時代に合わせて英語を学び、未来は暗いかもしれなくても夢を追いかけて、人と人とを繋ぎ続ける。

 一巻冒頭でがっかり感漂う状態になってたおんぷちゃんが一巻後半では立ち上がり、始終明るいももちゃんも戻ってきた第2巻が素敵。『おジャ魔女どれみ』という作品は不登校や介護といった、わりとガチの問題をTVシリーズでも正面から扱っていたのですが、今回もそういう良い意味での真摯さは続いていると感じています。ももちゃんですら、こういう世情で落ち込むこともあるんだけど、でも、スイーツを作って他者にハッピーを届けたいって、お菓子を作り続けるところとか好き。深読みし過ぎかもしれないけれど、劇中のお菓子が、余剰かもしれないけど人を幸せにするもの、みたいなものの象徴なのかもと思うんだな。だからもう余剰なメルヘンに浸ってる場合じゃないよなんて感じてしまいがちな世情だからこそ、おジャ魔女ズはお菓子を作り続けてるという話なのかと思ってみる。



第二位:『スマイルプリキュア!』/アニメーション

スマイルプリキュア!  【Blu-ray】Vol.1
スマイルプリキュア! 【Blu-ray】Vol.1

 最後の切り札はメルヘン時間を終わらせる勇気と、だけど児童時間に誰かから貰ったメルヘン的な大切な糧。ずっとそこにはいられないけれど、次の誰かにとって大切なものだと知ってるから守るよ、というようなお話。「状況がつらいからこそスマイル」というけっこう悲しいお話なんだけど、作品全体としては本当にスマイルな作風でいってるのが尊敬です。毎度作品テーマをかなりの程度自分たちも実践してるプリキュアのスタッフさんたちは凄い。

 個人的に、震災以降感じていてわりと自分としては悩んでもいた、もう娯楽に耽溺してる場合じゃないんじゃないか現実で頑張らないと感と、とは言え娯楽(メルヘン)のような文化的な営みも大切だし、というアンビバレントに回答をくれた作品。第38話の児童に戻ってしまったプリキュアズを、本人たちが気づかないところで警察官の方が見守ってるシーンは本当に色々と詰まっていて好きです。



第一位:『魔法使いの夜』/PCゲーム

魔法使いの夜 初回版
魔法使いの夜 初回版

 イギリスの産業革命から始まった消費文明は、最果ての東の島国でバブルという形で一つの具現をみる。舞台は、80年代末の、そんな喧騒の黄昏時。

 そういう舞台背景の中、象徴としては近代消費文明以降の青子、中世の有珠、そしておそらく文明以前の野である草十郎という三人の登場人物たちが、奇跡的に交差する。

 「大人になる」以前の、三者三様の星の巡りが、交わるようで交わらず、だけど大切な「時間」として紡がれていきます。第五魔法「青」(TYPE-MOON作品群的に重要なのです(^_^.)が描かれるクライマックスに作品テーマが結実していく作劇も見事。

 数年前から期待値も高かったですが、違わずに、今年出会った一生ものの作品ですね。思わず二次創作同人誌(今度の冬コミで頒布予定です)作ってしまったのも久々でしたね。本当に好きだな、この作品は。



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 と、以上な感じです。

 今年選んだのは、全体的に、厳しかったり苦しかったりが前提の中、それでもそういう中で生きていこうよみたいな話とか、あるいはそういう世情だからこそ、出会えてそっと胸の奥に染み入ってくる……みたいなのが多かった気がします。

 大きい災害もまたくるかもしれないですし、経済方面では今年のNECやパナソニックの例をあげるまでもなく、職を失ったりな人も増えそうです。個人的に見てる範囲でも、病気に介護に、厳しい状況で歩き続けてる人たちが普通にいます。そういう世情の中、そっと作り続けているよと、灯台の明りのように丁寧にしみじみと作り上げて届けてくれた作品が、今年は胸に染みたのでした。