
進撃の巨人(1) (少年マガジンKC) [コミック]
諌山創『進撃の巨人』コミックス第1巻〜第10巻の感想です。
完全にネタバレで書いてますのでアニメ版で追ってる方など注意です。
強引に一言で書いてみるなら「搾取構造」を一つは描いている作品だと思いました。強い者が、弱い者を捕食する、奪う。巨人は人間を食べるけど、昆虫は蝶を捕食するし、人間は鳥を食べる。捕食されるのが嫌だったら、強くなり捕食する側に回るしかない。そんな世界。そんな構造。そんなルール。
作品の芯は第2巻のミカサの「この世界は残酷だ…そしてとても美しい」の所で描いてしまってる気もします。上記のような捕食し、捕食されるという残酷残虐ルールの世界だからこそ、何故か命を賭して自分が捕食者(殺人者)に回ってもミカサを助けてくれたエレンと、同じく命を賭して(彼女も殺人を犯す)もエレンを守ろうとするミカサとの紐帯が美しい。劇中で語られているように、何かを成す人間というのは何かを捨てることができる人間だとして、多くのものを捨てても、守りたい他者がいるというのが美しい。それは、思考すら消えてしまって無自覚のままの捕食者になってるかのように描かれている幾多の巨人たちとは少し違う、信じるに足る何かが感じられるもの。
また、冒頭こそ捕食者、搾取者たる巨人に反逆して自由を勝ち取らんとする人間……みたいなシンプルな構造に表面的に見せつつ物語は始まるのだけど、中盤からは、人間と巨人は何らかの同系存在、つまり、叛逆する人間が、いつの間にか搾取する側の巨人になってしまい得る、という風刺的な要素に比重が多く割かれるようになっていきます。上記の「この世界は残酷」構造をそのまま受け入れて埋もれているだけでは、例え自分が強くなっても今度は自分が捕食したり搾取したりする巨人側に回るだけ。そういう意味で、巨人に変身できる人間というポジションの主人公エレンを通して、愚鈍な搾取者に堕ちてしまわない「強さ」のあり方とは何なのか? というのを描いている作品とも言えそう。
その辺り、第8巻の女型の巨人だったアニと、マルロとの会話は物語全体でも重要なシーンなんだろうな。アニは自分は悪い側だし、惰性的に流されて生きてる側だということに自覚的な旨が告白される(自由意志で思考して崇高なものを目指すのではなく、この思考しないで流されてる……という部分が、思考放棄的に描かれている大勢の巨人と重なって聴こえる)。ただその上で、人間はそういうものなんじゃないかと。そういう方が「普通の人間」なんだと。だとしたら、「良い人間」を夢想してそういう「普通の人間」を前提にしていない「構造」「システム」の方に問題があるのでは? という所まで話の射程がこの辺りから広がっていきます。
で、既刊の第10巻近辺は、その大いに疑問符が投げかけられる現行の世界の仕組み、構造に関して、クリスタの本名がヒストリアだったのが明らかになったりしつつ(やはり「歴史」をかけているのだと思う)、少しずつその成り立ちの謎が明らかになり始めている所。劇外の僕らの現実を見ても、現在理不尽と感じてる世の中のルールの多くは、僕らの世代の前に歴史的に形成されていて、僕らは現在の忙しさに流されたりしてその真相すらよく分かっていない。よく分かってない状態なんだけど、なんだか搾取だけはされてしまったりというのがよくあることなので、風刺的な作品だとも思います。あるいは、そういう世の理不尽に対して怒りを紙面に爆発させてる箇所がある点に、何かしら吸引力が発生している作品とも言えるかもしれない。
これ、二方向くらいしか向かって行く落としどころがない気がしてるのですが、世界の仕組み、謎、構造を解き明かした上で、その構造、ルールを変えてみせる! という方向までいくのか(こっちまでいったら凄い大作になると思う)。それとも、世界の残酷な構造やルール自体は変えられないけれど、例えばミカサとエレン、アルミンの紐帯のように、そんな中でも生まれてきて良かったと思えるにたる美しいもの、輝きはあり得るよねと、そっちの方に進んでいくのか。あるいはその両方なのか。
漫画としても予想の上を行かれる展開の連続で、面白かったです。「ええっ?」「どういうことっ!?」と思いながら10巻くらい一気に読んでしまう漫画というのも久々の体験。エレン、ミカサ、アルミンを中心にキャラクター達も魅力的だし、これは本当エンターテイメントだなと。少し乗り遅れた感がありますが、これはタイムリーに駆け抜けていくのを追っていきたい作品だと思ったのでした。
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